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青春ギャラクティカ  作者: 灰色ぎつね
396/403

猫の手パニック ― 血と角度の相関関係 ―


昼下がりの家庭科室。

玉ねぎと油の匂い、鉄板の音、ざわつく声。

班ごとにカレーを作る実習で、ユウはひとり奇妙なフォームを披露していた。


先生「猫の手! 指は横、横に寝かせて!」

ユウ「了解っす!(トントンッ)」

先生「だから縦ぇぇぇ!!」

タクミ「包丁に挑んでない?それ。」

カズ「Y軸から来る猫は初めて見た。」

ダイキ「進化系。多分“対刃たいじんフォーム”。」


ユウ「これが自然なんすよ! 気付いたら前向いてるんす!」

先生「前向くな!命の方向が危ういの!」

ユウ「え、でもこれ安定するんすよ!」

先生「それは“死の安定”よ!!」


班の空気が爆笑で揺れる。

ユウの手だけ、包丁の正面に向かって“縦”に添えられていた。

普通は指をX軸方向に寝かせて守る。

でもユウは奥行き方向──Y軸で押さえる。

包丁に向かっていく角度。まるで真剣勝負の居合。


先生「危ないってば! 癖なの?!」

ユウ「……多分、血っすね。」

カズ「角度に血統出るやついる?」

タクミ「DNAレベルのフォーム継承。」


調理実習が終わる頃には、ユウのまな板だけ戦場みたいに削れていた。

それでも、切った野菜は妙に整っている。

形より理屈より、筋が通っていた。



放課後。

夕飯前のキッチンから、包丁のリズムが聞こえた。

エリの背中。黒髪をまとめ、エプロンを締め、トントンと迷いのない音。


ユウ「……姉貴、それ、猫の手?」

エリ「そうよ。危ないからね。」

ユウ「いや、角度。手の向き、縦じゃね?」

エリ「これが一番安定すんの。筋、通ってるでしょ。」

ユウ「血筋って言うなよ……」

エリ「筋って言ってんじゃん。」


ふたりの手元が並ぶ。

包丁の刃に、同じ角度の光が跳ねた。

切り口の方向まで、ほとんど一致していた。


ユウ「……俺、一人分なら完璧なんすけど、人数増えるとポンコツで。」

エリ「わかる。二人目から味がブレるのよ。血だね。」

ユウ「やめてくれ、それは家系の欠陥みたいだから。」


湯気の向こうでルーが泡立つ。

同じ角度、同じ手。

先生が見たら確実に倒れる“縦猫フォーム”。

でも、家庭の音としては、なぜか完璧だった。


──危険な角度ほど、血は美しく揃う。


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