波紋、静かに鳴る
◆ 放課後・部室
ダイキ「なぁ、“ハレバレ”の子って、マジで感じいいよな!」
カズ「声で場が明るくなるタイプ。」
タクミ「でもさ、ユウの元カノなんだろ?」
ユウ「まぁ、そうだな。」
マナティ「まだ気になってたりする?」
ユウ「いや、ミナミ先輩いるし。」
マナティ「ふふ、あの“無敵のヒール音”、最強だもんね。」
笑いと沈黙の境界。
杏仁豆腐が一瞬だけ笑いを止める。
ダイキ「それ、神域ワード。」
カズ「鳴ったら負けだろ。」
タクミ「音速で振り返るもんな、あのヒール。」
教室の隅でヒナタがヘッドフォンを外す。
ヒナタ「……“無敵のヒール音”? なにそれ、笑」
笑いながらギターケースを閉じた。
留め具が小さく鳴る。
──次の放課後、それが呼び合う音になる。
⸻
◆ 翌日・昇降口
靴箱の前。
ヒナタがギターケースを肩にかける。
背後から、コツ、コツ、とヒールの音。
その音に、ふと目を上げた瞬間。
金髪の女性が歩いてくる。
ヒールが光を掠めるたび、空気が変わる。
ヒナタ(小声)「……あ、“無敵のヒール音”…」
ミナミ「……え?」
ヒナタ「なんでもないっす!」
ミナミの視線が、ヒナタの背にあるギターケースへ止まる。
わずかにまぶたが動いた。
それだけで、胸の奥に微かな波が生まれる。
──過去の音。
まだ消えていなかった。
ミナミは小さく息を整えて歩き去る。
足音が遠ざかるたび、波紋が静かに広がっていった。
⸻
◆ 放課後・音楽室
窓際。
ユウが机に肘をつき、頬杖をついていた。
視線の先、廊下を通り過ぎるミナミの姿。
ヒールの音が遠くに響く。
ほんの一瞬、眉が動いた。
何かが違う。
声も表情も変わらないのに、
彼女の“空気”だけが少し揺れていた。
ユウ「……先輩……?」
少しだけ息が詰まる。
違う、この音じゃない。
手が勝手に動く。
書きかけの譜面を破って、白紙を引き寄せる。
鉛筆が走る。
リズムが、旋律を追い抜いていく。
「……うん。」
ただそれだけ言って、
窓の外の光を見た。
ヒールの音が一度だけ響く。
その瞬間、全部が繋がった気がした。




