その6 チープなチークとデュームなドール
息苦しさで目を覚ます。顔の上に乗っかった猫をどける。おはよ、モルト。猫を枕に乗せ階段を降りる。
「おはよう、蘭斗」
私は手をパクパクさせて挨拶する。そのまま洗面所で顔を洗う。どうせ汗かくから化粧はしない。保湿だけして髪の毛を後ろにまとめる。佐々木はどんな髪型が好きなのかな?まぁいっか。リビングに戻る。
「はい、お弁当。水筒にお茶は自分で入れてね」
頷き、水筒に麦茶を入れる。ついでに冷凍庫から凍らせたダカラにタオルを巻き付けカバンにしまう。
「今日買い物行くけど欲しいものってある?」
少し考え何も要らないと手話で伝える。
「そう、パン焼けてるよ。イチゴジャムでよかった?」
頷く。ついでにラインを開く。
『起きてる?』
彼の家がどの辺かは知らないけど朝練が始まるまでもう30分ないくらい。少し待ったけど返事はこない。また何が送ろうかと思ったけどやっぱりやめた。
手を合わせ、焼きたてのパンを食べる。おいしい。
お父さんも起きてきた。瓶に入った牛乳を私の前に置いた。
「おはよ」
私は手話でおはようと伝える。・・・佐々木にも手話覚えてって言おうかな。でも手話出来ないって言っちゃったし。
「俺手話出きるんよね!これが死ねだろ!はっはっは」
っち。やなことを思い出した。その指をへし折ったのは後悔してないけど、鬱陶しいのにしばらく絡まれた。だから私は手話が使えるのを隠すようになった。小学校の頃の私は本気で友達が作れると思ってた。喋れないってのがどれだけ異常かってのは自分が1番よくわかってなかった。でも、佐々木は私が喋れないのを知った上で下手くそな敬語で話しかけてきた。彼なら、私の友達になってくれるかもしれない。
部屋に戻り、制服に着替える。荷物を持ち家を出る。
学校までは5分もかからない。もう1度ラインを開く。まだ既読は着いてない。
学校に着いた。部室に入る。入ってきた私にみんな挨拶だけして、友達と再び話し出した。さっさと着替えて部室をでる。トラックの隅でアキレス腱を伸ばす。
「おい馬鹿ガキ」
「なんやクソジジイ」
「土曜日空けとけよ。大会の下見だ」
「えぇー土曜日はフライデーだから唐揚げ食べに行こうとしてたのに」
また馬鹿なこと言ってる。
「馬鹿だなぁ。フライデーは木曜だ」
「え?マジ?」
馬鹿なのは先生も一緒だった・・・土曜日、下見か。私はラインでお母さんとのトークを開く。
『お母さん、チーク切らしてたから買ってほしい』
『いつもの安いのでいいの?』
『やっぱ、今日私も買い物行っていい?』
『勿論』
私はスマホをバッグにしまった。
「あ、おはようさんです、山重さん」
私は手話で挨拶する。佐々木はよくわかんなそうにピースをした。




