少女の秘密
「それで、なにを治したらいいんだ?」
食器を片付け終わり、一息つくと空は皐月が直して欲しい物のリストを受け取る。
「そうね大体ここに書いてあるのよ」
皐月が渡したメモには、そこそこの量の物の名前が書いてあった。
「えー、なになに。水道管にドアの建てつけと屋根の綻び…意外とあるんだな」
「嫌だったらいいんだけど…」
「いいや、構わないさ、俺を助けてくれた恩返しだ。これくらい容易いよ」
「恩返しか、ありがと」
皐月はどこか切ない表情を見せると、自分の頬を叩き何かを決めたかのように前を向いた。
空はそのことは見てはいなかった。
「私はお風呂の準備してるから、その間に治せそうなところ治しといてよ!」
少し頬の赤い皐月は何かを隠すようにその場からいなくなった。
空は自分のできる範囲の仕事を始めた。
民家の壁や屋根はどれも自然に壊れたような跡はなくそのどれもが人為的なものだった。
あるところは叩き傷、またあるところは切り傷などと誰かがこの家を破壊しようとした様子だった。
この家の様子に不信感を抱きながらも空は仕事を手早く終わらせた。
「よし、これで水道も治したし、今日はこのぐらいかな」
「終わりました?」
空は後ろからくる皐月の気配に気づかず驚いてしまった。
「うあっ!びっくりした」
「ははっ。そんなに驚くことないじゃないですか」
「ごめんごめん。で、どうしたんだ?」
「お風呂が炊けたのでお呼びしました」
「本当に何から何までありがとう」
「いいえいいんですよ。その分働いてもらってますし」
空はそうかと微笑み立ち上がる。
「着替えの服と、タオルは置いてあるのでゆっくりしていってください」
「それでは遠慮なく」
空が風呂場へ足を運ぶのを見届け皐月は食器を洗い始めた。
空が風呂場の脱衣場へ行くとそこには綺麗に畳まれた服とタオルが置いてあった。
服は洗濯したてのものであり、それは皐月が着るにはかなり大きめのものだった。
「これ誰の服だろう。まあいいか」
空はそのことなど気にせず風呂へ入る。
風呂場の中は綺麗に掃除されており、極端に広くはないものの、落ち着いた雰囲気だった。
空が湯船へ入りしばらくすると、扉の向こうから皐月の声が聞こえてくる。
「湯加減どうですか?」
「丁度いいよ」
「それは良かった、お背中お流ししましょうか?」
最後の一言に驚き湯船からでかかっていた空は足を滑らせ再び湯船へと沈んでいった。
「だ、大丈夫ですか⁉︎」
「大丈夫…それよりも皐月はゆっくりしてて、俺といて大分疲れだろ?」
「ではお言葉に甘えて、ゆっくりさせていただきます」
空は皐月がその場からいなくなることを確認すると湯船から出て体を洗い、再び湯船へ浸かる。
空は湯船へ浸かるといろいろなことを思い出していた。
それは仲間のこともあれば、これまでの旅路のこと、それに今のこの状況に至るまでのことも考えていた。
空は自分でも海斗達の元へ行かねばならないことはわかっているものの、今のこの時間が自分の中から離れずにいることもあり中々に一歩が踏み出せずにいた。
「あいつら、大丈夫かな…ダメだ、今はそれよりも目先のことからやらなきゃ」
空は自分の心に一度踏ん切りをつけ、風呂場から出た。
風呂から出ると皐月は日記のようなものをつけていた。
「何やってるんだ?」
空がその日記を覗くと皐月は驚き咄嗟にそれを隠した。
「お風呂上がったなら言ってください!それよりも乙女の秘密をそう軽々しく見ないでください!」
「悪かったから、そう殴ろうとしないでくれ」
皐月は我に帰り、一つため息をつき風呂へ入る支度を始める。
「それでは私はお風呂に入ってくるので、絶対にその日記を見ないでください!いいですね?」
