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第14話 誘拐事件(2)

「やっと交代の時間か、もしかしてだが5分ほど時刻を遅くしていないか」


「残念だが逆だ、5早くここに来た。ところで、何か異変はないか?」


「あるなら、暢気に会話などしてないさ」


「それもそうか」





 地平線の向こうへと、今まさに太陽が隠れ、月光とその役割を交代するのと同じように、衛兵もまた、自身の役割を交代しようとしていた。




「はぁ~」



 その会話を聞き、呆れ、ため息一つ。

 足音を響かせながら、俺は彼らの方に向かった。





「どうやら、まだ仕事中だというのに、気を抜いているようだな」



 異変が起きているというのに、全く気が付いていないその無能っぷりに、俺は呆れていた。



「「……ク、クロード様!」」



 急に現れたトップの息子に守衛たちは慌てふためいた。



 その態度を見て、一気に俺の中の怒りが吹き飛んだ。

 今ではもう、申し訳ないくらいだ。


いやさ、こんな口調だけど、俺は怒ってもいないしせめてもいないんだよ。

 実際は申し訳なさすら感じてる。

 考えてみれば、こいつらに業務外の仕事を今から与えるわけだしね。


 こいつらに何の罪もないことは分かっている。

 でも、シャルティを見つけるためだ。

 犠牲になってくれ。





「この度はどのようなご用で!」



 おずおずと守衛が質問して来た。



「シャルティがまだ帰ってきていないからな。探しに行こうと思っただけだ」


「シャルティ様が留守にするなど珍しいことではないでしょう」



 さっき聞いたけど、マジなの!

 勉強が嫌だからって、3日も放浪できるものなのか?

 そんなやつ、物語の中にしかいないだろ。

 あっ! ここ物語の世界だったな!





「心配することもないでしょう」



 ああ、もう!

 俺はただ穏便に話を持って行きたかっただけなのにぃ!

 誰も異変を異変だと築きもしない!

 今まさに俺は日ごろの行いの大切さを学んだ。

 これは人生の教訓としよう。



 だがどうする。

 誘拐犯が遠くに行ってしまえば手遅れになる。

 俺には時間がなかった。


 仕方がない……。





「この俺の命令が聞けないというのか」



 説得できないなら、脅すしかない。

 さっき、日頃の行いがどれだけ重要か学んだというのにぃ!


 しかし、シャルティのため。

 あえて俺は原作の悪徳貴族クロウのまねをすることに決めた。

 この置かないがいつか自分に返ってきませんように。





「シャルティはその口で顔を見せると誓ったにもかかわらず、誓いを無碍にした。

 故に、ピー(自主規制)して、ピー(自主規制)やったのちに、ピー(自主規制)、ピー(自主規制)してやるのだ」



「実の妹にそのようなことを」


「恐ろしい」



 良かった、良かった。

 俺の嘘を信じ、守衛たちはドン引きしてくれた。




「おまえらも、同じ目に遭いたいのか」


「す、すいません。直ぐに捜索に移ります!」



 俺がにらみつければ、2人は電光石火で敬礼。

 ダッシュで他の守衛に話を通すことになった。



(クロード様がシャルティ様にピー(自主規制)するつもりだ)


(まさか、実の妹にそのようなことを)


(ああ、だから、クロード様よりも先にシャルティ様を確保し、その怒りが収まるまで隠し通さねばならん)



