過保護なお義兄様は私を危険だからと離してくれなくて、仕方無しに執務室まで連れて行かれて、ひたすらお義兄様に代わってサインさせられました
「出来たか?」
私がピンクのドレスに着替え終わると、軍服を着たお義兄様が顔を出してくれた。
お義兄様はいつ見ても格好良いけれど、軍服を着たお義兄様は更に格好良かった。
「さあ、行こうか」
お義兄様が手を出してくれたので、私はその手を繋いだ。
お義兄様のいつもの剣だこのできた大きな手だ。
この手に繋いでもらったら怖いものなどなにもない。
私は安心して、お義兄様に連れられて、歩いて行った。
廊下には昨日の襲撃があってから、立っている騎士の数が増えた。
その歩哨している騎士たちの目礼を受けながらお義兄様と私はすすむ。
そして、お義兄様の執務室に着いた。
昨日からお義兄様は私を片時も離してくれなくなった。
どれだけ過保護なんだよ、と思わなくもなかったが。
風呂まで一緒に入ると言うのは何とか阻止したけど……
「いずれ夫婦になるんだから良いだろう!」
そう言うお義兄様に
「絶対に駄目です」
アリスが断固拒否してくれたのだ。
まあ、私の部屋のお風呂はお義兄様が壊してしまったので、お義兄様の部屋のお風呂に入ったのだが、
お義兄様は扉の近くで警戒する過保護ぶりだった。
昔は私がお義兄様について回ったから、あまり何も言えないけれど。
今も私は弟のシスと違って皇族ではなくてお母様の連れ子だったから、仕事自体は大してない。
騎士の女神の仕事が一番大きいので、最近は騎士の訓練とかそういうところに顔を出しているくらいだ。
まあ、皇太子妃ともなるといろんな仕事も増えてくるとは思うが、昔からお義兄様には良くついて行っていたから、お義兄様の隣りにいても何も問題はないはずだ。
というか、全く別行動させてもらえないんだけど……
シャロットとかと、王都に新しい店を出す計画とか、色々あったんだけど、私はしばらく手をつけられそうにない。
まあ、私が何もしなくても、シャロット等が勝手にやってくれそうだけど……
「「「おはようございます」」」
「おはよう」
「おはようございます」
皆に挨拶されてお義兄様と私が挨拶を返して執務室に入る。
「エリちゃんおはよう」
トマスさんがウインクして挨拶してくれたので、
「トマスさん、おはようございます」
私も改めて挨拶を返した。
お義兄様の部屋は昔私が良く出入りしていたままだ。
大きな部屋にお義兄様のでかい執務机もあって、周りにも多くの執務机もある。
私も空いている机の席に座ろうとしたら
「エリはこっちだ」
とお義兄様の机の前につれてこられた。
私はため息を付いて、私のイスを探す。
昔は私専用のイスがあったのだ。
お子ちゃま用の椅子が……
「ああ、エリちゃん用の椅子か」
トマスさんが取りに行こうとして
「いや、いらん」
そう言うとお義兄様が私を抱き込んでお義兄様の膝の上に座らせてくれたのだ。
「ちょっとお義兄様!」
私はお義兄様に抗議したのだ。
皆ぎょっとこちらを見ている。
「何を暴れている。ここが一番安全だ」
お義兄様が済まして答えるが、私はもう真っ赤だ。
皆唖然として見ているんだけど……
「レオン、流石にそれは若い奴らには目の毒だ」
「そうですよ。レオンハルト様。そう言うことはご自身の部屋だけでやって下さい」
トマスさんにゴーチェも文句を言ってくれる。
「ここは俺の部屋だ」
平然とお義兄様が言い返すんだけど……
「そう言う問題じゃないだろう」
トマスさんが怒って言った。
「はい、エリーゼ様」
ジェミリーさんが椅子を持ってきてくれた。
流石に昔の子供椅子では私も座れないので、普通の椅子だ。お義兄様の立派な椅子よりはシンプルな椅子だけどその方が良い。私は王女様ではなくて連れ子なんだから……
「ジェミリー!」
お義兄様の氷のような声にも、
「レオンハルト様。流石に若手の騎士の教育上宜しくありませんから」
ジェミリーさんは平然と答えてくれた。
見たら警備の新人の子らも顔を赤くして端に立っていた。
お義兄様の横に端机も出してくれたのだが、お義兄様はムッとして離して置かれた私の椅子をピッタリと自分の椅子にくっつけてくれたのたんだけど。
仕方無しにその椅子に座る。
でも、これ、机が狭くて私がいるとお義兄様は作業しにくいんじゃないのか?
そう思ってお義兄様見たら、次々と書類を読んで、私の眼の前においてくれたんだけど……
「えっ?」
私がお義兄様を見ると
「俺のサイン、エリが代わりに書いてくれ」
お義兄様は言うんだけど、
「ちょっとお義兄様。流石にそれはまずいでしょう」
私が文句を言うと、
「何を言っている! 昔、『私もサインする』って言って、俺の代わりに全部サインしたことがあったろうが」
お義兄様が言ってくれた。
「ああああ、思い出した」
そうだった。私が5歳の頃、お義兄様がサインするのを見て、私もやりたくなって言ったのだ。
私の黒歴史だった。
私としてはお義兄様が練習でしていると思ったのだ。何しろその頃はお義兄様はまだ11歳だったんだから。
それが帝国の公文書だとは思っていなかった。
でも、私の言葉を聞いて喜んでさせたお義兄様も悪いと思う。
その後、お義父様とお祖父様らに、二人して呼ばれて怒られたのだ。
あれは最悪だった。
大臣等は怒っていたけれど、特に外務卿が! 愚痴愚痴嫌味を言われて大変だった。
お義父様とお祖父様はなぜか喜んでいて、
「良いではないか。エリーゼにサインさせても。何なら、儂の代わりにサインするか?」
お義父様はとんでもないことを言い出したのだ。普通は皇帝陛下のサインを5歳の義理の娘にさせるか!
「いえ、それは」
大臣たちも慌てだした。
「陛下、陛下のサインは流石にまずいでしょう。
それよりもエリーゼは儂の実の孫ですからな。
この軍務卿のサインならば構いませんでしょう」
お祖父様まで言い出した。
「何を言う、軍務卿がよれば儂でも良かろう」
「いやいや、絶対に実の孫のサインです」
二人が馬鹿な喧嘩を始めて慌てた大臣たちを巻き込んでしまって大変だった。
「その後、父上がエリがしても俺がサインしたものとするという命令書を書いたのだ。それはまだ生きているだろう」
お義兄様がとんでもないことを言ってくれたけれど、そうだった。
お義兄様は当時から次期皇太子と目されていて、各部門の簡単な決裁書類が回されていたのだ。
今からやり直すのは大変だからと、お義父様が命令書を書いてくれたのだ。
「でも、それをまたやるのはダメでしょ」
私が言うが、
「このところいろんな事があったからな。書類が溜まっているのだ。良いだろう。なあ、トマス」
「レオンが読んで良いんなら、良いんじゃないか」
トマスさんまで言うんだけど、本当に良いのか?
私はそれからお義兄様が次々に目を通していく書類に片っ端からサインさせられたのだ。








