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第1話 そして転生へ

「あ! オタクだよね」



 その呼びかけを聞いて、ニートけんひきこもりをやっている俺、大滝葛彦おおたきくずひこ16歳は肩を震わせた。



(外に出るんじゃなかった)


 こんな風に俺を呼ぶのは学校関係者に決まってる。

 生憎と学校に良い思いがないので、関わりたくないのが本音だった。



(欲しいゲームがあったから休日に外を出たけど。

 クソ、平日に学校に通ってる皆さん、将来全く役に立たない無駄な知識を詰め込む作業ご苦労様。

 俺は悠々とゲームを買っていますって、優越感から外に出たのが失敗だった)


 自分自身の選択を酷く後悔する。



 冷や汗だらだらになりながら、できれば関りが薄いやつであってくれと願う。





「もう、なんで返事しないのよ、オタク」




 これだから、最近の若いもんは。

 誰もかれもが平然と人をバカにしたようなあだ名をつけてくる。



 俺だって、かつらをかぶってる教頭に禿げというあだ名をつけて、最終的に舌打ちされるようになったが、そこに確かに愛はあるぞ。



 すいません、見えはりました。

 本当は、ただバカにしたかっただけです。




 やだなぁ、関わりたくないなぁと思うが、近くで名前呼びだ。

 さすがに無視するのは……と思い後ろを見ると……。



「何だ、藤沢ふじさわか」



 緊張して損した。

 何せ、この相手は学校で唯一といってもいい仲が良かった相手だったからだ。




 女の名前は藤沢良子ふじさわよしこ

 俺と同じクラスの女子だ。



 身長は160くらいで、ほっそりとしつつも、女性的な体付きを持っている。


 軽くウェーブのかかった、黒髪に大きくぱっちりとした瞳から分かるように、ギャル風の恰好をした美少女だ。




 そんなスクールカースト最上位の存在が、どうして俺みたいなスクールカースト最下位とつながりがあるかというと。



「それって、もしかして、エレメンタル・サーガの最新ゲーム!」



 良子もまたオタクだからである。




 エレメンタル・サーガ。

 ここ最近、俺が気に入ったWeb小説及び、そこから派生するアニメなどのメディアミックスコンテンツである。



 俺が手にしているのは、その初ゲーム作品である。



 原作の人気が高いせいか、多数の絵師と、隠し要素など。

 ファンであればぜひこそ手を伸ばしたい要素がてんこ盛りの作品だそうだ。

 だから、良子には悪いんだが、速く家に帰ってゲームしたいんだよな。





「私それ気になってたんだけど、買えなかったんだよね。

 ねぇねぇ、オタク君の家にいって、ちょっくらプレイさせてもらってもいい」




「やだよ、せっかく新しいゲームかったんだから、もう最大限やりこんでから、それこそ、50時間くらいプレイした後なら渡してもいいけど」




「まって、最低限で50時間」



 あ! やべ。

 つい話に熱が入ったせいで、余計な事くちばしちまった。



「最低でもやりこんだと言い張るなら100時間はプレイしなさいよね!」


「そっち!」




 そうだった、こいつもオタクだった。

 でも、最低でも100時間って。

 良子が普段どんな生活を送っているのか心配になって来たぞ。

 ひきこもりのニートである俺ですら不安になるんだから相当だぞ。




「いや、オタク君も引きこもりなんだから、これくらいゲームやってるんじゃないの?」


「いやいやいや、いくら不登校児でも一日中ゲームやってるわけないから」



 お前まさか……。




「よかった。

 オタク君なら、ただ家でごろごろしてるだけだと思ったけど、学校に戻るために最低限の勉強はやってるんだね」



 いやいやいや、そっちの方が何言ってるんだ。

 どうして、一日中ゲームしてない=登校のための準備になるんだよ。

 もっとこう、やるべきことがあるだろ。

 ソーシャルメディアとか、ネットサーフィンとか!




「そもそもの話さ、男の部屋に若い女が立ち入るなんて、どういう意味を持つかくらいわかってるだろ!」



 とにかく、この話を終わらせたいので別の話題を振ってみる。




「別に、そっちの意味でとらえてくれても構わないわよ」


「……そっち、でも?」



 それって、そのムフフな展開もありってことですかい。




「憶えてる。私の机の上に落書きされた時のこと」


「あんな派手な事件忘れないよ」



 今でも思いだせる。

 俺が虐められることになったあの事件を。



 こいつの机の上にはそう、大量の罵倒の文字が並んでいた。




「本当にくだらない。

 愛と勇気の戦士プリンセスを淫売ビッチって言いやがった!

 作品を見たこともないのに、勝手なことを言うなよ!」



 エロアニメ好きだとか、ビッチ姫だとか。

 確かに、そういうシーンはあるけど!




