第4話 「規格外と呼ばれた日」
第4話 「規格外と呼ばれた日」
「――ついて来い」
男の一言で、俺は施設の奥へと連れていかれた。
無機質な廊下が続く。
窓は一つもない。
ここが“普通じゃない場所”だってことを、嫌でも実感する。
「ここは訓練区画だ」
やがて辿り着いたのは、大きな扉の前だった。
重々しい金属製の扉。
いかにも“ヤバいものを扱ってます”って感じだ。
「中では既に準備が整っている」
男がパネルに手をかざすと、扉がゆっくりと開いた。
中に入った瞬間、空気が変わった。
広い。
体育館どころじゃない。
天井は高く、床は硬質な素材でできている。
そして――
「……なんだ、あれ」
視線の先に、人がいた。
いや、“人たち”だ。
三人。
それぞれ距離を取って立っている。
一人は、金髪の少女。
腕を組んで、つまらなさそうにこちらを見ている。
もう一人は、眼鏡をかけた細身の男。
タブレットを操作しながら、ちらりと俺を観察している。
そして最後に――
「……」
黒髪の少年。
壁にもたれかかり、目を閉じている。
だが、その存在感は妙に重かった。
「新入りか?」
金髪の少女が口を開く。
声には露骨な興味と、少しの苛立ちが混じっていた。
「また面倒なの増えたんだけど」
「落ち着け、リナ」
眼鏡の男が軽くたしなめる。
「上からの指示だ。それに……」
ちらりと俺を見る。
「今回のは“例外”らしい」
「例外?」
少女――リナが眉をひそめる。
「どういう意味?」
その問いに答えたのは、隣にいた男だった。
「彼は“最重要対象”だ」
空気が、止まった。
「……は?」
リナの声が低くなる。
「今、なんて言った?」
「最重要対象だ」
男は繰り返す。
「扱いはAランク以上。状況次第ではS指定に移行する」
「ちょっと待って」
リナが一歩前に出る。
「私たちですらAなのに、いきなりそれ?」
「前例がない」
眼鏡の男が口を挟む。
「だが、データ上はそう判断されている」
全員の視線が、俺に集まる。
正直、めちゃくちゃ居心地が悪い。
「……なんだよ」
思わず口に出る。
「俺だって意味分かってねぇんだよ」
「それはそうだろうね」
リナが鼻で笑う。
「どう見ても普通だし」
「……」
否定できないのが腹立つ。
「では、早速テストに入る」
男が場を仕切る。
「まずは基礎確認。簡易模擬戦を行う」
「模擬戦?」
嫌な予感しかしない。
「安心しろ。命の危険はない」
「その“安心しろ”信用できねぇんだよ」
思わずツッコむ。
「相手は――リナ」
男が指名する。
「は?」
リナが目を見開く。
「なんで私?」
「適任だからだ」
「いやいや、こいつ初心者でしょ?」
リナは明らかに不満そうだ。
「手加減とかめんどいんだけど」
「問題ない」
男は即答した。
「全力でやれ」
その一言で、空気が一変する。
「……へぇ」
リナの口元が、ゆっくりと歪む。
「後悔しても知らないよ?」
そう言った瞬間――
空気が揺れた。
ボッ!!
炎が、現れた。
リナの手のひらから、赤い炎が噴き出す。
「……は?」
思考が止まる。
いやいやいや、待て待て。
普通に火出してるんだけど?
「能力の一例だ」
男が横で解説する。
「彼女は熱エネルギー操作系」
「いや、説明より先に止めろよ!!」
思わず叫ぶ。
「いくよ?」
リナが軽く手を振る。
その瞬間――
炎が、飛んだ。
「――っ!!」
反射的に体が動く。
避ける。
ギリギリで、炎が頬をかすめた。
熱い。
マジで熱い。
「ちょ、ちょっと待てって!!」
「待たない」
リナは容赦なく次の炎を放つ。
「全力でやれって言われてるから」
連続で飛んでくる炎。
避けるので精一杯だ。
だが、その中で――
妙な感覚があった。
“見える”。
炎の軌道が、スローモーションのように。
どこに来るか、分かる。
「……これ」
第3話で感じた、あの感覚。
次の瞬間。
体が自然に動いた。
炎の隙間を、すり抜ける。
最短距離で――リナの懐へ。
「なっ――!?」
リナの目が見開かれる。
その顔が、はっきり見えた。
「――っ!」
そのまま、手を伸ばす。
触れる――直前。
ビキッ。
空間が、歪んだ。
「やめろ!!」
男の声が響く。
だが、もう遅い。
ドンッ!!!
見えない衝撃が、弾けた。
リナの炎が一瞬で消し飛び、空気が爆ぜる。
床にヒビが入る。
衝撃が、周囲に広がる。
「……は?」
静寂。
誰も動かない。
俺は、自分の手を見た。
何もしてない。
ただ、触れようとしただけ。
それだけなのに――
「……嘘でしょ」
リナが呟く。
さっきまでの余裕は消えていた。
「測定不能……?」
眼鏡の男が、呆然とタブレットを見る。
「出力が安定していない。いや、それどころじゃない……」
男は、ゆっくりと俺を見る。
その目には、はっきりとした確信があった。
「やはり――」
そして、静かに告げる。
「規格外だ」
その一言で、すべてが決まった気がした。
リナ可愛い




