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全滅したパーティーを救うため、二周目は未来の知識で俺TUEEE……するはずが、敵が本気出してきちゃった件。  作者: 久喜崎


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第53話「砕かれる絶望」

上空の城壁からの一人の美しいエルフの娘の、自らの細い命の限界を削るような決死の大魔術が。絶望の象徴である狂乱する十メートルの巨漢を包む致死性の数百トンの濃密な腐敗ガスを、強引に天高く円柱状に大竜巻として一時的に吸い上げ、払いのけ続ける。

 地上で猛毒に取り囲まれて立ちすくむレイドたちの前に、その巨大な『台風の目』のごとく、一直線に伸びる完全にクリアな視界の真空の安全な道が、神仏の奇跡のように一瞬だけ作り出された。


 その巨大な竜巻の壁に囲まれた空間の中心。えぐれた分厚い胸と腹部の肉の奥深くで、今もなお不気味な心臓の鼓動を響かせて紫色に脈打つ、あの丸く大きな黒い水晶のコア。

 これが、この理不尽な巨体の化け物を完全に屠り、歴史の敗北の記憶を未来へと書き換えるための、文字通り最初で最後の唯一の最大のチャンスだ。


「ガルド! 俺が奴の懐に一直線に飛べる、障害物のない綺麗な真空の空間の道を作れ!」

「おうっ! 任せとけ、あいつの気と注意は全部俺のデカい盾が引き受ける!」


 ガルドが先頭を重い足音を立てて走り、大盾を構えたまま無防備な巨漢のど真ん中へ突撃し、巨大な左足のすねの骨めがけて、渾身のシールドバッシュを容赦なく横から重く叩き込む。

 ドスッ! という先ほどよりは鈍いが重い衝撃音が響き。物理法則に逆らえず、片足のバランスを崩された巨漢の巨大な質量の上半身が、レイドたちのいる地面の方へ、ぐらりと大きく前のめりに傾く。


 レイドはそのガルドが作り出した絶好の高低差の隙を見逃さず、彼の屈強で硬い背中の鎧を――一周目の五年間ではただ見送るだけで、死ぬまで決して背負うことの叶わなかった、世界一頼りになる親友の広い背中を強く踏み台にして踏み越え、さらに高く、コアの目の前へと一直線に跳躍した。


「グガァァァァァァァァァァァッ!!」


 自身の最も脆く重要な命の核に、小さな剣を持った人間が迫っているという本能的な死の危険を感じたのか。

 目が潰れ見えないはずの巨漢が、ガルドに弾かれなかった残った無傷の巨大な左腕を、空宙で無防備なレイドをハエたたきのように直接叩き落とそうと、反射的に凄まじい風圧とともに横から真っ直ぐに素早く振り下ろす。


 避けられない。空中のレイドには回避の手段がない。

 ——だが、その絶体絶命の巨腕には、さらに上空からのセレナの雷のように高速の三本の銀矢が、コンマ一秒の誤差もなく関節の腱のど真ん中へ完璧に重く突き刺さった。


「あなたのような醜い腐った化け物に、私のリーダーたちの美しい希望の結末への進路に。その汚い指一本だって、未来永劫絶対に触れさせないわ!」


 城壁に立つセレナの、誇り高く冷徹な宣言の声と共に。

 急所の腱を三本同時に神経ごと物理的に貫通され破壊された巨漢の発狂した左腕が、完全に痺れたように筋肉の制御を失い、レイドの横を空振りの熱風だけを残して数ミリの軌道を逸らして虚しく通り過ぎていった。


(——いける!! すべてがつながった!!)


 空中。誰の邪魔も入らない、完全な無防備を月明かりの下に晒す、表面の殻の剥き出しになった巨大な黒いコアが、レイドの両目のすぐ目の前にスローモーションのように迫る。

 レイドは自身の銀の長剣の柄を両手で白くなるほど強く強く握り締め、自分にまだ残されたすべての魔力と、明日を生きるための生命力、そのすべての光を限界まで高く白熱した刃に込めた。


