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第11話 決闘(2)

「そのハリセンって本当にすごいよね、まさか、拘束機能まであるなんて」




「そうだ、すごいだろ」


 保有者である俺もそのような機能があるなんて夢にも思わなかった。

 使った覚えもない。




「本当にそんな機能があったせいで私の体が動かなくなったのね。

 手も足も出なかったことも仕方がない……、そう、確実に、絶対、仕方がないことなのよ!」



 こぶしを握り。シャルティは力説する。




 俺の方も俺の方で、流石に無抵抗の相手にここまでするのはあかんやろと反省していた。



 マウントを取り合っているように見えて、実際はどちらがより深く低く頭を下げるのかを競い合っているのである。





「そうだ! 何でやねんって言ってみて」


「え! 何で?」



 なんで俺がそんな恥ずかしいことをしないといけないんだよ?




「だって……そっちの方が楽し……、それが本来の使い方ですし」


「は……はぁ」


 前半の本音はあえて聞かなかったことにしよう。



「もちろん、ただの思い付きってわけではないのよ。

 制作者のことを考えたのよ」



 制作者か……、それを思えば、これは三種の神器に匹敵する宝になるのかな。



「ハリセンなんていうパーティーグッズにここまでの機能を付けたのよ。

 そこから、製作者が時間を持て余した暇人か、恐ろしいほどの凝り性か……」



 間違いなく前者だ。



「どっちにしろ、そういった人間はね隠し機能とか、無駄に手間暇を書けることが大好きなのよ」


「それは……ありそう」


「そうそう、仮に失敗しても、私があんたを笑いもの……、何のマイナスもないんだし!」


「って、本音はもう聞こえてるんだよ! いい加減にせえよ!」



 我ながら、見事なノリツッコミ。




 その時、不思議なことが起きた。

 こちらをじっと見つめるシャルティの動きが止まったのである。



「え……」

「え……」


 俺たちはポカンとしたまま見つめあった。




「僅かなヒントだけで、俺の聖剣に拘束機能があると見抜くなんて!

 拘束機能があるって言いだしたときは、内心で失態を隠すために必死に言い訳を並べてる姿を見てあざ笑ってたけど、おまえは本当ににすごいやつだ!」


「え! そこまで思ってたんだ!」



 拍手し、シャルティの健闘をたたえるも、向こうは唇をきつく噛みしめてうぃた。




「そ、そうよ。すごいでしょ!

 このままだと一生あなたが気付かなかった、ハリセンの隠された機能を発見してあげたんだから、感謝しなさい。具体的には一生私を敬いなさい」


「いや……でもな、う~ん」



 さすがに一生はきつい。




「まぁ、そうよね。そんなた……「流石に一生っていうのは厳しいが、10年くらいならおまえを敬わっても問題ない。それくらいで構わないだろうか」




「いや……あの、そこまでのこと?」


「そこまでのことだよ。拘束機能は大きな武器になる。

 生きるか死ぬかの生活を送っている俺には大きな進歩なんだ!」



 その小さな手を握り締め、感動を示すようにぶんぶんと上下に振る。

 が、ボディータッチが苦手なようで、手は振り払われた。



「いや、あの、それほどでもないっていうか」


「ああ、それとまたアマテラスに連絡してくれないか?

 他にも隠し機能がないか確認したいんだよ」


「まって……」



 俺の願いに、シャルティはなぜか待ったをかけた。

 その上で、滾々と鏡をノックする。



(ちょっと、今私はいい感じにクロードから感謝のとか、尊敬の念を勝ち取ってるのよ)


(やっぱり、拘束機能は単に口から出まかせが正解だっただけなのね)


(当たり前でしょ)


(なら、信徒のために真実を口をするのはよいことじゃない)


(……、分け前は3割でどう)


(う~ん)


(我がままね、4割で)


(もう一声)


「ああ、もう、もってけ泥棒」

(5割でどうよ)



 シャルティがふいに髪を搔きむしった。


 先ほどから、唇が僅かに震えている。

 これは、念話をしているときの癖なので、アルテと何か話しているのだろうか?



