表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
全滅したパーティーを救うため、二周目は未来の知識で俺TUEEE……するはずが、敵が本気出してきちゃった件。  作者: 久喜崎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

47/60

第47話「ハイブリッド」

大陸の中央に位置する宗教都市サンクトゥリアへの長い道中は、通常の行商人が通るような決して平易で安全な街道の旅ではなかった。

 王都を出て馬を飛ばして三日目の午後。舗装された道から外れた薄暗い道沿いの森の奥や、見晴らしの悪い岩だらけの荒野には。普段の自然界の生態系には決して存在しない、異様な腐臭を放つ教団が意図的に放ったと思われるグロテスクな異形の魔物たちが、まるでサンクトゥリアへの道を塞ぐ防衛線のように多数徘徊していた。


「——右側の腐海蜘蛛から距離二十、大きなのが三体! 飛びかかってくる『腐肉喰らい』の群れだ! ガルド、前に出てシールドバッシュで大通りの足止め! リーネはガルドの左の死角から回り込もうとする二体を、真空の魔法で牽制して射線を切れ!」


 馬の腹を強く蹴って全速力で駆りながら、後方から全体を俯瞰するレイドの口から、無駄のない一切の感情を排した鋭い戦術指示が的確に飛ぶ。


「おうっ!! 吹っ飛べ雑魚がァ!」

「了解! 大気の刃よ、切り裂け!」


 ガルドが走行中の馬の背から何十キロもある大盾を構えたまま重戦車のように飛び降り、着地の勢いそのままに弾丸のように魔物の群れの正面へ突進し、三体の巨体を強烈な盾の面で同時に空中に跳ね飛ばす。

 同時にリーネは馬上で器用に見事なバランスを保ちながら白樺の杖を鋭く振り下ろし、強烈な局地的な突風を起こして、左から奇襲をかけようとした敵の体勢を完全に崩して吹き飛ばした。


「……レイド、指示が少し遅いわ。上がガラ空き」


 セレナが馬上で呆れたように不満げに言った、それと全く同時のコンマ一秒の出来事。

 彼女の指先から見にもとまらぬ速さで放たれた三本の銀の矢が、レイドが完全に戦術の死角として見落とし、指示を出していなかった「上空の太陽の逆光に隠れて強襲して気配を消して降下してきた有翼の飛行魔物」の硬い眉間を、三体同時にパラパラと正確に射抜いて地面にボトリと墜落させた。


「悪い、上は完全に俺の思考の死角だった。助かった!」

 レイドは馬上から苦笑いしながら飛び降り、地上でガルドがシールドバッシュによって弾き飛ばし、宙で無防備に体勢を崩した右側の敵の分厚い胴体を、すれ違いざまの一閃、長剣の神速の刃で巨大な肉塊ごと真っ二つに一刀両断する。


「お前の五年前のカンペは『敵の確定済みの弱点』と『全体の大まかな戦術』だけでいいんだよ。現場で飛び交う細かいアドリブの対応やイレギュラーは、俺たちの筋肉と直感が現場で勝手に一番いい最適解で動いてカバーして対応する。ベルグの戦いで、そうやって役割を分担していくって四人で決めたろ?」

 ガルドが大盾の銀の表面にべったりとついた魔物の紫色の粘液を鬱陶しそうに払い落としながら、ニヤリと自信に満ちた白い歯を見せて笑う。


 そう、これこそが、王都での夜の激闘と、ベルグの街での予測不能の教団の奇襲防衛戦を経て、四人のパーティーが実戦の中で研ぎ澄ませて独自に編み出した「全く新しい強さの方程式」だった。

 レイドの持つ一周目の血みどろの知識による「敵の絶対にブレない致命的な弱点の看破と、大局的でミスのない盤石な指揮」を安全のベースとして強力な基盤にしつつ。刻一刻と激しく変わり、記憶のカンペからはみ出す戦場の「ノイズ(未知のイレギュラーな敵の動き)」には、レイドが頭で計算して指示を出すのではなく、ガルド、リーネ、セレナの三人の鍛え上げられた戦士としての直感と自律的判断で瞬時に最適解を叩き出して対応する。


 名付けるとするならば、未来の絶対知識と高度な現場アドリブ対応の『ハイブリッド指揮』。

 全ての情報を一人で抱え込み、他人の命の責任を一人で負って細かくガチガチに指図して彼らのポテンシャルを結果的に殺していた頃に比べ。今の四人の阿吽の呼吸の陣形の柔軟性と、予測不能な事態への対応速度と突破力は、軽く数十倍に跳ね上がっていた。


