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第12話 決闘(3)

「強力な特殊能力を多数持っているけど、ハリセンだし武器としては微妙だよね」




 信じられるかこれ、さっきまでありがとうございます。このご恩は一生忘れませんって、泣いて感謝してきたんだぜ。


 うっとうしかったので、こっちのほうがありがたいけど。



「でも、今日の訓練はもういいわ」


「まぁ、そっちにもそっちの予定があるだろうしな。何をするんだ?」



 せっかくここまで来たのだ。

 本当なら、力試しの一戦くらいはしていきたいが、幼児があるのなら仕方がない。


 それに、太陽は刻々と天高くまで登っている。

 どっちみち、昼頃には一度屋敷に帰るつもりだった。


 


「予定とかはないわね。ただ私がつかれただけ」


「疲れたって、まだ何もしてなくない」


「私はね、笑いつかれたって言ってるのよ」



 ああ、酸欠寸前だったしな。

 白い泡まで口から出し、冷血女神であるアルテですら、本気で心配していたほどだった。



「それなら仕方がない。よし、帰るか……」


「いや、そんな理由で訓練を切り上げるって、アマテラスでもしないわよ」



 俺たちがあの怠惰の化身と同レベルだと!



「一体どうすればそこまで的確に、人の尊厳を踏みにじるようなことをいえるんだ、おまえは!」



 仕事をほっぽりだして、昼間からゲームをしながらせんべいをかじるような怠惰の化身と同類認定は絶対に避けねばならん。



「仕方がない、やるか」


「ええ」


 罵声を撤回すべく、俺たちは勤勉に動くこととした。





「さてと……」


 念のために、改めて周囲を見渡した。

 目で、耳で、気配で。

 その上で、人の気配がないという結論を出す。

 これならば思いっきりやれそうだ。




「さあ、人形たちよ」



 魔力がこもった手でシャルティは再度自立行動するようにプログラミングされた机型ロボットに触れる。


 それだけではない。

 私物が入ったカバンの中から人形を複数対持ち出した。



 それらは宙を浮き、姫を守る騎士のようにシャルティの周りを囲い、武器を構える。




「なるほど」



 シャルティは、前衛を配置したうえで、詠唱の時間を稼ぎ俺をしとめるつもりなのだろう。


 その戦法は悪手だぞ。




 ――パン、パン、パン。



 ハリセンが火を噴いた。

 一振りごとに、机が人形が物言わぬガラクタに戻っていく。



「え! ウソ、なんで!」



 前衛が、時間稼ぎすらできずに消え去ったのだ。

 当初予定していた詠唱時間の確保すらできず、「た、タイ……」


 大慌てで、シャルティは何か言い終える前に、ヴィルヘルムさんから教わった高速の歩法である縮地によって、距離を詰めた。



 最終的に、シャルティは防御陣地をはがされ、そろうと丸出しのへっぴり腰で防御を固めることしかできなかった。



 もちろん、俺は戦場で目を閉じるなどという愚行を戒めるべく、手薄になった腹部に重い一撃を叩きこんでやった。




「おまえの実力がこの程度なんて言わないよな」



 手の中で弄んでいるハリセンからパンパンとハリのある音が響く。




「女の子のお腹に攻撃するなんて最低!」


「はっはっはっ、敗者が言いおるわ」



 まさか敗者からの負け惜しみがこんなにも心地いいものだったなんて。


 この悔しそうな顔だけでご飯が3杯はいける。




「この冷血漢、メイドからの評判10年連続最低。

 非道、人間のクズ!」


 こ、これも敗者からの負け惜しみ。つ、辛くな……ど、ごめんやっぱりつれぇは。

 言わせておけば!




「ほらほら、あんたたち兄妹なんだから、もう少しなかよくね」



 こちらをたしなめるアルテの手にはポップコーンとコーラが握られている。



 俺はさっき、シャルティの不幸でご飯をおかずなしに食べられると思った。

 しかし、こいつは本当に俺たちの不幸を肴に飯を食っていやがる。





「さぁさぁ、あなたたちもっと頑張らないと、死の運命から逃れられないわよ。

 あたしも協力してあげるから頑張りなさい」



 分かる、分かるぞ。俺たちがいがみ合ってるのが楽しくて仕方がないんだな。


 いつまでも、高みの見物ができると思うなよ!




