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第4話 立場交渉

 少女が疑わし気に俺を見ている。

 だからこそわからない。



 自分の顔を見たことで、記憶のピースががっしりと噛みあった。

 ここがセンベルン家が所有する別荘の一つであり、クロードは当主の息子だ。



 そんな相手にこの態度。

 というか、そもそもの話、どうしてこいつは俺を睨みつけているんだ?



「庭先で騒ぐなんて、非常識よ!」


 ごもっとも。

 あまりにも常識的な怒りに、俺は思わず納得してしまった。



 旗から見ると、俺はたった一人で庭で叫ぶおかしな人なのだから。

 世が世なら、たとえ見た目が幼い子供でも通報されかねない。




「ほら、耳をすましてみなさいよ!」



 指示に従う。

 すぐに、距離の関係で、声など聞こえるはずもないと気が付いたのだが、この体の性能がいいのだろう。

 遠くの声が聞こえて来た。




「クロード様急に叫んで一体どうしたんでしょうか」


「いつもの、気まぐれじゃないの」


「もしくは何か変なものでも食べたのか」


「いくらなんでも、それはないでしょう」




「ほら見て見なさい、あんたが変なことしたもんだからメイドたちが変な誤解をしてるじゃないの」



 思っていた以上にメイドに心配をかけたらしい。

 心配を解消するためには、今すぐに真実。

 俺は、クロードとは別人でたった今転生してきました、と告白すべきだが、できるわけねぇよな。




「あんたのせいで、こうなってるんだから責任とりなさいよ」



 少女の欲求に対して、具体的にどうしろとと俺は返した。

 動揺を鎮静化させろなんて無茶ぶりにもほどがある。




「でもさ、そうとしか考えられないのよ」


「それはどうして」


「実はね、さっきシャルティ様もクロード様と同じように突然叫び声をあげて……」


「兄妹が同じ行動を……、確かにこれは変なものを食べたせいというのもあり得るわ」




 そうこうしている間にも、噂話はヒートアップ。

 目の前の少女、シャルティの顔色もみるみると悪くなっていく。




「人のことを責めてるけど、これ半分はおまえのせいだよな」



 危ない危ない、。あと少しで冤罪をかぶせられるところだった。




「学校で習わなかったか、自分がやったことを人のせいにしてはいけませんって!」


「そんな学校の先生みたいなこと言わなくていいじゃん、こっちに来てまでさ」



「「……?」」



 つい、口から飛び出したどこかで聞いたことのあるフレーズに俺たちは固まった。




「「お前まさか、転生者か!」」


 くしくも、俺たちは同時に声をあげた。




 なお、その声は庭中に響き渡り、メイドたちは俺たちの体調不良を確信し、慌てふためいたのだが、これは余談だろう。




「久しぶりじゃない。いや、ここはさっきぶりねというべきかしら」


「まさか、アルテ様!」



 とどめは、鏡からの声だった。




「なるほど、あんたはクロードに転生したのね!

 まぁ、原作に介入したいなら一番やりやすいか。

 私こと、シャルティのように善にも悪にもいける自由度の高いキャラのほうがいいとは思うけど……」


「まて、俺はお前みたいな原作キャラ知らないぞ」



 シャルティの分析に、疑問点があったから質問した。




「俺は、お前みたいなキャラ知らねぇよ」


「なるほど、小説とかアニメしか見てないのね。

 シャルティはゲーム版で追加されたあんたの妹だけど」



 俺は水面に映る自分の顔とシャルティの顔を見比べる。

 確かに顔の輪郭が似通っているように思えた。




 そして、ゲームキャラであるのなら、顔立ちからどんな人物か推測できるだろうと思い、顔をじろじろと見つめた。



 ゲームキャラだけあって、なるほど顔がいいな。

 金髪の髪と言い、天使でもイメージしたのだろうか。


 サブカルで培った知識でこのキャラの立ち位置を想像したのだが、




「あんた責任とりなさいよ!」



 いきなりそんなこと言われて困惑してしまう。



「えっと、どういうことかな」


「私はかってに破滅するあんたを高みから観察して、破滅した後にセンベルン家の金と地位をそのまま手に入れるつもりだったのに!

 あんたが転生したせいで、その計画が台無しよ!」



 訂正。こいつは天使の顔をした悪魔だ!

