冷たき来訪者XVII
『美味そうな餌が二匹もいるなぁ……。ん? これは人間の匂いがする!』
妖の声、どこからか巨大な妖気が流れ込む。
その声の主は一瞬で灯真の背後に回っていた————
灯真は、すぐに後ろを振り返ると、その妖はいきなり両手を伸ばして首を取ろうとしてきた。
「私の獲物に手を出すな! っ……。なっ……」
灯真を庇って、雪菜はその妖に首を握りしめられた。
彼女は宙に浮き、もがきながらも相手の手を退かせようと必死になる。
「雪菜! おい、お前! そいつから手を退け! 雪菜は妖だぞ!」
「人間も妖も俺にとってはどうでもいいんだよ。それに妖力の弱い妖を喰って俺はさらにこの地域の王となるのさ! 貴様もそれなりに能力が高いらしいな」
全身黒の高さ六メートル程の中の上の妖だ。
「ちっ……。こいつを術で封じ込めるしか……いや、その前にどう助ければ……」
手段が多すぎて、どれを先に優先すればいいのか思考をフル回転させて、考え続ける。ショルダーバッグから書物を取り出して、しらみつぶしにどの術を使えばいいのか調べる。ぶつけ本番でリスクの少ない術など多く存在していない。
「これは驚いた。人間のくせに術の一つも出せないとは……。そこで見ているがいい。神の裁きは神によって裁かれる。妖の裁きは妖によって裁かれる。それは人間も同じだ!」
口を大きく開き、雪菜の足から口の中へと入れようとする。
息苦しい雪菜は、足元を見て最後の気力を振り絞り言い放った。
「隙ができているが、それでいいのか? 口、冷えるぞ」
狙いは定まらず、適当な場所に妖術を放った。
「ぎゃぁあああああああああああ‼」
黒の妖は、雪菜から手を放し、凍りついた口の周りを押さえながら転げまわっていた。
灯真の元へ近寄り、自ら指示を出す。
「その書物に書いてある契約の儀を私にしろ!」
「何を言っているんだ! 契約したからって何にもならないぞ! それにお前だって嫌だろ?」
「今はそんな事を言っている場合ではない! 奴の妖力は、今の私よりもはるか上だ。その上を行くには、霊力の強いお前と契約を結ぶしかないんだ!」
「契約した人と妖はその後、どうなる?」
「その先は私がお前の血や肉、骨までを全て食べ尽くすまでよ!」
雪菜の瞳は獣の目をしており、灯真はその威圧にゾッとした。
妖と妖のそれぞれのプライドの持った意思。
彼女はそれを捨ててまでもあの妖を喰おうとしているのだ。




