第2話 女神降臨
「はじめまして、不知火信二さん
俺に対して、優しく、それでいて威厳のある声で話しかけて来たのは、ぞっとするほどに美しい女だった。
黄金に輝く瞳。
それと対比するかのような白銀の髪をもつ、この世のものとは思えないほどに美しい存在。
(これが女神か……)
その姿を見ただけで、目の前にいるのが、大いなる女神であると確信できた。
「そうですか、俺はあの地震で死んだんですね」
もう死んだ記憶があるのだ。
そこに疑問はなかった。
「良子のやつは……?」
「それは……」
顔を伏せたことで、どうなったのか悟った。
「ですが大丈夫。彼女は未だ生きています」
「それって……」
「最近話題になっている、異世界転生です」
「よっしゃあああぁぁぁっ!
テンプレ展開来たあああぁぁぁっ!」
うひょうぅ! と俺は喜びのあまりおどりだした。
「ありがとう! 女神様」
「なに、あなたはか弱い女性を最悪から救うためにあがいたよき人です。
これくらいかまいませんとも」
神様、転生先であなたの宗教が根付くように頑張ります。
「転生先はエレメンタル・サーガの世界で。
ほしい能力は……、とりあえず、無限の成長能力、魔力量は無限、全属性の魔力が使えるようにして、実家はできる限り太いところがいいな。後、顔もイケメンで」
俺がこれから転生する世界はいわゆる、剣と魔法の世界である。
異世界からやって来た勇者が邪悪な魔王とに抗い世界に平和を取り戻すという王道ストーリー。
つまり、この世界で好き勝手するためには力はあればあるほどいいのである。
「念のために言っておきますが、さすがに星そのものを破壊できるほどの力はダメですよ」
「い、いやあ、さすがにそこまでは願っていませんよ」
俺はそっと顔を伏せた。
最終的には龍玉の悟〇のパワーをくださいと言うつもりでした。
「分かった分かった分かりました!
欲張りすぎはよくないということで、人類最高峰のスペックを持った肉体と、全属性の魔法適正。あと、とても強い武器さえ手に入ればそれで構いませんとも」
これならば、向こうの世界でもややオバースペックくらいのものだろう。
「……そうですね」
一瞬の間。
(これもしかしたら欲張りすぎたか……)
女神の反応から、必要最低限にとどめたつもりだったのだが、どうやらダメだったようだ。
(さて、何を削るかな)
「その程度であれば構いません」
「ありがとうやさしい女神様。転生先で、もしお金がたまったらあなたの神殿を作らせていただきます!」
俺が事故死したことから、この女神もっとちゃんと働けよと思ったけど、もういいや。
あなたは働き者で勤勉な女神さまです。
もう、一生信仰させてもらいます
「ありがとうございます、女神……」
「そういえば自己紹介がまだでしたね。
私の名前はアルテ。女神アルテです」
「では、本当にありがとうございました、女神アルテ」
「あなたの旅に、とびっきりの幸運を」
俺は黄金の光に包まれ、新たなる世界に旅立とうとしたまさにその時だった。
「なに、細部をごまかしていい話風にしてるんですかぁ!」
(な、なんだ!)
騒がしい声が、無限に広がっているかとすら思える空間に響き渡る。
やって来たのは黒髪に白い着物をまとった女だった。
髪の上には金でできた髪飾りと、整った顔立ちから、この人も女神様なんだなと俺は思った。
「この度は、誠に申し訳ありませんでしたぁ」
スパンと手にもったハリセンでアルテの頭を叩き、手で押さえ謝罪の形に持っていく。
(とりあえず、どういう状況なのか教えてくれない)
「じ、じつは……、あなたが死んだのはこの娘のせいだったのよ」
その願いはすぐにかなった。今時の神様は賽銭入れなくても願いをかなえてくれるらしい。
「はあああぁぁっ!」
というか、何それ、聞いてないんだけど!
「いや、道理でなんかめちゃくちゃ優遇してくれるなって思ったけど、そういうからくりかよ!」
「当然じゃない。なに、ただのニートがもしかして救世主にでも選ばれたと勘違いでもしちゃったわけ!」
(こいつ、さっきまで丁寧な対応だったのに!)
