第55話「ノイズの正体」
サンクトゥリアの街の百万の信徒と数千の騎士たちが、街の被害ゼロという完全勝利による熱狂的な歓喜の朝の光を迎え、酒と歌で美しく平穏な祝賀を上げていた頃。
そこから遥か遠くの西の彼方。王都アロリアからもサンクトゥリアからも遠く何千キロと離れた、すべての生命の気配が完全に死に絶えた、大陸の最東端の果てに位置する『死の大地』と呼ばれる荒野の最深部。
そのさらに数百メートル地下深く、地上の太陽の光や星の輝きが一切の届かない、濃密な瘴気と暗黒に満ちた『虚無の神殿』の広大な真っ黒な空間で。この世界の運命を終わらせるために集結した、三つの禍々しく強大な絶望の影が、蠢く泥のように静かに言葉を交わしていた。
『——先ほど、我ら五柱の一角……第二柱である腐敗の巨漢の、世界からの絶対座標における完全なる消滅と魔力反応のドロップを確認したか』
何もない真っ暗な暗闇の空間の中から、物理的な地鳴りのように腹の底に響く、重く低く、そしてとてつもなく冷酷な声が反響して響いた。
その声の主は、人型とは到底思えない、不定形の巨大な闇そのものが物理的な質量を持ったような、常軌を逸した禍々しい真っ黒な巨大な塊だった。
『我が強大な物理的な半身たる腐敗の巨漢が。たかがサンクトゥリアという人間どもの小さな脆い街一つを単騎で落とすことすらできずに、完全に核を砕かれてこの世からチリのように無残な灰に還るとはな。……滑稽でくだらない、聞いて呆れる弱い三流の喜劇の話だ』
『王都での、この私のあの強襲の最初の時と全く同じですね。……私たちが「単なる道端のノイズの石ころ」だと舐めてかかっていたあの小さな王都の英雄のパーティー。我々の想定のスケジュールを遥かに超えて……異常な速度で、予想以上に厄介に、劇薬のような成長をしているようです』
暗闇に浮かぶ、もう二つの人型の影。そのうちの一つ、かつて王都でレイドたちと激しい死闘を繰り広げたばかりの『虚ろの魔女』が。漆黒の孔雀の羽の扇で自らの美しい顔の口元を隠しながら、極めて不快そうに、そして底冷えするような冷ややかなトーンで言った。
『ノイズだと? あの大いなる神の歴史の流れの運命の法則に、自立して意図的に逆行しようとする、あの異常な不純物の四人の人間の小虫のことか』
『ええ、いかにも。王都の城壁を私が荒らした際には「少し運がよく直感の優れた単なる小石程度」にしか思っていませんでしたが……我らが最高戦力たる第二柱まで、巨大なアンデッドの軍勢ごとたったの一夜で屠ったとなれば、もはやただの目の前の小石のレベルでは済まされません。あれは、私たちの計画を破綻させるほどの完全な致命傷を持つ「毒」です』
魔女は目を薄く細め、自分の美しい真っ白な左頬に今もわずかに残る、あのレイドという男に付けられた薄い屈辱の剣の浅い傷跡を、細く真っ赤な爪の指で忌々しそうに何度もなぞった。
『あの得体の知れない黒い外套の男……レイドとかいう剣士。奴の動きは初戦からすべてが異常でした。あの男は、まるで世界の裏側の真理を見るように、明らかに「この先の私たちの完璧な未来」を知っています。我々の軍勢の配置、強固な弱点、使用する魔術、そして本来ならばこれから我々が起こすはずの「完璧な人間世界崩壊の道筋のスケジュール」のすべてを』
『……人間の枠組みを超えた時間逆行の奇跡……いや、星の記憶の根幹への世界律のアクセス能力か。いずれにせよ、あのような下等な生物である「ただの人間」がその矮小な脳内に持つには、あまりにも過ぎたる危険な力だ』