「なぁ、知っているか。このハリセンはさ、神の力を打ち消せるんだ」


「だから、私の自宅警備員を打ち消せたのね」


「この鏡にしても、外界を遮断する結界みたいなもんだろ、ならさ……」



 じりじりと、鏡に歩み寄っている俺を見て、さすがのアルテもあせりを見せた。




「た、確かにそれを使えばあたしにに攻撃を通せるかもしれないけど、女神への蛮行など認められるものですか」



 その手には弓矢が握られている。

 なるほど、全力で抵抗するつもりだな。



「アルテ様。確か、俺たちが死の運命から逃れるために協力してくれるんでしたよね」


「い、言ったけど……」


「なら、このハリセンが本当に神の力を打ち破れるかの実験台になれよ」



 俺とシャルティはにっこりと笑顔で語りかけた。



「言ったけど、それは勝負の審判とかの役目を請負うためであって、そんな体を張るようなことは想定も……」



「女神様。あんたも神だというのならば自分の言葉に責任を持ってくださいよ」


「ウソ、体がうごか……」


 早速、シャルティが発見した拘束機能が役に立った。

 こうして、悪は滅びたのだ。





「最終的にはグダグダになったけど、この訓練はあんたの勝利。

 そうだ、報酬として人形でもプレゼントがあるわよ」



 勝負がひと段落。

 もうすぐ昼だし、いったん屋敷に戻ろうというところでシャルティが提案してきた。




「まじで! 欲しい欲しい」


 俺の視線の先にはロボットのように変形したかっちょいい机があった。


 実は欲しいと思ってたんだ。




「そんなに喜んでくれるなんて光栄ね、はい!」



 笑顔のシャルティはたくさんのフリルが付いた服装に身を包んだ人形をプレゼントしてきた。




「えっと、これは……」


「プレゼントよ!」


「男相手にこのデザインかよ」



 欲しかったのはこれじゃなかったんだけど。




「見た目よりも、実用性を重視した結果よ。

 あんたの能力だと、自律的の動く人形は便利でよね」



「俺の能力を知って……て、当然か。エレメンタル・サーガを知っているなら」




 原作において、クロードが持っている固有魔法は最凶にして最悪とまで称される『支配』だ。




 この能力の最もチートな点は遠隔からでも操作が可能なうえで、捜査したものの動きを知覚できる点にある。



 そういった点では、自由に動ける動力を持った人形というのは俺の能力にフィットしている。




 物陰に忍ばせて情報収集。

 単純に遠隔で操作して奇襲をやってもいい。




 でも、それならば安物の市販品の方が使い勝手がいいわけで。




「俺としては、かっこいい系のデザインのほうがいいなって。あの机みたいな」


「それでもいいけど、あまりお勧めはしないわよ」



 ……?



「どうしてだ?」



 シャルティは足場に使う台座に魔力を込めた。


 すると、見る見るうちに台座は変形。かっこいいとまでは言えないが、かなり味のあるデザインとなった。




「はい、どうぞ!」


「おお、ありがとう!」



 素直に嬉しい。



「あ、でも……」


 太陽の方へとかかげ、全体を見回していると、――ポロリ。



 台座ロボの首が落ちた。




「あ、やっぱりこうなったかぁ。ごめんね、せっかくのプレゼントなのに。どうにも、これ、無理に変形させると、魔力が切れた場合もろくなちゃって」



 本当か? 本当に、ただの強度の問題か?

 いやでも、シャルティが俺を恨む理由なんて……。



 そ、そういえばさっき、笑って動けなくなっていたあいつを袋にした、でも、そんなことで脅迫まがいなこと……。



「ほら、勝利の報酬はこの人形でいいよね」


 渡された可愛らしい人形。

 だが待て、この人形はさっき武器を取り戦っていた。


 まさか、そういうこと。



 シャルティが負けたからって、そんな陰険なことするわけがない。


「いや、やっぱり……」


 ――ドサリ。


 この台座ロボだけで十分だよって、言おうとしたまさにその時だ。


 机ロボの首が今度こそ完全に落ちたのは……。




 可愛らしいお人形を受けとればいつ寝首をかかれるかわからない。



 だからと言って、台座ロボを受けとり、機嫌を損ねるわけにも……。



「ほら、もう家に帰るんでしょ。私は少し休んだらけるから」


 どうすれば角が立たない断り方ができるのか。必死に考えていたというのに。

 こいつせかしてきやがった。

 仕方ない、俺の本気を見せてやる。




「本当に申し訳ありませんでした」



 俺は脅しに屈する弱気もの。

 この軽い頭くらいいくらでも下げてやる。



「いやいや、一体なんで謝ってるのよ」


「シャルティさんが、わらって抵抗できないさなかにハリセンでめった打ちにしたこと、誠に申し訳ありませんでしたぁ!」



 これで許してくれれば楽なんだが。



「いや、違うから、これはお礼回りのためじゃ断じて……」


 クソ、とぼけやがって。

 俺が頭を下げたくらいじゃ、不足だというのか!



 仕方がない、見せてやるか。俺の伝家の宝刀。

 俺は地面に膝をついた。


「本当にすいませんでしたぁ」



 そう、これが俺の奥義。土下座だ!




「さっきから、私怒ってないって言ってるじゃない」


「分っているとも」


「断言するけど、絶対に分ってないじゃん。ねぇ、何分ってるのか、絶対怒らないから行ってみて」


「やくざは恐喝の罪から逃れるために、相手を脅すときは迂遠な言葉使いをすることを」


「あんたの中で、私ってやくざ扱いだったの」


「いえ、断じてそのようなことはございませんです」


「何なのこの人!

 急に使い慣れてない感満載の敬語使い始めて来たんですけど。

 決してこの人形は爆弾でも監視用でもなく、お礼の品だから!」


「わ~い、やったぁ~! うれしいなぁ」



 地面から起き上がりシャルティさんからの贈り物を手に取った俺はうれしさのあまり踊りだした。



「あんた、本当にそう思ってる」


 俺は全力で目を横にそらした。


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