冷たき来訪者Ⅹ
和恵は、何事もなかったかのようにそのまま味噌汁を飲む。
「美咲、あの子はいいんだよ。他の親戚とは違うところがあると私は思っている。あそこはあの子にとって、これから先の人生を変えるのかもしれない。知世もそう言っていただろ?」
「お母さん、知世のことは灯真には話してないよね?」
「ああ、あの子の写真や遺品は全て私の部屋の押し入れの奥にしまってある。灯真に真実を話したくないのは分かっているが……。美咲、時が来たら分かっておるな?」
「ええ、あの子にはあの子自信が知りたくなったときに話すわよ」
美咲は、少し悲しい顔をしていた。
彼と話に出てきた知世という名には何の関係があるのだろうか。
年の終わりの日の朝、不穏な空気を漂わせながら長い一日が始まろうとしていた。
× × ×
鍵をもらった灯真は、すぐに着替えてコートを羽織ると、例の蔵の前に立っていた。
「…………」
灯真は、蔵を見上げたまま改めてその大きさに驚いていた。古い建物なのに倒壊する気配など全く感じられない。
コートのポケットから鍵を取り出すと、鍵穴に通し、解除する。
扉の片方だけをゆっくりと力強く前へと押した。中は明かりが無く外から漏れる光が反射して、少しばかし見えるだけ。持ってきた懐中電灯を点けて、中の様子を確認する。
ホコリのかぶった箱が多く、夢で見た壷には動く気配がない。周りには変な妖はいないようだ。
恐る恐る中に入り、夢の中で見た古い本を探し始める。
床には消えかけてホコリかぶっている陣がそのまま残されていた。
箱の中身を調べながら札が貼ってあるものには触れないように気を付ける。箱の中には、使われていない札や何かお祓いをするのに使うような道具ばかりが入っていた。休憩なしに一時間ほど探し、一番奥に置いてある小さな木箱にその本ともう一つ見たことのない書物が置いてあった。
それを中央に持っていき、そのままにしてから外の空気を吸いに一息休憩を入れる。
「あれは一体何が書いてあるんだろう? それにしても外は寒いな……。蔵の中に入ろう」
大きなくしゃみをして、灯真はもう一度、蔵の中へ入った。
近くの木箱の表面に付着しているホコリを払い落し、古い本と書物を持って腰を掛けた。
まず、一ページ目をめくる。そこには誰かの思いが書かれていた。
「この本を次に見る者に告げる。この本を見た者は、霊力のあり、妖の視ることのできる者だと思う。私は……」
『私は、有馬家五代目当主有馬啓二。この本は、呪術、占い、契約の儀などが記してある。決して他の者には見せてはならない。ここには共に禁術の仕方が記されている。最後に、私は妖と人は分かり合えるものだと思っていなかったのかもしれない。私には式が三人いるが、それはただ契約で結ばれた仮の繋がり、これを読む君は、どう思っているのかは知らないが、もし、迷っているのであれば迷い続けるといい。迷い続ける先にきっと何かが見えてくるだろう。妖を見えることとは人と少し違うが、それは将来何かに繋がっていると私はそう思っている』
書き綴られた言葉を一語一句読み終えると、灯真はそっと閉じた。
これはあまりにも自分には扱えるものではないと思ったのだ。




