その21 女心とリタリンとソーダホップ
スタートラインに立ちクラウチングスタートの構えを取る。佐々木は何も言わなかったがスタンディングスタートの構えを取った。ふん、置き去りにしてあげる。私は佐々木の準備が整ったのを見てから、思いっきり床を蹴った。ブロックがない分、少し初速は遅いけど、400mは初速より中盤の方が大事と割り切り、トップスピードに出る。体をしっかりと傾け、速度をどんどんあげる。足首にかかる負担を感じながら、曲がり切った。佐々木はぴったり横をついてきてる。私は息を止め、もっと加速する。佐々木か逃げるようにもっともっと。直線を走り切り、2回目のカーブ。佐々木はいつの間にか隣に戻っている。もう考えるのも嫌になり、走り切った。足に負担を掛けないように少しずつスピードを落としながら止まる。そのまま仰向けに寝転がった。暑い。
「っ・・・速いですね」
・・・よく言うよ。私に普通についてきた癖に。計測してないからわかんないけど、多分59秒くらいで走ったんだよ。男女差があるとは言え、軽々と走られるとちょっと凹む。
もう1周走ろうと思ったが、佐々木は困ったように上を向いた。つられてみると、今にも雨が降りそうな分厚い雲が太陽を遮ってた。
「・・・どうします?」
・・・戻ろっか。私は出口を指さす。佐々木は黙って首肯した。
更衣室で着替える。デオドランドシートで入念に拭き、更衣室を出る。やっぱり佐々木と先生は何か喋っていた。
「あ、来た来た。それでさっきは何を伝えたかったんですか?」
・・・もういいよ。私は首を横に振った。佐々木は首を傾げたけど、何も聞いてこなかった。安心したけど、私に興味がないのかなってちょっとだけ考えちゃった。
「んで山重、どうする?今新幹線に乗って戻れば多分台風で新幹線が止まる前に帰れる。台風が直撃しないことに賭けて下見を続けるか、帰るか」
『佐々木はどうしたい?』
「合わせますよ。俺は山重さんの専属マネージャーですからね」
・・・うん、じゃあ帰ろっか。危ないのは嫌だし。
『続けたい』
「・・・お前はいいんだな?佐々木」
「仰せのままに」
・・・ありがと。わがまま言ってごめんね。佐々木を見る。佐々木はなんてことなさそうに笑った。
「まだウナギ食べてませんからね」
「はっ、絶対に奢らん」
「えぇーじゃあ俺帰る」
・・・もう。