「は、はい!」
「素直でよろしい」
皐月は空に喝を入れ風呂場へと入っていった。
その姿を見届け、扉の中へ入っていったことを確認すると、一つため息をつき椅子へ座り込んだ。
「怒らせたかな?それだったら本当に申し訳ないことをしたな」
空は自分の行動を深く反省していた。
「そういえばなんで、皐月はいつもバンダナ巻いてるんだ?まあ、そんなの後で聞けばいいか…っておいおい無防備すぎだろ」
空が目線を机の上にやるとそこには皐月が書いていた日記が置いてあった。
やはり見てはいけないと言われて見ないわけにはいかないと、自分の中の冒険心が荒ぶる空はその日記へ手を伸ばすも、先ほどの皐月からの喝もあり、自分の中で葛藤していた。
皐月が脱衣所へ入ると、頭につけていたバンダナを外した。
皐月の額には小ぶりではあるものの小さな角があった。
「この事なんていったらいいんだろう…」
考え事をしながら、皐月は湯船へ浸かる。
「全く、あのデリカシーのなさをのぞいたら、結構いいんだけどな…はあ…」
物思いにふけりながら、皐月は空気の泡と共に湯船へ沈んでいった。
皐月が風呂へ入ってからしばらくし、皐月は風呂場から出てきた。
皐月は頭にバンダナを巻くことを忘れていた。
「お帰り意外と長かったな」
「そう?で、読んでないでしょうね」
「大丈夫、読んでない」
空も皐月が風呂へ入っている間自分自身と葛藤していたことは言えずにいた。
空はふと皐月の方を振り返ると皐月の額に小さい二本の角があることに気がついた。
「皐月、頭に何かついてるぞ?」
「なんのこと?」
皐月が自分の頭を触るとバンダナを巻いていないことに気がつき、その場で青ざめてしまった。
「おいどうしたんだよ、顔色悪いぞ?」
「大丈夫、それよりもこれのこと話さなきゃね」
皐月は自分の額にある二本の角のことを空に話し始めた。
「実のところ、これ生まれつきついてたから自分も何かわからないの。母にはついていたけど、父にはついてなくて…」
「そうなのか…でもなんで話してくれなかったんだ?」
「それは、これを見たら君がいなくなるんじゃないかと思って…」
机を挟み向かい合わせで座る二人に緊張が走っていた。
「それに、私。一度角狩りに襲われかけたことがあったから」
「角狩り?」
「角狩りはね、私たちのような角の生えた人間の文字通り狩って売りさばく連中のこと。私たち家族は角狩りから逃げるようにしてここへきたんだけど、あいつらはここまできて、母の角を狩っていったの」
「そんなことが、それでご両親は?」
「母はそのまま連れていかれて、父は角狩りに立ち向かっていって殺された」
空はこの話を聞き、この家の損傷の理由がわかった。
そして、皐月がここで一人寂しくいたことも。
「大丈夫、俺はそんなこと気にしないよ、何せここまで来てそんなこと知らなかったからな」
「それでも、やっぱりたまに来る角狩りが怖くて…」
「そんなの気にするな、俺がいる限りは大丈夫だ。角狩りだかなんだか知らないが、俺に任せとけ」
空が立ち上がり胸を叩く姿を見て皐月は目から涙を流した。
その姿を見た空は、思わず慌ててしまった。
「おいおい、俺なんか変なこと言ったか?」
「いいや、嬉しくて、こんなこと言ってくれたの初めてだから」
「そうか、今まで辛かったな」
空の優しい一言に心打たれ皐月は再び泣き出してしまった。
それからすぐに皐月は泣き疲れその場で寝てしまった。
空は皐月に毛布をかけ自分も眠りについた。
翌日空は目を覚ますと皐月の顔は明るい笑顔に戻っていた。
空はこの笑顔を守りたいと思い布団から出た。
このあと起こることも未だ知らずに。




