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第17話 誘拐事件(5)

「もうお前らは詰みだ。降伏しろ」



 俺たちは同じエロ本を読んだ仲間なのだから。



「……」


「なに流されてるんだ! こいつがどれだけ言葉を口にしようとも、守衛の姿も形もねぇ」



 自信満々な俺を見て、誘拐犯の心が大きく揺さぶられる。




「今はだ。もうすぐ守衛が来るぞ。ここに先行したのは単に俺の体重が軽かったからだ」


「まじか……」



 誘拐犯の首領の表情から一気に余裕が消えた。



「だが、まだだ。おまえを人質にすりゃあ、その守衛どもも……」


「止まると思うか。生憎と、俺は嫌われていてね。

 守衛どもも、できの悪い息子が死んだら、案外清々したと思うんじゃないか。

 だから、こうもあっさりと先行で来たとも考えられる」



 さっきの説明と矛盾してるけど、これは話の流れってやつだ。

 どうか突っ込まれませんように。



「さあ、ごめんなさいするのなら、今だぞ」


「実は僕、ずっとこんなことするの間違っていると思ったんだぁ!」



 よし押し切れた。

 裏切り者も、もはやどうしようもないと悟ったのだろう。

 直接俺が語りかけたケビンが真っ先に手を頭上に掲げ、こちらに走り寄ってくる。

 変わり身の早いことで。




「はっはっはっ! こいつめえ~」



 もちろん、その返答も決まっている。


「クロード様ぁ!」

「ケビン!」



 ――甘えるなぁ!


 油断して、こちらに向かってくる、この軽薄な男の顔面を思いっきりぶん殴った。




「まさか、投降しようとする男を

殴り飛ばすなんて」


「流石は極悪貴族」



 ひそひそと村人たちが俺の行為を噂しあう。

 そこ! 聞こえてるぞ。




「てめぇ、自分に対して降伏すると言ってきた相手を平気で殴るのか!

 お前の血は何色だぁ」


 

 誘拐犯の首領でさえ、俺をびしっと指さすと、こちらを責める。




「恐ろしい、血も涙もないとはこのことか」


「分かる、おまえらもこんなのが上とか大変だな」


「私たちの苦労を分かってくれるのか」



 それどころか、誘拐犯と盗賊は仲良さそうに俺への文句を口にする始末。




「いや、どう考えてもこの状況はおかしいだろ!

 なんで俺が責められてんだ!」


「どこの世界だろうと、裏切りには罰を。それは俺たち盗賊でも違いはない」


「ならさ、考えてみろよ。ケビンはおまえらを裏切って俺に投降しようとしたんだぞ」


「はっ!」


 やはり、誘拐犯の首領はその事実を忘れていたのだろう。



「それにだ、その男はおまえらの村人の首元に刃物を突き立てたんだぞ」


「そういえば!」



 村人たちは驚愕に顔を歪ませた。




「すまん、つい頭がかっとなって」


「私たちも、つい日ごろのうっぷんが……」


「いや、何でお前ら、こいつ分かるみたいな雰囲気を醸し出してんだあああぁぁぁ!」



 こいつら、俺への反発心から、これまでの対立を忘れてやがる。




「なぁ、改めて俺たち組まねぇか。

 俺はこの男が嫌い、お前だって、日ごろからこいつにいろいろされてうっぷんがたまってんだろ」



 ――ゴクリ!


 村人たちが喉を鳴らした。

 まじ、マジで裏切ろうと思ってるわけ!



「わ、われわれはぁ、センベルン家のぜんりょうなしみんである~。おまえらとうぞくのようきゅうにくっするとおもうなぁ~」


 うわ、すっごい棒読み。



「ダメか」


「ああ」


「どうしても」


「条件次第では……」



 俺は、思わずオッケーしそうになった村人を吹き飛ばした。

 民間人に暴力をふるった形だけど、これ俺は悪くないよな。



「で、ああなりたいやつはまだいるのか……」



 村人に、ブチ切れているのを隠そうにも隠せなかったので、ひきつった笑顔を向ければ、全員が勢い良く首を横に振った。



「見たか、悪党には決して屈しない。これがセンベルン家の、俺たち領民の誇りだ!」



「げっはっはっはっ……、だが、忘れたわけじゃねえよな!

 こっちにはおまえの大切な妹が人質としているんだ」



 怒りとか屈辱で、持っている剣が震えている俺を見て、さすがに誘拐犯も哀れに思ったのか、何も言わなかった。




 空気が緩んだとはいっても、相手側にはいまだに人質がいて、こちらが不利であることに一切変わりはない。




「武器を捨てろ。

 このままだと、わざわざ助けに来た大切な妹がどうなっても知らんぞ!」


「まったく、美しさのかけらもないやからだ」



 緩んだ雰囲気から一転。

 向こうは人質の活用というクレバーな手段に訴えかけて来た。

 直に助けが来ることも分かっているので俺は剣を捨てた。




「まったく、どんなに強かろうともしょせんはガキだな!

 どうだ、大人の強さと恐ろしさを思い知ったか!」



 盗賊の頭領は己の勝利を確信した。



「ああ、もう俺にはこの状況で打つ手はない」


 盗賊に言われるがままに、俺と村人たちは地面に膝をつくこととなった。



「最後に一つだけいいか」


「何だ、ごめんなさいって自分が言う見っともない姿をみんなに見せたいとでも……」


「いいや、忠告だ。おまえは自分の手の中の女をなめすぎだ」



 はっ、と頭領が間抜け面をさらすと同時に、シャルティの手の中に合った人形が暴れだした。


 いやぁ、最初の奇襲時に爆弾と偽って人形を投げたが、それは単なるブラフ。

 本命はシャルティに人形を返すことだった。

 狙いに気が付いてくれて本当に助かった。



「いやぁ、助かったよ。正直シャルティがいなかったら、もう打つ手がなかったしね」


「まったく、あれだけおぜん立てしておいてよく言うわ、クロ……、お兄様!」



 その呼びかけを聞いた途端、俺は、ばっとファイティングポーズをとった。




「そんな呼びかけをして一体何が狙いだ」


 女が甘い顔をしてきた。

 これは美人局に違いない。


「ち、ちがうわよ、これは……、そう、助けてくれたんだし、感謝の気持ちよ」




「その思いは私たちとて同じです。この度はミセスを、皆を助けてくださり、誠にありがとうございます」


「それだけではありません。坊ちゃん、あなたの活躍をしかと拝見させていただきました」


 遅れてやって来た、守衛たちもまた、感謝の言葉を口にする


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