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     冷たき来訪者Ⅺ

 もう一つの書物は、まだ新しい雰囲気があり、やはりそれも同じ内容が書かれてあったが、字は女性が書いたように思えた。自分よりも前に誰かがこの本を見て書いたのかもしれない。

 だったらなんで、こんな所に隠されていたのだろう。


「ここに記されている術って俺には重たすぎるな……。でも、あの妖怪だけはどうにかしないと……」


 灯真は、悩みに悩んだ。

 この本を所有するか、しないか。自分の命の選択も同じだった。

 すると、蔵の隅から物音が聞こえた。そして、何か言っている。


『ダセ……。ココカラ私ヲダセ……』


 それは聞き覚えのない声だった。妖力も高く、危険だとすぐに分かった。

 薄暗い霧が、少しずつ溢れ出ている。


 もしかすると、封印ふういんされていた妖が現代に復活する前触れなのかもしれない。

 この蔵は強力な結界けっかいが張ってある。呪符じゅふを剥がさない限り、暴れることは出来ない。


「ちっ……。ここは一旦離れた方が良さそうだな」


 灯真は、本と書物、箱に入っていた呪符をすべて持って蔵の外に出た。そのまま扉を閉め、施錠せじょうをしっかりとした後、地べたに座り込んだ。

 冷たい雪が尻からじわじわ伝わってくるのが分かる。

 蔵から持ってきたものはこれだけで、呼吸が正常に戻るまでそこに座っていた。



 蔵から部屋に戻ると、灯真は決心して自分にできることが無いか古い本の中から封印の術や妖祓いについて夢中になって調べた。

 妖力の強い妖に対しての術、陣など読み続けるがさっぱり分からない。


 だが、あやかしを式にする儀式ぎしきはなぜかすぐに分かった。

 書かれている文字は何十年、何百年以上に書かれたものであり解読するのにも一苦労である。


 だが、この儀式は書物の方で書かれたものであり、文字が次から次へと浮かび上がってくる。そこから見開き六ページはすぐに理解することが出来た。


「ふぅ……。頭が痛いな。それにしてもこの難しい文字は専門の誰かに依頼するしかなさそうだけど……。いや、これは見せたらそれこそやばいかもしれないな」


 集中していたせいなのか、いつの間にか太陽が西に傾き始めていた。

 昼食も抜いていたせいか、お腹が空いた。

 美咲みさき和恵かずえもこの時間帯から段々忙しくなっていく。迷惑をかけるわけにはいかない。


 持ってきた財布の金額を確認すると、丁度、三千円と電子マネーしか入っていなかった。一階の方では、掃除機の音が響き渡っている。「温泉にでも行って来る」と言っておけば、何とかごまかせるだろうと思った。バックの中に入れておいた、ショルダーバッグに二冊の本と書物を入れ、呪符じゅふ、小さな瓶、財布を入れた後、コートを羽織って街の方まで歩いて行った。

 歩くたびに足が雪の中に少しずつ埋まっていく感触が伝わってくる。


 これでは車が移動できるかどうかも怪しい。早く除雪車じょせつしゃが来て欲しいものだ。

 街の方に出ると、門松かどまつや雪だるま、かまくらがあちらこちらにあるのが見えた。

 公園では地元の男子中学生たちが雪の壁を作り、雪合戦をしていた。この寒い冬空の下、外で遊ぶ子供たちは、そこまで珍しくもない。信号機は作動していなく、中央に警察官が台に立って行き交う車の誘導をしていた。


 灯真は、白い息を吐きながら毎年ここに来たら訪れる温泉へ向かう道を歩いていた。

 歩道を歩いていき、しばらくすると整備されていない道に入っていく。


 道端には折れた木の枝や石が転がっている。向かう先には鳥居が見えてきた。

 近づいていくと、誰かが階段で座っている。遠くからは、男か女なのかは判断しにくいが、誰かがそこで座っている。

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