第54話「聖都の謝罪」
雲一つない澄み切った黄金の朝日が、サンクトゥリアの傷一つない美しき白亜の街並みとステンドグラスを誇らしく眩しく照らす中。
大聖堂前の広大な玉砂利の広場には、この街の防衛を担う三千にも及ぶ神殿騎士団の全精鋭と、街の行政を司る何百人という高位の神官たちが、誰一人欠けることなく整然と隊列を組み、完全な沈黙の中で深く整列していた。
全員が身に纏う分厚い銀の甲冑と白い法衣が、朝日を神々しく反射して海の光のように美しく輝いている。
その大軍勢が直立不動で向き合う最前列。普段は神への祈りを捧げるための大理石でできた一段高い神聖な祭壇の上に、泥と魔物の返り血で黒く汚れ切った装備のままの、レイドたち四人だけからなる小さな冒険者の英雄のパーティーが立たされていた。
「四人の若き勇者たちよ。たった一夜にして、我々が防ぐことのできなかったあの大軍勢を完全に打ち破り、神聖なる我が都市と百万の信徒の命を完璧に救いしその人知を超えた奇跡の力。……我々神聖教団のすべての者の総意として、心より深く、海よりも深くその絶対の感謝と敬意を表する」
神聖教団の最高権力者にして、この大陸の信仰のすべての頂点に君臨する老齢の『教皇』その人が、豪華な黄金の杖を床に置き、自ら祭壇の上の若い四人に向かって、これ以上ないほど深々と、真っ先にその白い頭を下げた。
教皇のその前代未聞の完全なる謝意の行動に合わせて、前日の作戦会議の場ではレイドたち数人の冒険者を「誇り高き騎士の邪魔をするな」と徹底的に嘲笑し、足手まといのお荷物扱いして見下していた誇り高き神官長や位の高い騎士隊長たち数十名も、一斉に石畳の上に深く膝をつき、己の愚かさを恥じるような懺悔の謝罪の意志を重く完全な形として示した。
「我々の根拠のない教義の防壁への過信と、あなた方の確かな警告を侮り冷遇した愚かな慢心が……あわや数十万の何の罪もない一般の信徒の命を、あの化け物どもの手で一夜にして無惨に奪うところであった。……その致命的な罪と驕り、我々にはもはや顔を上げる資格すら微塵もない。いかようにも、厳しい罰を与えていただきたい」
神官長が、顔を伏せたまま、震える情けない声で懺悔する。
「……皆さん、堅苦しいのは性に合いません。顔を上げてください。罰だの責任だのなんて無駄なものは俺たちは一つもいりませんよ」
レイドが静かに一歩前に出て、騎士たちを見下ろす祭壇の上から、彼らを責める色の全くない静かで落ち着いた平坦な声で言った。
「誰も死ななかった。市民は一人も傷つかなかった。街の美しい結界も大聖堂の鐘も一切壊れず、完璧に守られた。……昨夜の事実として起きたのは、俺が見たのは、ただそれだけの最高であり吉報の結果のすべてです。ただ……次また同じような世界の危機が訪れた時からは、しがない冒険者の泥臭い忠告の言葉にも、頭ごなしに否定せずに少しだけ真面目に耳を傾けてもらえると、俺たち現場の人間としては非常に助かりますがね」
レイドの軽く、相手のプライドを突き放しすぎない絶妙な温度感の言葉に。
広場を埋め尽くしていた数千の神殿騎士団の間に、自分たちが重い処罰や糾弾をされるのではないかという緊張の糸が解け、あたたかい安堵の空気が波のようにフッと一斉に流れた。
一周目の凄惨な記憶の中での彼らは、その愚かな『絶対に崩れない街』という巨大な組織の根拠のない慢心の代償として、市民ごと文字通り誰一人残らず三日で黒い無惨な灰になった。
それを完全に知っているレイドから思えば、今ここで結果的に誰も死なない世界線を生き、自らの愚かなプライドを捨てて冒険者に対して素直に頭を下げている彼らの生きた平穏な未来の姿は、怒りなどではなく、ただ途方もなく喜ばしく、胸のすくような明るい変化の光景だった。
「……ふふっ、レイド。あなた、最近本当にどんどん性格が丸く大人になったわね。昔の王都の街で私に最初に会った頃の尖りきったあなたなら、あんな態度を取ったおじさまたちに対して『自分の愚かさを噛み締めてそこで地べたに這いつくばって土下座して靴でも舐めろ』とか、冷徹な死神みたいな顔して平気で言いそうな狂おしい顔してたくせに」
セレナがレイドの背後に並び、周囲に聞こえないような美しい声の小声で、楽しそうにくすくすと彼を悪戯っぽくからかう。
「人聞きの悪いこと言うな。俺は元からそんなにサディストにひねくれてない。……それに、あの全滅の運命を俺たちの手で完ぺきに回避できたってこと自体に、今はただ心の底からホッとしてるんだよ」
