第5話 探索
「ちょっと、あなた!」
「な、何でしょうか」
「今、シャーリーがどこにいるのか探してるんだけど、知らない!」
「すいません分りません」
「予想とか、もしくは居場所を知ってそうな誰かの情報でもいいのよ」
「本当にわかりません」
「いや、さすがにさ、同じ屋敷の住人だから知ってることくらいあるよね」
自信満々に動き出したシャルティが何かへまをするのではないかと心配して、そっと様子を見守る。
だんだんと堂々巡りになってきた会話に、シャルティの声に苛立ちの色が混じる。
ついに、メイドの少女は泣き出してしまった。
「な、泣かないでよ」
「ごめんなさい、ごめんなさい。何でもします、何でもしますから、服を脱いで裸踊りでも、土下座でも、靴でも舐めます、ですからですから……折檻だけは、折檻だけはご容赦ください!」
そのまま、シャルティはくるりと来た道を戻って来た。
「その……、ぐすっ、わ、……私。メイドに、……い、意地悪するつもりなんてなかったの」
メイドからのあんまりな対応に、今度はシャルティが泣きだしそうになっていた。
「その、どんまい」
シャルティの手を引いて、メイドの視線が通らないところまで行くと、俺はそういって、肩を優しく叩いた。
「そんな高圧的な態度で行くからダメなんだよ」
しばらく慰めた後に、何がだめだったのかを明らかにしようと反省会を開く。
「なら、あんたがお手本を見せせなさいよ」
その上から目線が気に入らなかったのか、シャルティが依頼をしてきた。
嫌だなぁ。
俺の脳裏には先ほど会話した2人組のメイドの姿がちらついた。
断りたい、でも、アドバイスまでして、やっぱ無理はなぁ。
今までの失敗を分析しよう。
とりあえず、気の弱そうな人物はダメだ。
なので、がたいがよく、気の強そうな衛兵に目を付けた。
「あの、すみません!」
先ほどのシャルティの失敗を踏まえて腰を低くして話しかける。
「坊っちゃんが俺に対して敬語!
ありえない、ありえない、ありえない!」
そうしたら、衛兵が発狂した件について。
これ、俺は一体どうすればいいんだよ。
「何かの病気ですね」
「いや違うから……」
一切光を移さない、どす黒い瞳で詰め寄られたものだから、俺は逃げだした。
「分かっていたつもりだけど、俺たちの悪評ひどすぎない!」
「話しかけただけでこれとかおかしいわよね」
「その、頑張ってwww……」
頭を抱える俺たちを見て、アルテはもう笑いを押さえるのに必死だった。
「「……」」
俺たちは黙ってうなずきあった。
「うをりゃあああぁぁぁ」
「ていやあああぁぁぁ」
「やめて、やめなさい、目が回る、って、今度は高いぃィいいいぃぃ!」
アルテが顔をのぞかせている鏡を俺がローリング。
シャルティが天高く放り上げた。
くしくも、これが初めての共同作業である。
「もう、足で探そう」
「うん」
怒りを発散し、賢者タイムに突入した俺たちは、急に冷静になって、孤独だとこんなにつらいのだなという真理に到達した。
せめて、お互いだけは協力し合おうと、目当ての人物を見つけたら報告することを約束して、別れた。
「この時間だと、ヴィルヘルムさんは庭の手入れをしているはずだ」
妹と別れてから、俺は復習がてら、原作知識を口に出して確認する。
この時俺は甘く見ていた。
どうせ、庭だ。
直ぐに見つかるだろうと考えていたのだが……、
「公爵家なめてた!」
まっすぐ歩いているだけなのに、いまだに屋敷のはてが見えない。
「疲れた、もう、疲れた!」
愚痴をこぼし、庭に植えてある大きな木の下で大の字になって倒れこんだ。
ヴィルヘルムさんをいまだに見つけられていないが、今日はこの屋敷の地理を知れたのだから十分だと言い訳する。
「まったく、こんなところでお昼寝なんていい身分ね」
その情けなさを感じているからか、アルテが煽ってくる。
「放っておいてくれないか、こっちは疲れてるんだ」
「まったく、人間はこれだから」
まだまだ煽りが続く。
むかつく。
「そもそも、この屋敷広すぎなんだよ。ヴィルヘルムさんがどこにいるのか知らないか」
「分かるわよ」
どうせこいつも知らないだろうと思ったのだが、意外な返答がやって来た。
「いったいどうして」
もしかして、神様の神通力みたいなものか?
「ネットでググった」
「神様なのに、偉く現代的だな!」
そういえば、ネット使えるって言ってたけど、そんなことまでわかるものなのか?
「ねぇねぇ、どうするどうする。清く美しいアルテ様、卑賤なわたくしめに神の英知をお授けくださいって言ってくれれば、ヴィルヘルムが今どこにいるのか教えてあげてもいいけどぉ~」
こいつうざい。
鏡をはるか遠くに放り投げたいが、相手は頼めば教えてくれると言っているのだ。
プラスマイナスでは、ギリギリプラスが勝つ。
うざいけど。
それに、こいつは鏡の中にいて手出しできないしな。
「……いや、別にいい」
「それはどうして?」
「同じ家に住んでいるんだから、放っておいても明日になれば会えるってことに気が付いたんだよ。
この調子だと、どうせシャルティの方も見つけられていないだろうしね……」
それに、お前に貸しを作りたくない。
そんな時だ、不意に鼻歌が聞こえてきたのは。
まさか!
ひょいっと、木陰に隠れると、庭の奥から、ご機嫌そうにスキップをしながらやってくるシャルティの姿が見えた。
この様子。間違いない、あいつシャーリーを見つけたな!
どうしよう、このままだと……。
『私はシャーリーを見つけたけど、あなたは』
だとか、
『半日間も人を探し回っておいて、何の成果もないとか、実は遊んでたんじゃないの?』
罵詈雑言を浴びせられた!
※イメージです。
何の成果もあげていない俺を無能呼ばわりするに違いない。
※妄想です。
なんとしても、なんとしても探さなければ!
「でもどうする、今さらヴィルヘルムさんが見つかるとは思えないんだけど……」
鏡を見る。
そこにはドヤ顔でこちらに歯を見せ笑いかけるアルテの姿がある。
やはり、うざい!
「そうだ!」
「あれ、あたしにお願いしますって言えばいいじゃない。
というか、そっちはシャルティが来た道よ」
「だからいいんだよ、この先にはシャーリーがいる」
「ああ、これから妹が弟子入りするんだから、どうか妹をよろしくお願いしますって頼みこむのね。
たった今兄妹になったばかりだというのに、意外と面倒見がいいのね」
アルテは納得いったとばかりに、ポンと手を叩いた。
「そ……、そうだよ」
「ちょっと、今の間は何?」
アルテの言葉があまりにもまっとうな物だから思わずフリーズしてしまった。
「その、本当はシャルティがやって来た方向と探索して、シャーリーさんを見つけ、これは自分の手柄だと言い張るつもりでした……」
もしシャーリーを見つけたら、最低限の働きはしたって言い分けできると思いまして……。
俺は人差し指同士をトントンとつき合わせながら、言い訳する。
「あたし知ってるわ、そういうのって世間一般では盗人猛々しいって言うんだよね」
クソ、事実なだけに反論できねぇ。
しかし、今さら足を止めるわけにもいかず、シャルティがやって来た道を進んでいく。
そして俺は魔女の家を見つけた。




