第56話「戦士たちの休息」
神聖教団の送り込んだ絶望の兵器『腐敗の巨漢』によるサンクトゥリア強襲の完全なる防衛勝利から、丸二日が経過した。
教皇の指揮のもと、街の大聖堂のすべての機能は一日で完全に元の美しい姿に正常に戻り、奇跡的に無傷だった分厚い城壁の上の防衛配置も、慢心を完全に捨て去った神殿騎士団と結界魔術師の一万の精鋭たちによって、かつてないほど強固に立て直されていた。
「あーっ、美味い! マジで美味すぎるっ! やっぱ聖都の大聖堂の奥で出てくる食事は、どれも見た目ばっか上品で綺麗すぎてちっとも腹に溜まりやがらない。こういう外の城下町の屋台の脂っこくてデカい肉串と、安酒の組み合わせが一番だぜ!」
ガルドが自身の顔ほどもある巨大な焼き鳥の肉串を両手に二本持ち、サンクトゥリアの活気あふれる城下町の石畳の巨大な中央広場の噴水の前で、口の周りをタレだらけにして子供のように豪快に笑っていた。
「ちょっとガルド、食べるのが下手すぎるわよ! ほら、服に脂とタレがべっちゃり跳ねて飛んでるじゃない! せっかく大聖堂の高いランクのシスター様たちに、魔法で綺麗に洗濯してアイロンまでかけてもらったばかりなのに!」
横に立つリーネが、母親のように呆れてため息をつきながら、自身の真っ白なレースのハンカチを彼の前に差し出す。
「まあまあリーネ、そんなに怒らないの。あの徹夜のご褒美の大聖堂のベッドや料理はたしかに天国だったけど、私たち冒険者の性分にはちょっと窮屈だったのも確かだし。……それに、あの歴史的な死闘の後の良質な栄養補給は、戦士としての立派な義務よ。おじさん、私ももう一本、一番でかくて脂の乗ったやつを塩でいただこうかしら」
セレナが上品な美しい所作と優雅な手つきで、屋台の脂ぎった店主に銀貨を一枚ポンと直接渡す。
神聖教団からも王都からも表彰された『四人のA級の英雄』としての威光と、何よりもエルフの絶世の美女による間近でのウインクの破壊力に。ただの屋台の店主の親父は顔をゆでダコのように真っ赤にして手の中の塩をすべてこぼし、特大の牛肉の串を無料で五本もおまけして渡していた。
レイドは、三人がはしゃぐその屋台から少しだけ離れた、大きな天使の彫刻のある噴水の縁に一人腰掛けて。彼女の買った串を自分に押し付けあうそんな三人の、あまりにも平和でにぎやかな日常のやり取りを、目尻を下げて静かに眺めていた。
(……実に、平和なもんだ)
一周目の凄惨極まる記憶の中では、アンデッドの軍勢によってたった三日で炎の中に焼け落ちて完全に灰の墓標となったこの巨大な街の。何事もなかったかのように、美しい青空とあたたかい太陽の光が降り注ぐ午後の広場。
石畳を行き交う何百人という無数の市民たちや商人たちの顔や瞳の奥に、死の恐怖の影はもう一切ない。時折、彼らが噴水に座るレイドたちに気づいては「あっ、あの方々だ」「聖都の救世主の英雄様たちだわ」と、遠巻きに畏敬の念を込めて深く頭を下げていく。
その光景を見るたびに、レイドは自分が本当に、過去の最悪のレールをへし折り、世界を自分が最後に五大の死を見たあの地獄とは全く別の、希望に満ちた方向へと確信を持って進めているのだという確固たる実感が湧いた。
「おい、レイド。はい、あんたの分。ちゃんと野菜も食べなさいよ」
いつの間にか歩み寄ってきたリーネが、たっぷりとタレのついた肉串を一本、そして焼きトマトの一串を、座っているレイドの目の前にポンと笑顔で差し出した。
「ありがとう。ちょうど小腹が空いてたんだ」
レイドが素直に受け取って一口大きくかじると、網で焼かれた香ばしい炭の匂いと、肉から溢れ出す濃厚な肉汁の旨味が口の中全体に熱く広がった。
「……なんだか、ここ数日を見ていて思ったんだけど。レイドの顔の表情が、前よりずっと柔らかく優しくなった気がするわね」
