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第10話 決闘(1)

「あ~、重。おまえ、物を捨てるとき、いつか使うかも知れないって言い分けして捨てられないタイプだったろ」



 今、俺はシャルティに依頼され、家で使わなくなった家具を秘密基地に運搬していた。



「有効活用できるからいいじゃない」


「駄りうな、だから文句言いつつ運んでいる」



 こいつの能力は物体をゴーレムのように使役する力だったはずだ。




「もうさ、その能力で、机をロボットみたいに操作したらそうだ」


「はぁ~、

 私たちはいずれ逃走しないといけないかもしれないのよ。

 能力を見て、個人を特定される可能性もある。

 だから、奥の手は必ず隠さないといけないのよ」



 正論だ。

 安全面を考えればベストな選択だ。しかし、人間というのは今が楽であればそれでいいと考える生物だ。

 大変な目にあっている今の俺は、そのいつかなど考慮せず、さっさと力を使ってしまえと言うのが本音になっていた。


 もし、逆の立場だったら。

 間違いなく、妹に机の運搬をやらせていただろうけど。

 だって、俺疲れないしな。





「さて、ここいらでいつかの約束を果たしましょうか」


 これにて依頼は完了。

 今度は提案を実行することになる。



 つまり、手合わせである。

 俺たちは一週間分のおやつをかけ、対決することを誓い合った。

 その制約は、ヴィルヘルムの卑劣なる罰則のせいで、ご破算となった。



だが、せっかく転生して、チートまで持っているのだ。

 男なら、いや、それがたとえ女であろうとも、力を腐らせるままにできるだろうか、いや、できるはずがない。



 証拠に、前世ではろくに喧嘩したことがない2人が、決闘ごっこを楽しみにしているのだ。




「ここ、前に来た時よりも小物が増えてるよな」



 俺はたまに。

 シャルティは頻繁にここを訪れているようだ。



 前来た時は生活感がまるでない殺風景な部屋だったが、今では花瓶に人形、シートなりといった小物類が敷き詰められている。



「良くここまでの小物類集められたな。

 ゴミ捨て場にある者なんて、公爵令嬢があさっているのを見られたら大目玉だろうに」


「それなら簡単よ。

 私が能力でお人形さんを動かして、使えそうなものを回収したり、ひとりでにここに来るように誘導してるんだから」


「さっき、人目を気にして能力を使うなっていったよな」



 くだらないことに、能力を使ってんじゃねぇ。





「だ、大丈夫よ。私の能力は小物類に関してはステルス性能高いから」



 試しに人形に指を向け捜査すると、器用なことに横向きに転がっている。

 これなら、風に飛ばされている風に見えるかもしれない。




「大物でも動かさなければいけるのよ」



 今度は俺が運んできた机に手をかざす。

 魔力の流れから何かをしたことは分かるものの、能力を起動させていないのか。

 そこには一切の動きがない。


 確かに、これならば普通の家具認定してしまいそうだ。



「そして、これがこうなる」



 指を鳴らすと、机が勢い良く変形した。

 直立の四本足が、ぐにゃりとまがる。

 球体関節を手にした姿は、人には程遠いものの、できる悪い人形と言われれば納得しそうな出来だった。



「これこそが私の能力。その名も、自宅警備員!」



 この名前って……。





「一体なんだ? その、家の警備をしているという言い訳をして、ひきこもりを自己肯定しているような名前は?」



 ――グハッ!


 どうしてかわからないけど、シャルティがえづいた。



「ふむふむ、決闘前から相手に強打とはやりますなぁ」



 審判として、高みの見物をしていたアルテがニヤニヤと口をはさむ。




「攻撃? なんのこと。ただ、山登りをしたから疲れただけだから」


 実際その通りなのだろう。

 今現在、シャルティの体は小刻みに震え、今にも地面に倒れこみそうになっている。


 肉体か、精神が極限の疲労状態にあるとみても間違いないだろう。



「水筒もってきてるから飲むか。

 水魔法で水を集めてもいいけど、あれ不純物が混じることが結構あるからな」



 そんな彼女を見かけて、俺は助け舟を出すことにした。



「あら、口を開けばオタク知識ばかり。

 どんなに話を深堀しても、友達の話が一切出てこないボッチ気質なのに、意外と気が聞くじゃない」



 ――グハッ!