 一周目のたった一人で逃げ回った五年間で味わった、泥水に顔を押し付けられるような数え切れない悲惨な敗北と血の味。

 信頼した仲間たちを自分の弱さで次々と失い続けた、五柱という名の理不尽で巨大すぎるどうしようもない絶望の記憶。

 それらのすべての過去の未練と後悔の感情をこの剣の切っ先の光に反転させて圧縮させ、今日、このたった一回の完璧な一撃の魔法の突きで……俺を、俺たちを今まで縛り付けていた過去の忌まわしい運命のすべての軛を、ここで永遠に断ち切る。


「過去にだけ生きてるアンデッドの化け物風情が……大人しく、俺の知ってる未来ごと完全に跡形もなく消えちまえェェェェェェェェェッ!!!!!」


 絶叫。渾身の、大気の螺旋を巻き込むような極光の突きが。巨漢のすべての命の源である、紫に脈打つ『黒い水晶のコア』の殻のど真ん中へと、何トンもの重さを乗せて真っ直ぐに突き刺さった。


 ガィィィィィィィーンッ!!


 という、硬質でこの世のものとは思えない奇妙な金属音が戦場に高く響き渡る。

 純度の高い数千の風の魔力と、レイドの全身の体重と落下速度エネルギーのすべてを乗せた神速の一撃が。五大の化け物である五柱の、絶対に破壊不可能と言われていた漆黒の心臓とも言える核の分厚い殻に、ついに一条の決定的な白いひびを入れる。


 ピキ、ピキピキピキピキィィィィィィッ!!


 そのたった一つの致命的なヒビが、水晶の球体全体に蜘蛛の巣のように伝染して無数に広がり張り巡らされ、ひび割れた内部から、抑えきれなくなった膨大な致死性のどす黒い魔力の光が四方八方へと噴水のように漏れ出し始める。

 その直後。


 パァァァァァァァァァァンッ!!!!!


 薄いガラスの巨大な球体が限界を迎えて破裂して弾け飛ぶような、耳を劈く凄まじく澄んだ高い音とともに。黒い水晶のコアは完全にその硬質な形を失い粉々に内部崩壊して砕け散り、空中に光のチリと霧となって完全に霧散して消滅した。


「……ァ……あ……」


 コアを破壊された十メートルの巨漢の全身の荒れ狂う動きが。まるで主の命脈の魔力糸が完全にプツリと切れた古い泥人形のように、奇妙なほど空中でピタリと完全に停止する。

 圧倒的な質量と恐怖を撒き散らし、この世のすべての生命を削っていたその分厚い強力な肉の装甲の肉体が。急速に水分を失って枯れ木のようにしわがれ、乾燥し、ボロボロと崩れる炭のような黒い灰へと変化していく。


 数秒後。

 十メートルの巨体は完全に砂の城のように音を立てて崩れ落ち、さらさらとした何トンもの無害な白黒の灰の山となって、夜明けの荒野の涼しい風に美しくどこまでも吹き飛ばされていった。

 それと同時に。今まで巨漢の強力なコアの魔力によって無理やり死の土から強引に蘇らされ、操られていた周囲一帯の何万という数千の教団のアンデッド兵の大軍勢たちも、一斉に天を仰ぐようにして砂のように崩れ落ち、ただの実態を持たない骨の山の無害な屍へと完全に還っていく。


 夜明けの、金色に輝くあたたかな太陽の光が、サンクトゥリアの戦闘の終わった黒い荒野を、祝福するかのように広く照らし始めていた。


「ハァ……ハァ……ハァ……」

 サラサラとした温かい灰の山の中に着地したレイドは、魔力を使い果たした長剣を地面に突き立てて杖代わりにして、肺が破れるほどの荒く深い息を何度も吐いた。

 全身のあらゆる筋肉の繊維の奥が限界を告げる悲鳴を上げ、ただそこにかろうじて立っているのがやっと。一本の指すの感覚すら麻痺するほどの極限の疲労の状態だった。


「……ハッカハッ! 終わった、か……! あー、マジでクソみたいに硬くて重いデブだったぜ」

 少し離れた場所で、ガルドがヒビの入った大盾を地面に音を立てて降ろし、緊張の糸が切れたようにドサリと仰向けに大の字になって座り込む。その顔は無数の切り傷の泥と自分の血まみれだったが、朝の空を見上げて、子供のように明るく晴れやかで真っ直ぐな笑みを浮かべていた。


 城壁の上では、竜巻の魔力枯渇の反動で完全に気を失って倒れ込む寸前のリーネの細い身体を、汗一つ欠いていない涼しい顔をしたセレナが、自身のマントでふわりと優しく抱きとめていた。