もう一つの影——真っ白で冒涜的な聖職者の神官服を身に纏い、本来人間であれば顔があるはずのその頭部の半分以上が、おびただしい数の不気味な歯車と機械仕掛けのレンズで奇妙に覆い尽くされた異形の細身の男が、カタカタ、キリキリと、一定のリズムで不気味な金属性の歯音を鳴らしながら、論理的に冷徹な分析をした。
『我らが大いなる神、「虚無の王」様のこの大地での完全なる復活と覚醒まで、儀式の準備はあとわずか。これ以上のあのノイズによる神聖な計画へのイレギュラーな介入は、儀式の致命的な遅延と、エネルギーの損失を招きます。排除は最優先事項です』
不定形の巨大な闇——残存する五柱の中で最強の存在である筆頭格の塊が、怒りに似た波動を放ちながらゆっくりと蠢いた。
『ならば、この私が直々に地上に出る。五柱の第三柱であるこの私が、巨大な天災となってあの目障りな虫ピンのようなノイズと、その手足となってちょこまかと動いている三人の羽虫どもを、痕跡一つ残さず肉片の一片まで完全にすり潰し、その絶望の魂を食らってやろう』
『お待ちを。血の気の多い短絡的な思考は、敗北のもとです』
機械仕掛けの顔を持つ異形の神官が、静かな、しかし有無を言わさぬ絶対的な冷静さでそれをきっぱりと制止した。
『巨大な暴力による単独の武力の力押しは非常に危険です。あの王都での魔女の敗退と、先ほどの第二柱という純粋な物理の権化の敗北が、それを完璧な結果のデータとして如実に証明している。奴ら四人は「単なる未知の暴力的な事態」への直感的な対応力を、戦闘の中でハイスピードで高めている。……ならば、我々がとるべき最善のスマートな解決策は一つ……奴らの最大の武器であるあの得体のしれない「時間遡行による知識」そのものを逆に利用し、完全に後戻りできない精神の罠に嵌めて殺すべきです』
『ほう? 言ってみろ。どうするのだ?』
不定形の闇が、興味を持ったように空間の圧力をわずかに弱めた。
『簡単な心理のトリックです。奴らが自らを犠牲にしてでも「必ず守ろうとする大切なもの」、そして、奴の知識の中で「必ずそう動くはずの絶対の過去の未来」。我々がそれを逆手に取り、あの男の一番弱い精神を崩壊させるような、決して逃げ場の用意されていない完璧な絶望の箱庭の中央に、彼らを自らの足で歩かせて閉じ込めて差し上げましょう。この策は……神の頭脳を持つ私が、直々に構築し手を下します』
神官の顔の半分を覆う機械の冷たい一つ目のレンズが、暗闇の中でギョロリと動き、赤く、そしてこの上なく残酷な色でチカチカと点滅して邪悪に発光した。
『我々絶対者から見た、あの英雄気取りの人間の思考の最大の致命的なエラーの弱点は、仲間への「異常な執着」と、無駄な「情の深さ」です。完全な記憶を持つがゆえに、過去の失敗の恐怖を異常に恐れ、一人も欠けることなくすべてを欲張り救おうとする。……その反吐が出るような虫唾が走る人間らしい甘さを、彼らを内側から殺すための最高の「致死の毒」に反転させて変えてやります』
光の届かない虚無の神殿に、機械の男のどこまでも冷酷で論理的な底冷えのする笑い声が、キリキリと不快に長く響き渡る。
レイドだけが持ちうる最強の武器である「世界の一周目の未来の記憶の知識」そのものを、まるでシステムごとハッキングするかのように。敵はこれまでのような力押しの物理ではなく、新たな次元の思考の罠で、レイドたちのパーティーを絡めとろうとしていた。
サンクトゥリアの完全な勝利の熱狂の裏で。これまで経験したことのない、別次元の知的で最悪の悪意に満ちた不可視の包囲網が、レイドたちに向かって音もなく静かに、そして確実に狭まり始めていた。




