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全滅したパーティーを救うため、二周目は未来の知識で俺TUEEE……するはずが、敵が本気出してきちゃった件。  作者: 久喜崎


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第51話「五柱との衝突」

巨大な監視塔の頂上から、夜と朝の境界の暗闇を切り裂くようにして、セレナが全魔力を込めて上空から放った三本の極太の光の銀矢は。エルフの動体視力と何百年という修練によって極められた恐るべき速度と神業の精度で、寸分の狂いもなく十メートルの『腐敗の巨漢』の分厚い顔面へと到達した。


 グチャッ!


 まるで水風船を破裂させたような、耳障りで悍ましい濁った軟膜の潰れる破裂音が周囲に響き渡り、「腐敗の巨漢」の濁った黄色い巨大な右目と左目に、それぞれ深々と光る銀矢が突き刺さる。

 五柱の顔面を覆う、数百人の頭蓋骨を圧縮して作られた本来なら鋼鉄よりも硬質なはずの骨の仮面を真正面から容易く貫通し、巨大な眼球の組織そのものを内側の魔力で一瞬にして爆発させて完全に焼き切る必殺の視覚強奪の極大狙撃。それは、弓を極めたエルフの至宝としか表現のしようがない、美しくも残酷な絶技だった。


「グガァァァァァァァァァァァッ!!」


 視覚という絶対の器官を完全に爆破され。巨漢が、大地そのものが反響して震え上がるような、空気をビリビリと震わせる苦痛に満ちた絶叫の咆哮を上げ、両手で血と紫の粘液の吹き出す自らの顔面を覆う。

 視界を完全に失い、唐突な暗闇に落とされた巨大な化け物は文字通り発狂し、狂乱したようにその場に立ちすくみ、周囲に展開していた味方のアンデッド兵たちごと、大木のような巨大な両腕でめちゃくちゃに周囲半周の無差別の薙ぎ払いを荒れ狂うように始めた。


「よし、セレナの最高の一撃の狙撃が決まった! 奴は今完全に盲目だ! 今なら接近できる、ガルド、俺の壁になって一気に真っ正面から懐まで突っ込むぞ!」

「よっしゃァッ! 王都の化け物退治組のお通りだ! 出来損ないのゾンビども、俺たちの道をあけろォ!」


 レイドの後方からの鋭い突撃の号令と同時に。ガルドが全身の筋肉を爆発させ、レイドを背中に隠すようにして、巨大な純ミスリルの盾を構えたまま重戦車のように狂乱する巨漢の足元に向かって一直線に疾走する。

 視界を奪われた巨漢のデタラメな攻撃は、一撃の質量は即死級だが、見えていない分、振り回す軌道自体は単調だ。レイドは一周目の五年間で脳裏に焼き付けた死の知識と経験で、巨漢のリーチと攻撃の速度、そして関節の死角を完全に数ミリ単位で把握しており、ガルドはそのレイドの短く的確な指示通りに、寸分違わずステップを踏んで巨大な腕の薙ぎ払いを躱していく。


「右から地面スレスレの薙ぎ払いが来る! 足を止めてしゃがめ!」


 ガルドが指示通りに盾を構え、巨体のまま瞬時に低く身を沈めると。巨漢の丸太のような太い剛腕が、凄まじい風圧の暴風を巻き起こしながらガルドの頭上わずか数センチの空間をミキサーのように通り過ぎていった。

 その巨腕が通り過ぎた直後の一瞬の硬直の隙を突き、レイドがガルドの背後から弾かれたように巨漢の懐深く——巨大な体重を支える大黒柱である、人間で言うところの右足のアキレス腱の関節の部位めがけて飛ぶように飛び込む。


「シィッ! 穿て!」


 肺から鋭く息を吐き出しながら。風の魔力を極太の不可視の刃として白く纏わせた長剣を、レイドの全体重と遠心力を乗せて、巨漢の分厚いアキレス腱の部位へ斜め下から全力で叩き込む。


 ——だが。


 ガキィィィィィンッ!


「……っ!?」


 刃が肉を斬り裂く音ではなく。巨大な鉄の塊同士を全力で衝突させたような、甲高い金属音が夜に響き渡る。

 斬り裂くどころか、極限まで切れ味を高めたはずのレイドの風の刃が、わずか数ミリ表面を削っただけで分厚い『腐肉の鎧』に完全に跳ね返されて弾かれ、レイドの両腕の筋肉から肩にかけて強烈な痺れと反動が見舞われた。


 鋼鉄やオリハルコン以上のあり得ない硬度を持つ、圧縮された死の腐肉の塊。一周目で数多の精鋭の王都の騎士たちが絶望し、次々とその硬さに自らの剣をへし折られて屠られた、まさに巨大な理不尽そのものである『五柱』の絶対防御の絶望の装甲だ。