 効いたぜ、おまえのボディーブロー。




「ふっふっふっ」


「はっはっはっ」



 シャルティのやつ。俺の奇行を見て笑ってやがる。

 俺もつられて愛想笑いしたけど、内心は……。



 こうして、俺たちは戦闘を始める前から満身創痍になったのだった。





「さあ、これ以上勝負が長引けば帰りの心配をしなくてはならなくなる。

 ゆえに、勝負を早く決めるために貴様には我が神剣を見せてやろう。

 来い、聖剣エクスカリバー」




「……」


 烈火の気合と共に、俺の手にはアマテラス様から頂いた、至高の神器たる聖剣が握られた。

 その厳かな雰囲気にのまれたのか、シャルティはピクリとも動かない。




「えっと……、その手にもってるものは何?」


「言っただろ、聖剣エクスカリバーだよ」


「そのハリセンが?」


「もちろんだ!」


「……」


「えっと……」


「…………」


「その……」


「………………」



 どうしよう。沈黙が痛い。



「そうなんだ、すごいね~」


 最終的に、シャルティは笑ってくれた。

 その笑顔は俺がこれまでの人生で見たこともないほど、優しさと慈悲の心にあふれた、菩薩のような笑顔だった事をここに保証したいと思う。





「さあ、気を取り直して決闘の再会よ。今度こそ、一切のおふざけなしでいざ尋常に勝負」




 どうやら、俺の聖剣は彼女の中ではおふざけという認定を受けたらしい。

 あるいは、わざと見て見ぬふりをしてくれているのか。


 どちらにしろ、俺は全力でシリアスを実行しているものだから、余計救いようがない。

 喜劇とも悲劇とも取れない中途半端な劇となっているわけだが……。




「ふっふっふっふっふっ、貴様など、この聖剣の錆にしてくれる」


「ちょっと何それ」


「えっと、雰囲気出るかなと思って」


「さっき、ふざけないっていったよね」


 閉まらない空気に、かっこ悪い武器、しかも勝負を見守るのは人型の良く分からない生ものだ。



 せめて、雰囲気だけはどうにかできないかと張り切ってみたが、どうやらお気に召さなかったらしい。


 きつくこちらを睨みつけるシャルティに対して、こちらは謝るしかなかった。




「さあ、いざ尋常に」




 さっきの反省を生かして、俺は黙して、聖剣を構えた。




 喉が渇く。

 世界が静寂で満ちていく。

 互いが互いの隙を探りあい、いざ勝負を始めようと動こうとした時。



「ぶっふ……、さっ、さっき、ふざけないって約束したわよ……ね」



 剣の音ではなく、笑い声が沸き上がった。




「俺、今回は一切ふざけてないぞ。それどころか、かなり真面目にやった」


「ごめん、でも……ふっふ、真面目な顔してハリセンを構えてるの見たら、耐えきれなくて」




 あんた自身の存在からふざけているのが悪いのよ。

 と責められた。

 知るかそんなこと。




 それからも、シャルティが腹を抱えて笑ってるもんだから、勝負を始めようにも始められない。


 というか、だんだんとムカついてきた。




 よし、克服するのを手伝ってやる。

 こんなに妹思いのお兄ちゃんがいるなんて、シャルティ、おまえは本当に幸せ者だよな。


 ――ニチャァッ!




「貴殿は我が聖剣エクスカリバーを愚弄するか」


 とやたらかっこいいポーズをとって宣言。

 効果、シャルティの腹筋が死ぬ。



「やめて、それマジ……ふっふっ……やめて、腹が……うぅっ……よじれて」


「さっき言ったよな、おふざけはなしと。いざ尋常に勝負!」



 笑い転げて、反撃どころではないシャルティに情けも容赦もない鉄拳制裁が行われた。



 最終的には、めった打ちにされ、ぼろ雑巾のようになった一人の少女が地面に寝っ転がっていた。


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