表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
全滅したパーティーを救うため、二周目は未来の知識で俺TUEEE……するはずが、敵が本気出してきちゃった件。  作者: 久喜崎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

57/60

第57話「狼煙」

サンクトゥリアの平和な城下町での、夢のような心地よい休息は、彼らの予測を遥かに超えて全く長くは続かなかった。

 四人が羽を伸ばして休息を取り始めてからたった三日目の早朝。大聖堂の静かな石畳の広場の中央に、全身を数え切れないほどの矢と斬り傷でズタズタにされ、文字通り頭の先からつま先まで大量の泥と赤黒い血に塗れた一人の王都の青き伝令兵が、乗り潰して心臓の破裂した馬もろとも、警備の騎士たちの目の前で突如としてドサリと激しく倒れ込んだのだ。


「緊急事態……! 王都……いや、王都周辺からさらに外縁に位置する主要な大規模軍事都市群、そのうちの三箇所が……夕べから今朝にかけて全く同じ時刻に、同時に教団の大軍による想定外の規模の奇襲襲撃を受けています……!」


 全身の血を流しながら伝令が酸素の足りない口から吐き出したその絶望的な強襲の報告を、宿屋から大急ぎで駆けつけたレイドたちは、完全に顔色を失って大聖堂の巨大なステンドグラスの入り口のホールへと駆けつけた。

 巨大な円卓の作戦司令室には、すでに教皇と青ざめた神殿騎士隊長たちが重い沈黙の中で無数に集まり、赤いバツ印が次々と付けられていく巨大な大陸の地図を、悲痛な顔で囲んで見下ろしている。


「全方位からの前代未聞の同時多発テロか……! あのサンクトゥリアの攻防戦で、自慢の最高戦力の主力である五柱の一角を俺たちに完全に破られたことへの……ヤケクソの八つ当たりや腹いせってとこか?」

 ガルドが地図の上の赤い印を睨みつけながら、苛立たしげに巨大な拳を円卓に叩きつけて舌打ちをする。


「……いや。おかしい。いくらなんでも、同時刻とはあまりにもタイミングと手際が不自然に良すぎる」


 レイドが作戦会議の地図を上から食い入るように見下ろしながら、微かに、かつてないほど血の気を失った顔で唇を震わせた。


「レイド殿。三つの都市の情報が入っております。……襲撃を受けて完全に包囲網を敷かれている三つの大規模都市。北にある魔法使いの学び舎『グラシア』、西の巨大要塞『ドーン』、そして東に位置する交易の要所『フレイア』。……いずれも王都アロリアの防衛線を支える最大の要ですが、これらに一斉に数万の軍勢が迫り……」

「……」

 教皇の震える説明の言葉の途中。レイドは完全に息を止めて、地図上のその三つの都市の名前を指でなぞった。


「その都市。これは……俺が一周目の絶望の五年間で、世界が崩壊する最中にお前たちと必死に逃げ渡り歩き。……そして、その都市の防衛戦で一か所に一人ずつ……『お前たち三人の仲間が、俺の目の前でそれぞれ順番に凄惨に死んでいった、俺の一番のトラウマの場所』だ」


 レイドのその呪いのような告白の言葉に。隣で聞いていたリーネとセレナが、ゾクッと背筋に冷たいものを感じて同時に息を呑んだ。


「ただの偶然じゃないわね。明らかに、教団側の軍師は意図的に選んでいる。奴らは『あなたの未来の記憶カンペ』の知識がどこにあるかを完全に理解し、あなたの頭の精神の内側にあるトラウマの感情を正確に読んでいるわ」

 セレナが両腕を組んで、極めて冷静に事実の異常さを冷徹に分析する。


「お前たちが襲撃先の街について何か個人的な未練の情報や、過去の郷愁を以前の戦闘の際に敵に漏らしたか? ……いや、ありえない。それとも、あの王都で戦った『虚ろの魔女』が、当時の俺の動きと未来の事象に対する反応から、俺が一周目でたどった過去の『死のルートの地図』を正確に推測して割り出したというのか」

 レイドは額に冷たい脂汗を浮かべ、ギリッと血が出るほど奥歯を噛んだ。


「え、どういうことよ? 私たちの過去の……存在しない一周目の自分たちの死に場所が、三ヶ所一斉に同時にわざわざ襲われているってことはつまり……教団はどういう意図があって俺たちに何か特別な死の因縁を押し付けようとしてるの?」

 リーネが事態の不気味さに不安そうに、レイドの黒い外套の袖を強く引く。


「一周目のあの地獄の記憶じゃ……。ガルドが北のグラシアの地下遺跡で敵に取り残されて殿で死んだ。リーネは西のドーンの街で群れに囲まれて自爆した。セレナの故郷が落ちた後、最後の東のフレイアの砦で彼女は背中を貫かれて死んだ。……教団の頭の切れる幹部は、俺がこの三ヶ所の強襲という手札のすべてを同時に完璧には防げないと知っている。その上で、俺の持つ記憶の弱点である情を突き、俺に『お前はまた、どの仲間を優先して救いに行き、どの仲間を見殺しにするか』という、最悪の究極の二択の決断を意図的に強要して選ばせようとしている」