レイドは、隣で教皇の長ったらしい感謝の演説を聞きながら我慢しきれずに大きな欠伸を手で隠そうとしている前衛のガルドと、セレナの背中でまだ完全に意識がスリープしたまま眠そうに目をこすっている極度の魔力消費で限界のリーネを見た。
昨晩丸一日、極度の緊張状態の中で強敵と徹夜の死闘をぶっ続けで終えたばかりだ。彼らの体力と魔力も、すでに生身の人間の限界に近い。
「教皇様。その身に余るありがたい神への感謝とお褒めの言葉の続きは、大変ありがたいのですが。俺たちは昨晩のあの化け物どもの暴太郎の相手で少し筋肉と魔力を使ってひどく疲れました。お話の続きは、ゆっくり寝て起きた後というわけにはいきませんか」
「おお、そうであった! なんという失礼を! これはいかん、世界を救った最大の英雄たちに、今すぐ最高の王族級の休息を! 大聖堂の一番奥にある、光の精霊の加護を受けた至高の貴賓室のスイートを今すぐ四人分用意するのだ! 何でも最高の食事とワインを持ってこい!」
教皇の慌てた大声の鶴の一声で、四人の冒険者は、大聖堂の中でも王族や他国のトップしか使ったことがないという、最も広大で豪奢で豪華な清浄な匂いのする部屋へと、神官たちによって丁重の上に丁重を重ねて案内された。
沈み込むような白い雲のようにフカフカの最高級の羽毛ベッドに、見たこともないような細工の施された黄金の調度品と、最高級のシルクの織物。
数日前まで森や荒野での野営で、硬い地面の上に寝て泥にまみれ干し肉をかじっていた根っからの冒険者である彼らには、あまりにも場違いで落ち着かない夢のようなきらびやかな空間だった。
「すげぇ……こんな天国みたいな高そうな金持ちのベッド、俺みたいに汗臭いデカい男が不用意に寝返り打って少しでも汚したら、それだけで光の精霊のバチが当たって天罰が下りそうだな」
ガルドが自身の重い鎧を脱ぎ捨て、恐る恐る、壊れ物を扱うように巨大なベッドの端に小さく腰掛ける。
「私はもう……ダメ……思考回路完全に停止……みなさん、おやすみなさい……ご飯の時は匂いで起こして……」
リーネは分厚い革靴を適当に脱ぐなり、そのまま服も着替えずに一番大きな別のベッドに見事なフォームでダイブして、シーツに顔を埋めたまま数秒でコトコトと可愛い規則的な寝息を立て始めた。巨大竜巻という一人での規格外の魔法の酷使で、彼女の体内の魔力も精神力も、完全に乾いた雑巾のように一滴残らず空っぽになっているのだ。
「フフッ、この子ったら本当に子どもみたい。仕方ないわね、風邪引くわよ。ゆっくり休んで」
セレナが上品に苦笑しながら、泥だらけのまま眠るリーネの小さな背中に、最高級のふわりとした温かいブランケットを優しく掛けてやる。
「レイドも、気を張ってないでさっさと早く休みなさい。いくら少し前の王都の戦いの怪我の傷が塞がったからって、あなたの肉体が五柱に勝てるくらいの都合のいい頑丈な不死身になったわけじゃないのよ。無茶がすぎるわ」
「ああ。小言はお母さんだけにして、一番大きなベッドで遠慮なく死んだようにそうさせてもらうよ」
レイドは自身の真っ黒な外套を近くの椅子に乱雑に放り投げ、自分のために用意された一番大きなベッドに深く横たわり、大聖堂の美しいフレスコ画の描かれた高い天井を静かに見上げた。
そっと目をつぶると、数時間前の朝焼けの中で全力で空中で打ち砕いた、あの憎き巨漢の生命線である『黒い水晶』を割った硬い感触が、まだ両手のひらの感覚の中にビリビリとリアルに熱く残っている。
かつて世界を終わらせた五柱の一角。絶対的な力で人類を蹂躙した、あのどうしようもない絶望の権化の象徴を、自分たちは完全に確実な形で一つ減らし、未来を変えたのだ。
歴史改変によって前倒しで想定外のスケジュールで現れた最強の強敵を、今度こそ自分一人ではなく、何よりも頼もしい最強の仲間たちの連携の力で、誰一人欠けることなく正面から完璧に打ち破った。
この四人の強い絆と力さえがあれば。この先、教団の化け物どもがどんな姑息な手や未知の強力な暴力で襲ってこようと、そのすべてを滅ぼして打ち砕き、自分たちが心から笑って過ごせる、誰の命も理不尽に奪われない『本当の平和な未来』の世界線を手の一部として勝ち取ることができる。
レイドは、二周目の世界に来て初めて……かつてないほどの大きく温かく、決して揺らぐことのない確かな未来への希望の光を胸の奥に強く抱きながら、久しぶりに悪夢を見ることのない、深く穏やかな静かな眠りの底へとゆっくりと落ちていった。




