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     冷たき来訪者XIV

 彼女の正体が何なのかは誰も知らず、そのまま雪菜と呼ぶ妖は男湯に入ると、灯真の姿が脱衣所にいないことを確認し、一からロッカーを調べるのもいいが、さっきの霊力を辿り、ロッカーを調べ当て、三十八番の場所にその霊力が残っていた。


 彼女の妖力だったらこんな鍵穴など解除するのに手間は省けない。

 すぐに中のバッグを取り出して、中身を調べ始める。


『こ、これは……。なるほど、人の子はこんな代物を持っていたのか。それは慌てるはずだ。だが、今のあ奴では、こんな難易度の高い術は使うことは出来ないだろう』


 ふっ、と笑い、そのまま中身は取らずにバッグを元の場所に戻したその時————


「やばい、やばい。タオル忘れた!」


 灯真が脱衣所にタオルを取りに来たのだ。


 思いもよらぬ出来事に雪菜は、慌ててその場から離れた。

 急いでいたせいでバッグのチャックがうまく閉まらず、開いた状態のまま戻してしまった。


「あれ? なんでバッグが開いているんだ? 確か、しっかりと閉めたはずなんだが……。妙だな。————ん? そこにいるの誰だ!」


 灯真は、強い妖力を感じた。彼自身の霊力が強いせいなのか雪菜の妖力ようりょくと共鳴し合って、感じられてしまったのだ。

 彼女は物陰ものかげに身を潜めて、出口まで灯真に見つからないように移動した。


「気のせいか……。あ……」


 周囲が灯真を不思議そうに見ていた。いきなり叫び出して、訳の分からない事を言いだした事におかしな少年だと思ったのだろう。

 灯真は顔を赤らめ、そのまま入浴しに中へ入っていった。


 焦っていた雪菜は、落ち着きを取り戻すと男湯を後にした。

 ヒトの死角となる場所まで歩いていき、そこで人の姿に戻った。


「いやいや、私の妖力がまさかあんな事で感じられるとは……これは私の妖力も弱くなってきたということかな。早く、力を取り戻さないと……」


 雪菜は、そのまま待ち合わせの場所へ歩いて行った。



 灯真が男湯から出てきたのは、それから約三十分後のことだった。


「いやー、ここの温泉は最高だよ。露天風呂からの景色もいいし、肌に伝わる原水の気持ちも良かったからな」


 そう言って、濡れた髪をここで借りたタオルで乾かしながら上がってきた。

 何の疑いもなく雪菜と話をする。

 彼女は何も言わずにただ座ったまま灯真を見上げた。


「さて、食堂にでも行こうか。今が空いているらしいよ」


 雪菜を連れて前を歩き出した灯真の後姿を見て、


「なぜ、そこまで私に優しくする……」


「うーん、なんとなくだよ。それだけじゃダメかな?」


「ふん。好きにするがいい。馬鹿者め……」


 雪菜は照れ隠しし、そっぽ向いた。

 この温泉宿の食堂は、いろんなメニューがあり、何を食べるのかを考えるのに一苦労だ。


 灯真は地元のおすすめメニューを選択し、雪菜は海鮮かいせんパスタを選択した。

 食事が来るのを店員に決められた席でしばし待った。


「あん、雪菜はこれからどうするんだ?」


「これからって?」


「これからって言ったら俺と別れた後のことだよ」


「ああ、まあ、一応、家に帰ろうと思ってはいるけど……。それにしても君の場合は、帰りたくなさそうな表情をしているわね。理由でもあるのかしら?」


 雪菜は、少しずつ話術わじゅつを組み入れながら灯真の事情を解き明かそうと小細工こざいくしかけた。

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