これが俗にいう、化けの皮がはがれたという奴だろうか。
「とにかく! あなたには責任を取ってこの失敗の隠ぺい工作をしてもらいます!」
「何で私がそんなことを」
(そうだそうだ、もっと言ってやれって……待てよ!)
今こいつ、おかしなことを言わなかったか。
「えっと、罪を裁くとかそういう訪問ではなく?」
「当然でしょう。アルテの失態を追求したとしても、私の仕事が増えるだけですから」
もう分かった。
こいつも、駄女神だ。
「私はこれより、原因不明の大量死の責任を取るといういいわけと、転生者が暮らす世界のために多くの力を使いすぎたといういいわけをもって、数100年くらいひきこもる予定なんですから」
「すごい、神話のまんまだ」
本当に日本神話ってすごいよな。
自分たちの主神が、弟の嫌がらせの結果仕事が嫌になって引き込まった結果、世界が滅びかけるんだから。
ここまで軽い理由で世界が滅びあける神話ってうちのやつくらいじゃないか。
「とりあえず、転生者の容貌を叶える形で10個くらい異世界を作ったから、その中でも本当に運営できるのかどうかわからない世界であるエレメンタル・サーガの世界にあんたは出張してきて」
「ちょっと、なんで私がそんなめんどくさいことしないといけないのよ」
「そんなの決まってるよね。
あんたが世界を構築できなかったら、他の神から、どうしてここまで成熟した世界で暴虐を働いたんだって、突き上げを食らうからよ」
「そんな、そんなことで私を馬車馬のごとくこき使おうっていうの!
私が可哀そうだと思わないの!」
俺目線だと、ざまぁとしか思わないけどな。
もちろん、空気を呼んで何も言わないけど。
「あたしはただ、寿命の管理手帳の上に飲み物をこぼしただけなのに」
ああ、大事な書類とか宿題の上に飲み物をこぼすこともよくあるよな。
俺も、一回できの悪い宿題にコーヒーをこぼして、やったのにこのせいでってごまかしたことある。
俺と良子が死んだけど、凡ミスでここまでの処分されるのもかわいそう……。
「たった、1万人ぽっちが死んだだけじゃないの!
それなのに、下界に落として働けなんてひどすぎるわ!」
「おまえええぇぇぇ!」
気が付けば俺は女神に掴みかかっていた。
これまでの人生で初めてだよ。
女を本気で殴りたいと思ったことは!
「ちょっと待て、マジで、マジで1万人死んだの」
「そりゃあそうでしょう。現世ではつじつま合わせのために地震が起きたのですから」
ひきこもり女神はごまかす気がないのか、淡々と事実だけを口にする。
「そうよ、あたしたちは日々何億って人間の加護を与えたりと忙しく立ち回ってるの、それなのにたった1万人よ、1万人。
凡ミスで、それくらいの人間が死んでも誤差じゃない」
「もっともらしいこと言ってるけど、そんなわけあるわけがねぇだろぉおおぉぉっ!
この邪神がぁ!」
異世界転生でよく突っ込まれるポイントがある。
何で、神様が人間などという下等生物を間違えて殺したくらいで、ここまで大ごとになっているのかというものだ。
実際、神話とかを見ると、神様はやりたい放題だ。
キリスト教なんて特にひどい。
でもだ、そう、でもだよ。
これはぶん殴っても許されるだろ。
だって、1万人だよ、1万人。
「なるほど……。よし、そこの男!
あなたはアルテと共に地上に行きなさい」
あの、アマテラス様。
一体何を言ってるんですか。
「ちょっと待て、どうしてそんなことを!」
「神に対して、物おじしないその姿勢を見込んだからです。
ただ送り出しても、神と人間では何もかもが違いすぎる」
まぁ、少なくとも1万人ぶっ殺して、ごめんさない、てへぺろで済ませるヤツよりは人の心を理解しているとは思いますけど!