 あと少しで、悪い女に騙されるところだった。





「仕方がないだろ! 元々がスペックがいい体と太い実家が欲しかっただけだったんだから」




「こういっちゃ悪いけど、性格悪くない」



 シャルティのため息が聞こえてくる。

 こちらを責めるように見つめた後、ちょっと待ってと口にしたうえで、じっと、青空を見つめた後、




「よし、あんた死になさい」



 衝撃的な発言をしてきた。



「何それ怖い。いくら何でも性格悪くない」


 それこそが、たった今兄妹になった2人がお互いに下した評価だった。




「もともとあんたはクロードに転生するつもりはなかったのよね。

 だったら、死んだことにして物語からフェードアウトするのは悪いことではないんじゃない」


「それは……そうだな」



 思わず、こいつ天才かと思ってしまった。

 アマテラスは後から干渉できないと言ってたけど、これなら何の問題もなく、危機から脱出できる。



 どうして、俺がここまでこの転生先を嫌うのか。

 それはクロウというキャラの原作での立ち位置が問題となる。


 やられやく、中ボスではあるもののクロードは人気キャラだ。

 しかし、その方向性はネタキャラとしてだ。




 召喚された勇者をだまし、自身の能力で傀儡とする。

 その魔の手を逃れたのは、自分の力を隠し役立たずと言われ王宮から追放された最後の一人のみ。



 ここまでの話を聞くと好感度が上がる要素はないと思えるかもしれないが、作者の寵愛を一身に受けているのである。





 その人気の要素というのが、ズバリ死に芸である。



 散々にヘイトを為にため込んだクロードが見っともなく命乞いをする姿をみて、俺も胸の中がスーッとしたのを覚えている。



 そのシーンの人気があまりにもすさまじく、作者が悪乗りをしたせいで、番外編でIF展開を描写しても、復活したクロードが無様に死ぬ姿が何度も描かれるほどだ。



 そういった分岐が多いキャラであるので、一つ死亡フラグを乗り越えたと判定したとしても、また別の死亡フラグが発生しかねないのだ。




「いや、でも、それもありな気がしてきた。

 なぁ、今からありったけの金貨とか財宝を家からくすねてきてくれない」


「いや、なんで私がそんなことをしないといけないのよ!」


「いいだろ、この一件で一番得をするのはおまえなんだから」


「はぁ、仕方ないわね」



 頭の中のそろばんをはじいた結果、シャル邸は俺の提案に意外にも乗り気だった。




「宝物庫に忍び込めば金貨1000枚くらい余裕ですぜ」


「お主もわるよのう」


「いえいえ、公爵様ほどでは……」


「残念だけど、それできないわよ」


 俺たちが、その場のノリで悪代官ごっこをしていると、アルテが否を突きつけて来た。




「この世界はね、まだまだ水面に浮かんだ虚像のようなものでさ、世界を安定させるためにはある程度原作という流れ、マニュアルが必要不可欠なのよ」


「つまりどういうこと」


「悪役ロールプレイをしてくれないと世界のつじつまが合わなくなって崩壊します」


「「ええええええぇぇぇっ!」」



 今明かされる、俺たちの使命の面倒くささと制約の多さにびっくらぽんだ。





「何もしないと死ぬことが確定してるのに、わざわざ虎の尾を踏み続けないといけないとか、どんなマゾゲーだ」



 生きてるけど、神は死んだと俺は吐き捨てた。



「ちょっと待って! つまり、このままだと私は主人公とその仲間に嫌がらせする悪役令嬢ルートを強制的にやらされるわけ!」



 シャルティもまた涙目になりながら鏡に詰め寄った。




「おまえなんてまだましだろ。

 話を聞く限り回心ルートがあるんだから。

 俺なんて死亡フラグの塊だぞ」



 泣きたいのはこっちの方だ。




「と、とにかくどうすれば生き残れるか考えましょうよ」



 シャルティの提案に皆が一斉に考え込んだ。



「とにかくさ、強くなるしかないんじゃない。処刑人だとか勇者だとかに敵対しても、逃げだせるだけの力をもてばいいのよ。

 最悪、この鏡の世界に避難することくらいは許可してあげるわ!」



「ありがとうございます、女神様」



 神のありがたい啓示にシャルティは本気で感謝しているらしく、腕を組みお祈りをささげている。



 こいつ大丈夫か?