「あれ、私をかばって言ってくれたんだよね。おかげで、私へちょっかいかけてくるやつ減ったしな」


「違うよ!

 読みも、見てもいないくせにお気に入りの作品を愚弄するやつらが許せなかったんだ!」


「そっち!」



 というか、こいつ。もしかして俺が何の見返りも求めず人を助けたとでも思ってるのか。




「いや、そもそもの話、あの時大して仲良くもなかった相手のためにそこまでする訳ないじゃん」


「うわ、薄情」



 今思いだすと黒歴史以外の何ものでもないが、これだけは胸を張って言いたい。

 一切の後悔はないと。




「あんたに感謝していた私の思いを返せ。

 でもまぁ、これなら当初の目的からずれることはないだろうからいいけど」


「なに、それ?」


「そんなのオタトークに決まってんじゃん。

 どうせあんたの部屋にはプリンセス様以外にもエッグい性癖を煮詰めたような作品とか話題作があるんでしょ。

 部屋に2人っきりとなれば、遠慮なくそういった話できるじゃん!」


「そっちかよ!」



 今度こそ、口から飛び出した余計な一言にはっとした。




「ええ、なになに、もしかして私とムフフな展開になるとでも思ってたわけ~」


 こいつ~! その通りです!




「少なくとも、今のあんた相手にはごめんね」


「まあ、そりゃあって……! まって、今のってどういうこと!」



 今ってことは、もしかして、もしかするってことなのか。




「いやね、私といてはこっちが原因で趣味の話ができる貴重な友達が学校に来なくなったっていうのは、なかなかにストレスフルなわけ。

 あんたが学校に来ないのはさみしいのよ」



 そういって、こいつは俺の胸の上に指を置いた。



「だから、学校来なよ。そしたらさ……」



 うひょおおおぉぉぉ!

 俺のテンションはマックスを突破した。





「だが、断る!」



 しかし、それはそれ、これはこれだ。




「ど、どうして!」


「そんなの簡単だよ、ニートが最高だからだよ!」


「はぁ!」



 良子は何言ってるんだこいつとでも言いたげに俺を見た。




「だってさ、ニートってまじ最高なんだよ。

 一日中ベットでゴロゴロ、それでいてご飯も飲み物も出てくるし、両親もさ、俺が虐められていたってことがあってさ、深く踏み込んできていないないし。

 いやぁ、虐められててよかったぁ!」



 俺は確信したね、この世の極楽はここにあると。




「ごめん。あんたのあだ名はオタクじゃなくて、クズだわ!」


「いや、ひどくない」



 まったく。

 俺がせっかくこの世界の真実を教えてやったというのに。




「おまえも、一回経験してみろよ。

 そしたらこう思うはずだ!

 ニート最高っと!」


「ちょっと、私今すぐあんたの家に行くわ。

 ちょっと待ってね、ビニールひもとゴミ袋買ってくるから」



 そんなものをもって人の家で何をするつもりだ!




「もしかして、俺の部屋を掃除するとかいう、お袋みたいなものをやるつもりなのか」



 まぁ、ないだろうな。




「良く分かったわね。あんたの家にある娯楽商品すべて捨ててやるから覚悟しなさい!」



 燃えている、こいつのやる気が燃え上がってやがる。




「やめろ、というかなんでそんなことするんだよ」



 まじで迷惑だからやめろ。




「放しなさい! あんたは今のままでいると制限なくダメになるから! 今すぐその性根を入れ替えろ!」



 俺たちがくだらない綱引きをやっている間に、それが起きた。





「ちょっとクズどこ触ってんのよ!」


「これは不可抗力、不可抗力だから!」




 ああ、柔らかい、いい匂い、でもそんなこと気にしてる場合じゃねぇ!



 もう、立っていられなくなり、地面に倒れこんでしまった。

 その結果、俺はこいつの胸に顔をうずめることとなっていた。




「この変態、痴漢、スケベ」


「おまえ、この状況でもそんなこと言えるなんて、案外余裕あるな」



 でもいいたい。

 地震グッジョブ!




「って、危ない」



 悪い時には悪いことが続くものだ。

 地面の表札がグラグラと揺れ動き、こちらに倒れこむ。




「あんた、一体何を」



 表札を見てからか、あるいは俺の動きがさらなるセクハラのように見えたのか。

 良子は驚きの声をあげた。




 そして、起きた。

 俺の身体を表札が潰したのである。


「な……あ…」



 最後に、こいつに話をしようとしたのだが、しかし、声を出そうと思っても声が出なかった。





「はじめまして、不知火信二さん


 意識がブラックアウトするとともに、俺の前に美しい女がいた。

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