「待ってくれ、俺にごみを押し付けないでくれよ」
「ゴミですって、あんたこの麗しき女神であるあたしをゴミって」
「うるせえ、おまえみたいな邪神と比較するなんて、生ごみにすら失礼なレベルだわ!」
「というか、そもそもの話、なんでこいつまで異世界に行くんだよ。もうさ、チート能力貰えるなら異世界行くのは文句はないよ。
だが、こいつを連れていくのは勘弁だ」
ふむ、とアマテラス様は考え込んだ。
「まぁ、それをしたとしてもエレメンタル・サーガの世界が崩壊する可能性が高まるくらいですし……あなたが望むなら、それでいいでしょう」
「ちょっと、まてぇ!」
こいつ、さっきさらっととんでもないこと言わなかったか。
「世界の崩壊ってどういうことだよ」
「そのままの意味ですよ。
まだ作成されたばかりの世界というのは存外にもろく、致命的な破綻が発生してしまうと世界そのものが崩壊するんです」
「すいません。今すぐ元いた世界に戻してもらえませんか、というか戻せよ」
ちょ、やめて、揺らすなと邪神が何やら言ってるが知ったことか。
「残念ですが、あなたを元いた世界に戻すことはできません」
「それはどうして」
まぁ、きっと神の世界にもいろいろとルールがあるんだろう。
「複数の神によって管理運営されている世界に下手に干渉すると、私の悪事が発覚し、怒られるからです!」
「こいつ最低だ」
分かってはいたけど、自分を神と名乗る奴に、ろくな奴がいねぇ。
(でも、これどうする)
邪神どものやり取りを聞いてわかったことがある。
こいつら、俺を元いた世界に戻すつもりがねぇっと。
(ここはもう流れを身に任せた方がいいんじゃないのか。
その代わりにアマテラス様からいろいろと新しい特典を貰ったほうが得かもしれない……)
こうなったら、リセットボタンをあきらめて、より確実に利益をとりに行こう。
「ええ、分かりました。
わたくしめはここにいるアルテと共に異世界を安定させるために粉骨砕身してきます」
「ちょっと、どうして勝手に決めてるのよ!」
「うせぇ! お前のせいでこんなことになったんだろ。なら、責任とれや」
「そ、それは……」
最後に、アルテは小さな声で、分かりましたとうなずいた。
「それでですね。こいつの世話をするにあたって、明確な使命を得たわけじゃないですか。
俺こいつから、まだ転生得点に武器を貰う約束をsて増司、他にもサービスがあっても……」
「ふむ、武器ですか」
アマテラス様は何やら考え込んでいるように見える。
でも、日本神話での武器ってなんだろう。
三種の神器が有名だけど……。
「ではこれを」
そういっちぇ渡されたのは、手に持っているハリセンだった。
「まて、俺がリクエストしたいのはこういうもんじゃなくて……。
欲しいのは……、聖剣エクスカリバー。
漫画とかゲームでおなじみのあれだよ!」
「はぁ、しかたありませんね」
そういって、アマテラスはどこからか出したマジックでハリセンにエクスカリバーと書いた。
「ただのハリセンにそう名付けただけで聖剣扱いとか、なめとんのか!」
「では、良い旅を!」
「ムシねぇ、まさかマジでムシなの。
追加の転生得点は一切なしなの!」
「というかさ、こいつに気を使うくらいなら、もっとあたしに気を使いなさい!
ほんのちょっぴりミスをしたあたしに対する手助けを。
具体的にはいつでも天界に返れる通路とか!」
「おまえはそのちょっぴりの規模がでかすぎるんだよ!
というか、罰則をなしにしようとしてないか、お前!」
「アルテ」
アマテラス様がこちらを呆れたように見た。
「往生際が悪いですよ」
「いやぁ~、働きたくない! 働きたくない!」
そういって、女神さまは人間みたいにじたばたともがいていく。
その腰を俺はがっしりつかんだ。
「大丈夫、俺がついてる(こんだけ無茶苦茶やっといて、一人だけ楽できるなと思うなよ)」
こうして、俺たちは光に包まれた。
「あれ、ここは……」
そして、目を覚ますとともに俺は違和感を感じた。
頑丈な石造りの建物。
豪奢かつ非常に品質がよさそうな赤いカーペット。
それだけならばまだいい。
問題があるとすれば……。
「俺はこの建物を見たことがある」
そんな既視感を感じてしまっていた。




