その11 野暮
「山重さんは好きな人いるんですか?」
山重さんはしばらくポケットを探して手帳を取り出した。
『いないよ。友達もいたことないし』
「えぇー本当ですか?羨望したとかないんです?」
『ないから』
「じゃあ好みのタイプ教えてくださいよ」
山重さんはしばらく紙にペンでなにか書こうとして、結局小さめの字で内緒とだけ書いた。
『じゃあ、君は?』
「俺ですか?俺の好みのタイプ・・・んー」
ちょうど俺のスマホからソフトアンドウェットが流れ出した。
「ごめんなさい、ちょっと電話です」
相手は先生だ。
「もしもーし」
「お前部室の鍵持ってるか?」
「や、持ってないですよ。山重さん、部室の鍵持ってます?」
首を横に振られた。
「俺も山重さんも持ってないですよ」
「お前ら、今2人でいるのか?」
「あ、そうですよ。飯食い終わって談笑なうです」
「したらちょうどいいから職員室来て。土曜日の日程教える」
「あいあーい向かいますよー」
通話を切る。
「山重さん、先生が呼んでるんで職員室行きましょ」
山重さんは立ち上がったけど、歩き出そうとはしない。
「山重さん?」
山重さんは黙って俺に指さした・・・あー、好みのタイプ言えってことか。
「ひたむきに努力できる人、俺かなり好きっすよ」
職員室に向かう。
「悪いな、呼び出しちゃって」
「悪いと思うならアメスピでいいですよ。山重さんはなにがお好きです?」
首を傾げられた。
「まぁ、初心者っぽいんでセッタでいいですよ」
「いなぁー発注してた灰皿、やっと届いたんか。七星、手ー出せ」
「やめぬか!ヤニカス!」
「ヤニカスで何が悪い!」
山重さんに足を蹴られた。はいはい、ふざけすぎました。
「んて、なんの用です?」
「とりあえずお前には部費を渡しておく。月5000円、これで飲み物とか靴下とか交通費を払え」
「余ったら?」
「繰り越しだ。レシートと合わんかったらマジ殺すからな」
「いやぁー信用無いなぁ。出前館の電話番号って何番かご存知ですか?」
「間違いなく110だ。今すぐ電話してこい、カツ丼が待ってる」
また蹴られた。
「てか、そんなに部費って出るんです?」
「忘れがちだけと、ここ私立だからな。高校の名前を売るために専属マネージャーって制度もある。強い選手には惜しみなく金を使うのがここの高校だ」
「じゃあ早く掃除機買ってくださいよ。いつまで箒で教室の掃除させるんすか」
「それは俺も思ってんだよなぁ。いつも予算会議で却下される」
「けっ、ばーか」
「そーだそーだ。ばーか」
山重さんは呆れたように笑った。