 その様子を見て、俺は心配になった。

 こいつ、実はすべての元凶ぞ。

 前世で、幸運を呼ぶ壺とかを買ってないか心配になる。




「まぁ、処刑から逃れるくらいの力をつけることに関しては転生特典も、原作知識もあるんだし簡単でじゃん」


「それで逃げた後はどうするの。私としては原作主人公がうまく行くように手伝ってほしいんだけど」


「もちろん」

「ええ」



「「喜んでやるとも(わ)」」



 俺たちはお互いに見つめあい、こいつ分かってるなとうなずきあった。




「え! 手伝ってくれるの」



 アルテは私の神としての威光に目を焼かれたに違いないと、体をくねくねさせている。




「せっかく憧れのエレメンタル・サーガの世界に転生したのよ」


「単なるモブキャラ・踏み台になるつもりはない」



 お互いの胸の内を吐き出すと熱い拍手を交わしていた。



 そこには共感、興奮、熱意、情熱、劣情――、と言った魂の輝きがあった。


 きっと、俺の確信をこいつも共有していることだろう。

 間違いない、こいつ前世でオタクだったな。



 今ここに、俺たちはただの血のつながりを越えた、魂のつながりを得たのだった。




「そうと決まれば、ラブラブドキドキ個人レッスン作戦開始よ!」




「はっ?」



 こいつ正気か!

 いや、まだ聞き間違いの可能性もある。



「すまない、もう一度言ってくれ」


「だ・か・ら!

 ラブラブドキドキ個人レッスン作戦開始よ!」



 間違いではないと知っていたけど、間違いであってほしかった。



 どこまでも年頃の少女らしいファンシーな名前だが、乙女の尊厳的に絶対に口にできないだろう命名に、羞恥心を抑え込むようにガッと、自分の顔を手で押さえた。




「言ってることは分からないが、何をやりたいのかは理解できた。

 要するに、俺たちの死亡ルートをキャラの好感度を稼ぐことで潰すんだな」



 名前だけでここまでわかる俺、地味にすごくね。




 さきほど、IF、番外編でクロードには無数の死亡ルートがあることを思い出した。

 その死亡ルート全てが自業自得によるものである。

 だがだ、その死亡ルートの中にも生き残りやすいものや周囲の人間を巻き込まないものもある。



 つまり、現在の生活態度を変えることで、難易度の低いルートに進もうとしているのだ。


 この作戦……、えっと、その……。

 もう名前はいいや。

 とにかく使用人と仲良くして、下克上ルートをつぶすための案だ。




「つまり、こういうことだな」


「そうよ、分かりやすかったよね」



 と、自信満々なシャルティの分かるわけねぇだろと言いたくなった。



「でどうする、実行する」


「やだよ」


「え! どうして」


「名前がかっこ悪い」


「それね!」



 どうやら、名前のセンスというのは神様も人間も変わらないらしい。





「とりあえず、要注意人物のところに行きたいんだけど」



 とはいったものの、作戦名以外に欠点がない計画案を没にするのも忍びない。

 後でもっとふさわしい作戦名を付けるということで、同意し、それぞれが目当ての人物に出会うべく動き出した。




「確か……、この屋敷の中で原作に出てくるキャラと言えば剣鬼ヴィルヘルムと、魔女シャーリーとロイリーだったっけ」


「そうよね、あんたの悪行を通報したり、復讐を果たす正義の使徒よ!」



 大変ねあなたもと、シャルティはこちらの不幸をニマニマと笑っている。

 意地でも、俺が破滅するときになればこいつも巻き添えにしてやる。




「まだ、何の悪行もしていない状況で、そんな言いがかりをつけるのはやめてくれないか」



 とりあえず、これらの人物が今どこにいるのかを確かめることとなった。




「でもさ、いったいどこで何してるのか分かるのか」


「そんなの簡単よ、人に聞けばいいじゃない」


「それ、さっき俺もやったんだけど、メイドに泣かれちゃったんだよね」


「あり得ないわよ。見てなさい、私は美少女だから、相手にも警戒されないしね」


 任せなさいと、シャルティは白い歯をきらめかせた。


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