 優れた聴覚が、声を拾う。

 おまえらを無能だと思っていた。でもさ、有能だよ。

 何せ、こんな悪徳貴族から、体を張って、主人の娘を守ろうとしているんだから。


 と、そこまではよかったのだが。




「大変だ、このままだとクロード様がシャルティ様にピー(自主規制)するつもりだ」


「なんて変態的なことを」


「クロウ様が妹に変体行為するために探すんだと」


「まじで!」



 いつの間にか、話は変な方向に広がり、俺は妹に変体行為を迫っているという誤解が生まれたのである。





 俺と衛兵の認識には埋めがたい差があった。

 それでも、シャルティを見つけるという一点のみは共通しているからこそ、急いで馬を走らせていた。



 人形の導きについては隠しているのに、誰も俺の向かう方向に口を挟まない。



 屋敷の中では、居残りの使用人たちが以前シャルティが隠れていた場所や、よく過ごしている場所を重点的に探しているのである。


 可能性が低い遠方に向かってくれるのはありがたいのだろうな。





「おい、人形どうした!」


 そのまま、じっくりと馬を走らせていくと、突然カバンの中に隠れていた人形が俺の脇腹をつねった。



『マスターの反応が消えた』



 あらかじめ、渡しておいたプラカードに日本語でのメッセージが記載された。



「厄介だな」



 シャルティがくれた人形には大雑把にどの方角にいるのか、今どうなっているのかの2つが分かるようになっていた。




(もしかしてだけど、結界の中に入ったのか?)



 エレメンタル・サーガの世界にはさまざまな魔法が登場する。

 攻撃、防御、回復。

 冒険の中で特になじみが深いのはこの3種類なのだが、それらに属さない、日常生活の中で助けになる補助魔法も存在する。



 その中の一つが結界だ。




 内と外とを区切ることで、相手の攻撃を防いだり、魔物から見つかりにくくしたり、外敵の侵入を妨げたりと、その用途は実にさまざまである。


 そして、人形の不調の理由を考えると、結界説が最有力だ。




 ふざけんなと、文句を言いたくなる。

 実際、これが俺が動く前だったら、さじを投げていたかもしれない。


 だが、大まかな位置はつかめた。

 ならば、逆に話は速い。


 ここらで結界が張られている場所をしらみつぶしにしていけばいい。




 そして、意識を尖らせているからこそ分かる。



「これは……結界か!」



 やや遅れて、つれてきた守衛が気が付く。


 消えたシャルティの反応と、村に貼られた結界。

 間違いない。何かつながりがあるはずだ。



「ヴィルヘルム、この結界は……」



「魔物除けでしょうね。

 多くの村落で見られるので、特に気にする必要はないかと」



 今明かされる衝撃の真実!

 あっぶねぇ!

 あとちょっとで、結界と盗賊には関係があるはずだ!

 って、ドヤ顔で見当違いな推理を披露するところだった。



 でも、この結界の管理人ならば使える情報を持っているかもしれない。

 だから、無駄足ではないはず!





「なぁ、この先について何かわからないか」



 念話でアルテに懇願した。




「まぁ、あたしは女神ですし~、簡単にできるけどさぁ~、やっぱり神が労働するならお供え物が欲しいかなって」



 こいつ、一人の人間が生きるか死ぬかの瀬戸際で、報酬を出さないと動かないってなんだよ。

 人の心解かないのか。

 ないよな、1万人殺しておいてごめんで済ませる奴だし。




「以前、簡単なことなら手伝うっていったよな」


「でも、報酬を求めないとは言ってないじゃない」


「何が欲しいんだ、具体的には?」


「やっぱり流行りの服だとか、美味しいお菓子、装飾品とかも欲しいわね」


「女神にしては偉く即物的だな」



 まぁ、自分のことしか考えないこいつらしいと言えばこいつらしいけど。



「なたら、即物的なものでないものをあなたは用意できるとでもいうつもり」


「すいません、女神様がお求めになるような代物、私では到底用意できません」



 やっべ。あと少しですさまじく厄介な語質を取られるところだった。



「よろしい。一応これも仕事の一環だから、忘れずに届けなさいよ」


「仕事なのか?」


「当然じゃない。

 新しい世界が生まれたら、その世界の文明レベルや環境を知らしめるためにサンプルを上司に送らないといけないわけ」


「おまえって、ちゃんと仕事してるんだな」



 てっきり、どこぞの引きこもりのようにぐーたらしているだけかと思っていた。




「最上級品を毎月とかは無理だけど、何か協力してくれたら、報酬を渡すくらいはしてやるよ」


「交渉成立ね」



 合意と共に、鏡が映す光景がアルテの顔から、俺が目に納めている村に移り変わる。




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