帰路 ― 音が辿る場所 ―
体育館の熱気は、すでに夏フェスを超えていた。
ステージ上、“ハレバレ”のヴォーカル・ヒナタがマイクを握りしめる。
「最後まで聴いてくれてありがとーっ!
音、繋げてこーぜ!」
ギターのアルペジオが空に溶け、
ライトが弦の汗を照らす。
その音は、ユウが昔好きだった“音の粒”と同じだった。
ステージ袖で聴いていたユウは、
手のひらをゆっくり掲げる。
ヒナタが降りてきて、
笑ってハイタッチ。
ヒナタ「次、頼むよ。
あんたのドラム、楽しみにしてる。」
ユウ「……期待しとけよ。」
パシッ。
手のひらがぶつかった瞬間、
過去と現在の音が交差した。
⸻
「次は――杏仁豆腐!」
司会の声とともに、
照明が爆ぜ、歓声が嵐になる。
ダイキが吠え、カズが弦を鳴らし、タクミが一歩前へ。
ユウのスティックが、光を裂いた。
⸻
帰りたい場所は見つけてる。
寄り道も回り道も多くて、
いつも遠回りしてる。
まだ帰ってる途中に。
名前なんか、まだないけど。
でも、帰りたい場所はそこって、
もう決めてるんだ。
⸻
音が立ち上がる。
体育館の床が震え、歓声が天井を打つ。
ユウのスティックが弧を描き、
ミナミのヒールが一度だけ鳴った。
──届いた。
彼女の表情が、微かにほころぶ。
光が髪をなで、
屋上の夕暮れがフラッシュバックする。
「……寄り道の景色、私も嫌いじゃない。」
音が、その記憶をなぞっていた。
⸻
ラスト一音。
スティックが空を切り裂く。
音が止まった瞬間、世界が静寂になり、
次の瞬間、歓声が爆発する。
杏仁豆腐、全員で叫んだ。
ユウ「腰!まつげ!アイライン!──原点回帰ぃぃ!!」
全員「帰るってそこかよ!!!」
笑いと熱気が混ざり合い、
体育館の天井が割れそうだった。
客席ではミナミが立ち上がり、
ゆっくりと拍手を送る。
口元には、誰よりも静かな笑み。
⸻
◆ 校門前・夕暮れ
風がまだ熱を残していた。
ユウがスティックケースを肩にかけて歩く。
ヒールの音が後ろから追いつく。
ミナミ「……帰りたい場所、ね。」
ユウ「……はい。」
ミナミ「ふふ、見失わないようにね。」
ユウ「……大丈夫っす。音、辿って帰ります。」
ミナミ「……ほんと、バカ。」
小さく笑って、歩き出す。
ヒールの音が、ドラムの余韻と重なる。
寄り道の途中で、ふたりの影が並んで伸びた。
──青春は、まだリハーサルの途中。
ここは、寄り道の続き。