「ああ、そうだったな。つい昔のどうしようもないお節介の癖で、お前らが傷つく前にって細かいところまで全部一から口出しちまう。悪い癖だ」

 レイドが剣の血糊を振って払い、滑らかな動作でカチャリと鞘に納める。


「本当よ。頼むからその一人でお母さんみたいに全部抱え込もうとする過保護な悪い癖は、これを機に完全に直してちょうだいね。私たちはもう、あなたの言う通りにしか動けない右も左も分からない操り人形じゃないんだから」

 リーネが自分の白馬をトコトコとレイドの横に寄せてきて、わざと可愛らしく頬をツンとふくらませた顔を作ってみせた。


「わかってるよ。お前たちが全員強すぎて、あまりにも頼りになりすぎて……このままじゃ近いうちに、俺の高い戦術指揮官としての仕事がマジでゼロになるんじゃないかって、切実にリストラを心配してるくらいだ」

「あら、いざという時の前衛で身体を張って注意を引く、便利で頑丈な囮役くらいにはいくらでも有意義に使えるわよ?」

「それ完全にただの肉壁扱いだろ! 千年も生きてるエルフのジョークは、美しさに反して冷たすぎて心にキツいな……」


 血生臭い魔物の死体が転がる街道の上だというのに、そんな冗談すら飛び交うような軽口を叩き合いながら、四人は素早く馬に跨り、歩みを止めることなく再び全速力で馬を走らせる。


 やがて、一行の目の前に、それまでの荒野とは異なる、手入れの行き届いたような美しくなだらかな緑の丘陵地帯が果てしなく横に広がった。

 その巨大な丘の頂上を駆け上がって越え、眼下の彼方に視界が開けたその先——。雲一つない青空を鋭く突き刺すような、純白の白亜の巨大な大聖堂を中心に。何重にも堅牢に重ねられた、魔法の輝きを帯びる巨大で分厚い白石の城壁にぐるりと囲まれた、神々しいまでに美しい街並みが、蜃気楼のように浮かび上がって見えてきた。


「……ついに見えたわね。あれが大陸の信仰の中心にして、光の大精霊の座す宗教都市、サンクトゥリア」

 セレナが馬の手綱を引き、風に揺れる金色の髪を押さえながら、その圧倒的な巨大都市の威容に眩しそうに黄金の目を細めた。

 遠目から見ても、その街全体が発する膨大な生命力と、大地から立ち昇る清らかな聖なる魔力の気配は、王都アロリアの比ではないほどに濃密で清浄だった。


「立派な壁と聖堂だ。だが、一周目の俺の見下ろしたあの日の記憶じゃ、あそこは教団の化け物どもの手によってたった三日で焼け落ちて完全に灰になった。俺の頭の知識の中にあるのは、美しいあの大聖堂の鐘の音じゃない。あそこが『数万の悲鳴とともにどうやって内部から地獄に飲み込まれて無慘に滅びたか』という、最悪のパズルのピースの記録だけだ」

 レイドは丘の上からその平和な街並みを見下ろしたまま、革の手袋の中で無意識のうちに、手が白くなるほど手綱をギリッと強く握りしめていた。

 あの日の、街が丸ごとアンデッドの手によって黒ずんだ腐肉の地獄に沈んでいく光景のフラッシュバックが、レイドの目の奥で警鐘のように点滅している。


「レイド」

 ガルドが、不安そうに見つめるレイドの隣にスッと己の巨大な馬を並べた。


「あの未来じゃ三日で滅びたんだろうが……今度は、灰になんか絶対にさせねぇ。俺たちが、お前のその頭の中にある最悪の未来のパズルを丸ごとひっくり返して、新しい平和な色に書き換える。今までもそうやってきた。そうだろ?」

「……ああ、お前の言う通りだ。過去の幻影にビビるのはもう終わりにする。俺たちの、この四人の手で……三日後に落ちるはずのあの大聖堂の鐘の音を、教団の化け物どもへの『完全勝利を告げる鐘』に力尽くで変えてみせる」


 レイドの瞳から躊躇いの薄闇が完全に晴れ、強い決意の光が射し込んだ。

 四人は無言で深く頷き合うと、同時に強く馬の腹を蹴り上げ、世界の運命を左右する巨大な決戦の地、美しき宗教都市サンクトゥリアの巨大な正門の城壁へと向かって、一陣の熱い突風のように丘を駆け下りて飛び込んでいった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