「ええ……私たちの、完全な勝ちよ。よく無事に生きててくれたわ、私の最高の仲間たち」

 セレナが静かに眠るリーネの淡い翠の髪をそっと撫でながら、小さく優しく呟き、どこまでも澄んだ黄金の瞳で朝日に光り輝く美しいサンクトゥリアの大聖堂の街並みと、眼下のレイドたちを静かに見下ろす。


 完全な、美しい朝の静寂。

 そして。


「う、おおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!」


 その途方も無いほどの静寂を破るように。城壁に呆然と並んで立ってすべてを見届けていた、数千の屈強なサンクトゥリアの神殿騎士たちと神官たちから。歓喜と畏怖がない交ぜになった、地表を揺るがすような怒涛の巨大な大歓声の波が沸き上がり、空高く響き渡った。


 たった四人の、どこからともなく現れた無名の冒険者が。

 この神聖教団の数千の騎士の精鋭たる彼ら自身が過去の栄光に慢心し、もし自分たちが直面していればあの数万の大軍勢に押し潰されて、絶対に防ぎきれず一瞬で街ごと虐殺されていたであろう『絶対的で理不尽な規模の死の滅び』を。

 城壁の外側だけの、しかもたったの一時間という短い死闘の中で、完全に一人の大怪我の犠牲者も街への被害の類焼も出すことなく、完ぺきな神業の連携で正面から打ち砕いてみせたのだ。

 騎士たちが全員、自らの武器を天高く掲げながら、喜びと涙、そして神への恐れに似た畏怖の混じった極上の尊敬の熱狂的な視線で、朝日に照らされる地上に立つ四人の王都の英雄の背中の姿を、狂ったように熱く見下ろしている。


「おいおいおい……すっげえ人数の熱狂的な大歓声だな。王都の凱旋の時よりうるせえや」

 ガルドが笑いながら、地面に寝転がったまま耳を塞ぐような仕草をして豪快に笑う。


「まあ、当然の大騒ぎでしょう。私たちがこの巨大な街の見栄っ張りの騎士たちと、後ろにいる数百万人もの名前の知らない信徒の人たちの命の恩人として、完全な形で『世界を救った』んだからね」

 高い城壁から美しいエルフの身のこなしで静かに飛び降りてきたセレナが、すやすやと気絶して眠るリーネの身体を自分の背中におんぶしておぶりながら、レイドの元へとゆっくり歩み寄ってくる。


「……ああ。そうだな。誰も死ななかった。それで十分だ」


 レイドは、仲間たちの温かい声を聞きながら、ゆっくりと顔を上げて真っ直ぐな朝日を眩しそうに見上げた。

 一周目の自分だけの孤独な悲惨な記憶。あの時は、このサンクトゥリアの壮麗な街は信徒の悲鳴とともに、文字通りたった三日で焼け落ちて完全に灰になった。

 だが今、レイドのこの両目の前の光景には、真っ白な白亜の壁を朝日にひと際誇らしく輝かせる、傷一つない美しい平穏な聖都の本来の姿がはっきりと、強固な現実の形としてある。


 自分一人だけのただの空回りの自己犠牲の力だけでもなく。

 運命の手順を書き記した、ただの記憶のカンペに書かれただけの過去の知識だけでもない。

 彼ら自身の、この世界で最強に成長した最高の四人の仲間一人一人の手で、その完全な信頼関係の力で、この巨大な運命の不条理の分岐点を書き換えたのだ。


「……そろそろ、安全な壁の中に帰ろう。何にも代えがたい……俺たちの、完全な勝利だ」

 レイドが凭れかかっていた剣を引き抜き、心底穏やかな表情で微笑み。

 四人はボロボロになった互いの肩を優しく寄せ合い、互いの重みを支え合いながら、熱狂の大歓声に包まれたサンクトゥリアの巨大な凱旋の正門の門扉へと、英雄としてのゆっくりとした歩みを進め出した。

 世界を滅ぼす規模だったはずの忌まわしきサンクトゥリア攻防戦は、信じられないことに街の市民からたった一人の犠牲の血の一滴も流させることなく、彼らの歴史の反逆たる完全なる圧倒的勝利でここで幕を閉じた。

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