「レイド、気をつけろ! 上から来る、離れろ!!」

 巨体を見上げるガルドからの、血を吐くような鋭い警告。

 視界がなくとも衝撃で足元のレイドの存在にようやく気づいた巨漢が、レイドを一匹の不快な小虫を潰すように、丸太のような太い右脚を高く上げ、そのまま全体重を乗せて真上から踏み潰しにかかる。


「チィッ! さすがに生半可な下準備の剣じゃ通らないか!」

 レイドは瞬時に踏み込みに使った両足のバネを爆発させ、後ろ向きに十メートル近く後方へ大きく跳躍して離脱した。

 その直後。レイドが数秒前までいた足元の岩盤の地面が、巨大な足裏によって紙のように抉られ、周囲一帯に地震のような局地的な激しい揺れと土埃がドーム状に発生する。


「あんな異常に硬い分厚い岩みたいな腐った肉の鎧、どうやって普通の剣で内部の核まで斬り裂くのよ! 私の高火力の爆発魔法だって、あの分厚い表面の肉を何センチか焦がして削るくらいしかできないわ!」

 城壁の高い位置から戦場全体を俯瞰しているリーネの、焦燥に駆られた悲鳴のような声が響く。

 彼女が上空から援護で放っている何十発もの高火力の火球が、巨漢の背中や肩に何発も正確に直撃し大爆発を起こしているが。その装甲は文字通り分厚すぎて「表面の肉が少し吹っ飛び、黒く焦げる」だけで、奥の致命傷には全く届いていない。


「……あれが『五柱』の俺の知る理不尽な絶望だ。あの分厚い何万という死体でできた肉の装甲を完全にまとめて吹き飛ばすか、力尽くで引き剥がさない限り、生半可な刃渡りの浅い攻撃じゃ、中の『核』まで傷一つ届かない」


 レイドは痺れの残る両手で長剣を強く構え直し、奥歯をギリッと血が出るほど噛み締めた。

 巨漢の分厚い腹部の奥深く、何メートルという腐肉の壁の中に埋め込まれた致命の弱点である『黒い水晶』のコア。

 あれまで物理的に到達して完全に破壊しない限り。この巨大な化け物は尽きることのない魔力で無限に傷を再生し、周囲全体を死の沼に変える猛毒のガスを撒き散らし続ける。


「なら、どうするんだリーダー!? ここでジリ貧の持久戦やってたら、あいつの撒き散らす毒で先に全員の内臓が溶けて俺たちがお陀仏だぜ!」

 ガルドが大盾で押し寄せてくる大量のアンデッドの群れをブルドーザーのように弾き飛ばして粉々に砕きながら叫ぶ。


「ガルド! あいつから目を逸らすな、真正面に立て!」

「真正面!? あんなふざけた巨体で暴れ回る十メートルの巨大な重機のバケモノと、ただの人間である俺が真っ正面から力比べで衝突しろってか!」

「そうだ! あの巨漢が上から体重を乗せて振り下ろしてくる最大の攻撃である、丸太のような手のひらによる『叩きつけ』の質量を、お前の最大のフルスイングのシールドバッシュの下から上への最高のカウンターのタイミングで、真っ向から打ち合って物理的に空に弾き返せ!」


 それは、一周目では一度も、歴史上の誰一人として思いつくことも試されることもなかった、自殺行為としか思えない完全に馬鹿げた異常な戦術だった。

 『五柱』の十メートルを超える規格外の質量と魔力による純粋な暴力の攻撃を、ただの一人の人間の前衛が真っ向から全て受け止めて弾き返すなど、生物の限界の物理法則を超えている。

 だが、今のガルドなら。レイドと共に夜の王都で巨大なキメラの異常な攻撃を弾き返し、そしてあの『虚ろの魔女』の神をも超えるような恐るべき破壊力の雷撃をたった一人で真正面から受け止めてみせた、この狂ったほどに頑丈な規格外の彼の大盾ならば——。


「……ハッ! お前が『俺ならできる』と信じて無茶を言うなら、俺ができねぇはずがねぇだろうがよ!」


 ガルドは死の恐怖など微塵も感じないように、犬歯を剥き出しにして狂戦士のように極上のニヤリとした笑みを浮かべ。巨大な純ミスリルの大盾を正面に固く重く構えて、絶望そのものである『腐敗の巨漢』の真正面へと、自ら重戦車のように駆け出した。


「さあ来い、臭くてでけぇだけのクソデブ! 俺と力比べの真っ向勝負で遊ぼうぜ。この俺が真正面から相手になってやる!」


 ガルドの大音声の挑発に。視覚を失い、怒りに完全に狂っている巨漢が、その音と濃密な生命力で小虫の位置に反応する。

 巨漢の異常に太く巨大な右腕が、天高く重々しく振り上げられ。大気そのものを圧力でベシャッと押し潰すような凄まじい絶望の質量と重圧を纏いながら。神すらも冒涜するような強烈な、大地を丸ごと粉砕する一撃必殺の『叩きつけ』が、アリのようなガルドの頭上へと、容赦なく真っ暗な影を落として隕石のように落ちてきた。

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