その12 期待
「んで、呼び出した理由だけど、土曜日に会場の下見に行く」
「なんで行くんですか?」
「大会は来月とは言えど、県外だから近くの飲食店だとかホテルとかの距離、会場を軽く見る、出来そうなら少し走る。って感じだ」
「・・・え、県外?」
「ああ」
「どこです?」
「静岡だ」
「どうやってです?」
「新幹線」
「日帰りですか?」
「まぁ、その予定だがもしかしたら泊ることになる」
「なんでですか?」
「台風が近いんだ。もし土砂降りとか暴風で運行しないなら泊る。勿論、山重の個人の部費じゃあなく、全体の部費から出る」
「なんで俺と山重さんなんですか?」
「なんとなくだ」
・・・ちょっとした旅行で仲良くなれってことか。余計なお世話だけど。
「なんか必要なものは?」
「山重は走れる用意、お前は・・・メントスとコーラ、あとはトランプでも持ってきとけ」
「修学旅行かよ」
「したら、以上だ。なにか質問は?」
山重が手を挙げた。
『ご飯は?』
「ああ。到着したら適当に食べる。帰れるなら夜ご飯は駅弁だな。食べたいのを調べとけ」
『もし泊まるなら?』
「ビジホ2部屋だ」
「えぇー、俺おっさんと2人なのかよ」
「文句言うなや」
山重さんは伝えることはないと言わんばからりに手帳をポケットにしまった。
「んじゃ、呼んで悪かったな」
「あいはーい」
職員室から出る。昼放課も終わりかけだ。
『じゃあ、今日は君が部活でてきることないからまた明日』
「はいはーい。また明日っす」
教室に戻る。うーん日曜も予定はないから泊まっても泊まらなくてもいいかな。正直、結構楽しみ。
授業を聞き流し、自転車で家まで帰る。
「ただいまー」
家にはまだ誰もいないみたいだ。冷蔵庫からルイボスティーのペットボトルを直飲みする。ふぅ。制服を脱ぎ、肌着になる。途端にライン。
『店手伝い来て!』
『へいへい』
くっそ、今からゲームしよかなって思ったのに。俺はバイトの服に着替え、家を出る。
俺がバイトしてる居酒屋は、親父の親友が経営してる大きめの店舗だ。うちの前の大通りを跨いだ目の前にある。店に入ると団体客っぽいのが早くも呑んでいた。
「来ましたよー」
「マジ助かった!厨房お願い!」
厨房には注文の紙がもう10枚ほど溜まってる。うげーめんど。
「おはよ!ごめん油私やるからキャベツ切ってって!」
「はーい」
野菜室から取り出し、包丁を入れる。うーんトンカツが2つと定食1つか。半玉で十全か。手早く切り、皿に盛り付ける。
「旦那!持ってって!」
「あいよ!」
旦那さんに皿を渡し、次はトマトを薄く切っていく。冷やしトマトの次はキュウリも小口切りし、終わったら冷奴も切る。
次々揚がる串カツを皿に乗せ、旦那に渡す。渡したら次は秋刀魚からワタを抜き、グリルに入れる。
「白米!」
「あいよ」
炊けた米をお櫃に移し、また10合炊き始める。
結局、10時ギリギリまでずっと忙しかった。
「ごめんね、急に呼んじゃって」
「大丈夫っすよー」
「あい、1万ね」
「あいあーい、お疲れ様でーす」
結構疲れたなぁ。肩が痛い。親に連絡しようとスマホを取り出すと、山重さんからラインが来てる。
『明日、学校に8時集合』
『おっけーいです』
ポケットから手癖で煙草を出そうとして苦笑する。吸いたいなぁ。俺は自販機でコーラを買って家に戻った。
「ただいまー」
「おかえりー」
リビングでバイトの服のまま、恐らく俺が焼いたであろう鮎を貪る。うまいうまい。
『ねぇ、少しだけ話さない?』




