冷たき来訪者ⅩVIII
灯真が、一度だけですぐに理解できた術のことだ。
自分でもなんですぐに分かったのか、未だに解明できていないが、一か八かのやるしか他がない。
「分かった。これが終わったら俺の全てを雪菜に全てくれてやる! その儀式の準備ができるまでどれくらい時間を稼ぐことができる?」
「いいんだな。これが終わったら私の物になっても……」
「ああ、好きにしてくれ。終われば、契約も解除してやる」
「よかろう。良くて五分、悪くて四分だ」
「十分だ。場所は奥にある蔵の前に立っている。それまで頼むよ!」
「あの蔵だな。そうと決まれば、早く行け!」
雪菜は、氷の結界で敵の妖の動きを封じ込め、足止めをする。
急いで蔵の前に立ち、契約の儀の準備に取り掛かる。書物を開いたまま、バッグの中に偶々入っていたチョークを目にすると、手につかんでコンクリート上に陣を二重に描く。外の円と中の円の間には術に使う文字を正確に写さなければならない。
手が震え、文字が歪んだ感じをさせる。
雪の上で動き回ると、呼吸するのもつらく、体力を持っていかれる。妖はこんな気持ちにはならないのだろうか。
陣を描き終えると、両手をパンッ、と叩いて重ねた。そして、
「雪菜!」
と、彼女に合図を送る。
雪菜は頷き、敵の妖の足元と腕に分厚い氷の術を発動させ、動きを鈍らせる。
敵はもがき、抜け出そうと必死になる。
その間に、雪菜は灯真のいる方へと飛んでいき、陣の中へ納まる。
「覚悟はできおるな」
「ああ……。背を後ろにして上半身をチラッと脱いでくれ……」
「貴様、こんな状況で何をする気だ! 高貴な妖である私を恥ずかしめるつもりか!」
「違う、違う。契約を結ぶのには心臓に近いところほど成功しやすいって書いてあったんだよ。それにそこには文字を一文字書かないといけないんだ!」
灯真は、書物に書かれてあるところを指さした。
雪菜は覗き込んで、目を細めながら一字一句読み間違えずに見る。
そして、溜息をついて、悩んで、また、溜息をつく。
「これを書いた人間は、相当な奴だったんだな。」
そう言って、背を後ろにして灯真の前に立つ。上半身の心臓の所まで白い着物を脱ぎ、呼吸を整えだす。
「それじゃあ、行くぞ!」
雪菜は小さく頷く。
「我、有馬灯真は、血の盟約に従うことをここに誓う。我の血は御身の血となり、主従を結ぶ。祖は天命の授かりし者、これを破りし者は罰を与え、我を守ろうぞ! 我と契約し者よ、我と共に行こうぞ!」
陣は光り出し、強い霊力が注ぎ込まれる。そして、右手の人差し指を思いっきり自分の歯で噛み、皮膚を傷つけ血を流す。先の方まで流れ、地面に一滴ずつ落ち始める。その自分の血を雪菜の背中の左側に漢数字の一を刻み込む。