リーネが肉串をかじりながらレイドのすぐ隣の噴水の縁にストンと座り、小さな足を子供のようにブラブラとさせながら、彼を横目で見て唐突に言った。
「前は……王都で最初に会った頃のレイドは、いつも何か形のない『絶対に見えない恐ろしい怪物』に背中をごく急かされてるみたいに……寝ている時ですら、鋭くて怖い、切羽詰まった氷みたいな顔をしてたのに」
「……あんなふうに、そう見えていたか?」
「ええ。少なくとも私たちには。でも、今のレイドの顔は。ただその辺で明日を夢見てる……『仲間を信じてるただの普通の冒険者』って感じのいい顔よ」
ただの冒険者。
それは、世界の運命の全責任の重さを一人で勝手に背負い込み、記憶という枷に囚われて暗闇の中をもがき苦しんでいたかつてのレイドには。何よりも到達したかった、最大級の最高の褒め言葉に優しく聞こえた。
「ああ。そうだな。すべて順調に過去の予定を壊せて、完全に肩の荷が下りたからな。それに……どうしようもない化け物が相手でも、自分の背中を安心して絶対に預けられる頼もしい仲間がすぐ後ろにいると改めて分かったら。俺一人で勝手に眉間に深いシワ寄せて気負って悩んでるのが、途端に最高にバカバカしくなったんだ」
「ふふっ、調子のいい言葉なんだから。でも、その言葉は私たちへの素直な最上級の褒め言葉として、機嫌よくそっくりそのまま受け取っておくわ」
リーネが太陽のように明るく笑い、レイドもつられて、心底穏やかに声を出して笑った。
そこへ、山盛りの肉の束を平らげたガルドとセレナも、満足気に手を拭き歩きながら噴水へと戻ってきた。
「おいレイド、明日はどう動く? 王都ギルドに今回の報告がてら戻るか? それとも教皇のジジイの言葉に甘えて、ここでしばらくダラダラと休んでいくか?」
ガルドがまだ残っている肉を豪快に飲み込んで尋ねる。
「……現状、王都周辺もここも、教団の幹部や大軍の目立った後続の動きの手がかりは完全に途絶えていて確認されていない。王都のギルドマスターからの緊急の急報の鳥も飛んでこないし、このサンクトゥリアの街の防衛は騎士団だけで完全に持ち直した」
レイドはゆっくりと立ち上がり、青い清々しい広場の空を大きく見上げた。
「もう少しだけ、数日くらいはここで英気を養おう。……これから来る完全な世界大戦の本当の戦いの前に、傷を完全に治して、少しでも肉体と魔力を極限まで休めておくべきだ。五柱は、まだ三体も残ってるからな」
「私はその案に大賛成ね。長旅と連戦続きで肌が少し荒れそうだったし。お礼の金貨もたっぷりもらったことだし、この綺麗な街の最高級のエステやお風呂や買い物を、三日くらいかけてゆっくり満喫したいわ」
セレナが決意を語るように、豊かな金色の美しい髪をかき上げる。
「よっしゃ! そういうことなら決定だ! じゃあ今日の夕方から、ここの城下町で一番高くて美味い酒場で、俺の奢りで何時間でもド派手に飲み直しだな!」
平和で何気ない、にぎやかな四人の笑い声が噴水のしぶきとともに響く。
だが、その平穏な休息の時が永遠の未来には決して続かないことを、百戦錬磨の四人は全員心のどこかの深い部分で冷徹に理解していた。
教団の「五柱」の怪物は、まだ三柱もどこかの闇に潜んで残っている。そして何より、この大陸と世界そのものを裏側から完全に飲み込んで滅ぼさんとする神、『虚無の王』という最悪の存在が、今まさに目覚めの時を待っているのだ。
嵐の前の、奇跡のような静かな休息。
レイドの心には、かつての一周目のような自分を責めるような切迫した焦燥感はもう微塵もなかったが、同時に最強の戦士としての氷のような研ぎ澄まされた油断も一ミリたりとも存在していない。
次に鳴り響く、避けられない巨大な開戦の鐘に向け。彼らは束の間の輝く太陽の平穏を、その心に深く深く噛み締めていた。




