その26 夢現のステレオ
食べ終わったゴミを袋にまとめる。
『そういえば、なんでこっち来たの?』
「えっ、嫌でした?」
『全然』
「ならよかった」
『んで、なんでなの?』
「あはは、あんまりにもぐっすりでしたから風邪とかを心配したんです」
あらお優しい。大丈夫だよと打とうとしてふと躊躇う。大丈夫って打ったら、君さ、隣の部屋に戻っちゃう?
「体は大丈夫ですか?」
『うん。十全だよ』
「したら、なにします?もう寝ます?」
『なんか話してよ』
「何が聞きたいですか?」
『君の好きなことの話』
「あはは、語らせたら長いですのよ。本の話と音楽の話、ゲームでもコーヒーでもよりどりみどりですよ」
『じゃあ、音楽の話してよ』
「いいですよ。俺はまぁ洋楽が結構好きなんですけど、洋楽を好きになったきっかけはきちんとあるんでよす」
『なに?』
「俺が中学の時、公園で遊んでたら知らない兄ちゃんに絡まれたんですよ。多分酔ってたのかな?わかんないけど」
・・・先生のことかな。
「んで、その酔っぱらいと仲良くなったんですよ。奇しくも。悔しくも。そのおっさん、よく鼻歌を歌ってたんですよ。気になって色々漁って調べたんですよ」
『なにを?』
「I beg to dream and differ from the hollow lies」
佐々木は咳払いした後、こう歌った。
『なんて曲?』
「内緒です。ファゴットって言葉は山重さんには似合いませんからね。さておき、俺は洋楽を聞くようになったんですよ」
『ふーん』
「他にも洋楽を軽く聞くようになったんですよ。俺は頭が良くないから聞いては歌詞を翻訳に打ち込んでってのを繰り返してばっかでした」
佐々木がそう言って笑った。ホテルの外ではバイクが何台もけたたましく通り過ぎた。
「・・・チッ、redneckめ」
『?』
「ああいや、忘れてください」
佐々木はベッドに寝転がった。私も同じベットの隣に寝転がる。
「・・・近いですよ」
私は赤くなった顔を見せないように背を向ける。
「・・・じゃあ、俺の大好きなdirty deeds done dirt cheapについて語りますよ。俺はパンクとかメタルとか好きだったんですけど、ACDCの低い声に初めて聞いた時はシビレて・・・」
佐々木の声を聞きながら、目を閉じた。