 あまりにもあからさまで、あまりにも残酷で悪趣味すぎる人間の心を弄ぶ罠だ。

 レイドが過去の仲間の死のトラウマに深く縛られていると教団側の幹部が正確に推測しているなら。これは完全にレイド個人へ向けた強烈な精神的な揺さぶりであり、四人の最強の戦力の一点突破を分断させるための、避けては通れない誘い水に他ならない。


「教皇様。王都から各都市へ向けた近衛騎士団の大規模な援軍の派遣は、現在どうなっていますか」

 レイドが決意を固めた鋭い声で尋ねる。


「教団の緻密に計算された強襲の伏兵により。悲しいことに我が近衛騎士団は各街へ向かう街道の外縁の荒野で完全に分断され、数万の敵本隊に対して足止めを食っているらしい。……このままでは三つの街とも、数日のうちに力尽きて同時に完全陥落だろう。……しかし、大変口惜しいが我々サンクトゥリアの神殿騎士団を救援に全軍派遣するわけには絶対にいかん。いつまた我ら自身が、この聖都の喉元に刃を突きつけられて急襲されるか分からんのだからな。防衛の要を空にはできぬ」


「……状況は完全に理解しました。結構です。俺たち四人ですぐに行きます」

「たった四人の冒険者で……三つの巨大な街の教団の大軍隊の包囲を、それぞれ分散して同時に救うというのか! いや、いくら君たちでもそれは物理的に不可能だ!」


「いいえ。そんな敵の用意した安っぽい盤上の分断の罠には乗りません。四人全員が一つのパーティーで、まずは最短距離の一つ目の街の包囲を四人の最大火力で全滅させて落とします。その後、全く休むことなく二つ目、三つ目へと一気に馬を全速力で走らせて、片っ端から潰して教団ごと無慈悲に皆殺しにして救いに向かう。これが、被害を出さないための最短で一番確実な方法です」


 レイドの全く迷いのない氷のような即答の決断に、教皇は信じられないものを見るように驚きに目を丸く見開いた。


「おい、レイド。三つに戦力を別れなくて本当にいいのかよ? 俺たちの今の強さなら、それぞれの街に一人ずつ散って、街の残った兵士の防衛指揮を取るくらいは余裕でできるぜ?」

 大聖堂を飛び出した後。すぐさま戦馬の装備と数日分の食料の準備をしながらガルドが真剣な顔で尋ねた。


「ダメだ。それは奴らの一番の思う壺だ。三人同時急襲という規模もタイミングも、俺たちの四人という戦力の要を分断し、一人ずつ弱体化させて包囲して確実に数とギミックで潰すための巨大な罠に決まってる。お前たちをバラバラの死地に送るような真似は、二度と絶対にしない」

 レイドは馬の手綱をギリギリと引き締めながら、三流のオモチャのような罠を仕掛けた見えない敵への強烈な殺意を押し殺し、三人の顔を順番に強く見た。


「俺は一瞬だけ、奴らの仕掛けたクソみたいな過去の記憶に引きずられそうになった。だが、今の俺は昔とは違う。俺たちパーティーは、四人が一つに集まって初めて戦術的にも武力的にも一切の死角のない『完全な一つの武器』として機能する。安い分断の挑発には絶対に乗らない。……まずは北のグラシアの街の死地からだ。四人のありったけの全力の刃で、何万いようが敵の計算された分厚い包囲網を、ど真ん中の腹から強引に食い破るぞ」


「……了解よ。私の冷徹なリーダーが、一人で安っぽい個人的なトラウマを抱え込んで自滅しないという賢い選択をするなら。なんだって最後まで付き合うわ」

 セレナが颯爽と自身の純白の馬に軽やかに飛び乗り、長い銀色の髪を朝の風になびかせて、この上なく美しく頼もしく微笑んだ。


「王都だろうが北の街だろうが、どこからでも何万でもかかってこいっての! 俺の前衛の盾で、お前らが傷つく前に敵も罠も不安も全部まとめて弾き飛ばしてやる!」

 ガルドが右腕の巨大な大盾を力強くパンッと叩き、空高く闘志を突き上げる。


 教団の幹部によって仕組まれた、過去の地獄の絶望という最も冷酷で悪趣味な毒餌を正確に撒かれたレイド。

 だが、今の彼の精神には、そんな過去の情けない幻影を完全に力で振り払うだけの、仲間への絶対の信頼という強靭な「現在」があった。

 四人は三日間の休息を捨てて再び全速力で馬の腹を蹴り、王都を包む異常な戦火と悪意の渦中へと一陣の風のように飛び込んでいった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