「でも残念! もうすでに連絡とってるんだなこれが」


「なら、はじめっから分け前要求すんなや」


「分け前! えっ! 何の話?」



 最終的に、良く分からなかったけど、良く分らないことが分かった。

 聞き出したいけど、今電話をしているのだろうから、後でいいや。




「アルテ何ぃ~? 今、桃〇240時間帯級やってるんだけど~」



 そして画面の向こうでは、ジャージ姿の女神の姿があった。


 もう冬でもないのに、出しっぱなしの炬燵に寝そべり、床にせんべいが落ちることも気にせずに、ぼりぼりとむさぼる姿は見ためこそ年若い乙女であるのに、おばちゃんにしか見えなかった。




「……」



 その視線が、画面の向こうの俺たちに突き刺さると、驚きから身を震わせた。



 すぐさま、鏡は暗転。

 ガタンゴトンと何やら異音が響いてくる。



 そして、20から30秒後。

 ジャージから羽衣のような衣装を着込み、アルカイックスマイルを浮かべた完全無欠な女神さまがいた。




「さあ、迷える子羊たちよ、一体何ようですか」



 きっと、電話が身内からだから気を抜いていたのだろう。

 あるよねこういうの。





「なるほど、いい加減にせえよの一言でシャルティさんの動きが止まったと……」


「ええ、そうなんです」



 アマテラスは極めて真面目な顔で相談を聞いている。

 しかし、その頬が引きつっている。


 きっと、この機能はノリと勢いでつけたものなのだろう。

 今の状態を例えるなら、自作のポエムを朗読されているようなものなのだろう。




 どうしよう、楽しい。


 いやねぇ、人の恥部だとか、無様さをさらし、それを必死に隠そうと空回りする姿を見るとつい、ね。


 もう、シャルティにいたっては頬が引きつっている。

 こいつも、裏の事情に感づいているのだろう。

 それでも、相手が初対面かつ、目上の人間だ、必死に我慢している。




(ちなみにだけど、バカにされたと知ったら、アマテラスはめんどくさいよ。

 周囲のフーリガンどもが動いたら、もうどうなるか……)


((……え!))



 念話で、驚きが共鳴した。



(弟の場合は、最終的にひげをむしり取られて、爪をはがされただけで済んだけど、人間だと、どうなるかしら……)




 ここに開幕、絶対に笑ってはいけない女神対談。

 そんなテロップが現れた気がした。




「これは私とアルテが下界の調査をしていた時、その文化を参考にしたものですから」



「ああ、あれね。

 確か私と一緒に吉〇に行った時の。

 あんた、あんまりにも笑いすぎて周囲の客から迷惑そうに思われてたよね」


「ちょっと、それはいわない約束でしょ!」




 おっと、アマテラス様のカリスマがカリチュマに変化した!

 アルテの野郎、俺たちを笑わせに来ていやがる。


 シャルティはそっと、地面の方に顔を向けた。

 大丈夫、マジで大丈夫なのか!

 笑ったらどうなるのか分かんないんだぞ!

 耐えろよ、お願いだから!




「そんな事よりも、ハリセンについての話をしましょう。

 他にも未知の機能はないんですか」



 おお上手い!

 このまま話を続けたら耐えきれないと判断し、お笑い要素のない、真面目路線にかじを切ったな。



 そして、アマテラスの方でも、これ以上墓穴を掘りたくないのか、シャルティの提案に乗って来た。




「その聖剣エクスカリバーは折檻用に作った道具」



 おっと、これで話が真面目路線に戻ると思ったら、女神が天然ボケを披露した。


 シャルティの腹筋がここからでもひきつってるのが分かる。




「そのために、いい加減にせえよなどの、相手の非を責める言葉を口にする、それに加えて、相手の行動に何らかの問題があると認識する。

 それらの条件を満たせば、この聖剣エクスカリバーは相手を拘束できるのです」


「うわ、単にいらないごみを渡しただけかと思ったけど、この聖剣エクスカリバーって結構な貴重品なんだ」



 おい、アルテ。

 お前、聖剣エクスカリバーがシャルティの笑いのツボを押さえてることわかってるだろ。

 いかん、ここは早く話を終わらせなければ。




「このように素晴らしいものをいただき感謝します」


「ええ、だってあれただのパーティーグッズ……。

 もとい、哀れな犠牲者への選別です。

 ふさわしきものの手に、聖剣エクスカリバーが渡るもの」



 今、パーティーグッズだと白状したな。

 分かっていたけど。




「では、我々には我々の都合があるので」



 これ以上話を長引かせると、シャルティの限界が先に来る。

 俺が強引に話を終わらせるのと、シャルティが限界を迎えたのはほぼ同時だった。




「あり……がどう、ありが……どう」



 こうして、笑いが収まるとシャルティは俺のズボンにしがみつき泣き出した。

 よっぽど、アマテラス様が怖かったのだろう。



「よしよし、よく耐えたな。おまえ、すげぇよ!」



 慰めるように、俺はシャルティの頭を優しくなでる。



 それからしばらくあやしていると、



「本当に、この感謝の念を何と表現していいか。

 これはもう一生の恩よ。

 困ったことがあったら何でも言って、私にできることなら何でもするから」


「いや、もういいって」



 と言っているのに、シャルティの感謝は止まらない。

 さっき、顔を引きつらせていた理由がようやくわかった。

 過度に感謝されるのはそれはそれで迷惑だ。


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