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全滅したパーティーを救うため、二周目は未来の知識で俺TUEEE……するはずが、敵が本気出してきちゃった件。  作者: 久喜崎


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第45話「背中を預ける」

黒煙が立ち上り、あちこちで燃え盛るベルグの美しい街のただ中。

 王都のような強固な防衛機構を持たないこの街を容易く制圧するはずだった教団の狂信戦闘員たちは、突如として正面から風のように現れた、たった三人の冒険者の恐るべき猛攻の波により、築き上げた完璧な包囲の陣形を次々と無惨に粉砕され、完全に瓦解させられていた。


「おいひるむな! たかが冒険者三人だ。騎士団でもないはぐれ者だぞ! 陣形を戻せ! 逃げ道を塞いで囲んで物理的に押し潰して殺せ!」

 教団の部隊長らしき、赤いマントを羽織った男が焦ったように狂信的な怒号を上げ、それに呼応した三十人近い完全武装の黒衣の兵士が一斉に、前衛であるガルドの巨体をアリの群れのように何重にも包囲しようと殺到する。


「たかが三人だと? お前ら教団の連中は、数の数え方も知らねぇのか! 俺たちは最強の四人だ!!」

 ガルドが大音量で豪快に笑いながら、全く怯むことなくステップを踏み、迫りくる五人の教団兵を分厚い大盾の薙ぎ払いで数人まとめて空の彼方へ強引に叩き飛ばし、その巨大な質量で壁を作って三十人を真正面から完全に足止めする。


「炎よ、全てを焦がし尽くせ!」

 ガルドの足止めで包囲が完全に狭まる一秒前。安全な後方から放たれたリーネの巨大な直径数メートルの灼熱の火球が、敵が最も密集している地帯の中心へと正確に着弾し、爆発の熱波と爆風が連鎖して周囲の教団兵を次々と吹き飛ばす。

 さらに、爆発による黒い煙が立ち込めたその向こうから。一切の視界不良など関係ないとばかりに、セレナの放つ銀色の矢が、光の筋となって次々と部隊長クラスや指示を出す厄介な詠唱兵の喉元の隙間を、雨のように正確に一つ一つ貫いていく。


 三人の動きは、言葉すら交わしていないのに、それぞれの得意な役割を完璧に理解し、互いの危険な死角を川の流れのように自然に補い合っていた。

 そこには、これまで戦闘における「脳」として、一人で全てを事前に計算し機能していたレイドの細かな戦術指揮は一切存在しない。

 だが、だからこそ生み出される野生の勘と、その場の状況に応じた即興の連携のスピードが、教団兵の定石通りの予測を完全に、そして圧倒的に上回っていたのだ。


「……なるほどな。俺のカンペ、もうどこを探しても要らねぇじゃねえか」


 少し離れた安全な高い屋根の上から、剣を構えたままその圧倒的な制圧の戦況を見守っていたレイドは、強ばっていた肩の力を抜き、自然と嬉しそうな笑みをこぼした。

 未来を知っている一周目の自分は、彼らが死なないようにと過保護に全てを管理し、ただひたすらに細かく安全な指示を出し、彼らの本来持っていた爆発的なポテンシャルを「リーダーのもとにある安全の枠内」に勝手に押し込めてしまっていたのかもしれない。

 彼ら自身の、どんな想定外にも抗える真の戦士としての恐ろしいほどの強さを。実は今まで本気で信じ切れていなかったのは、彼ら自身ではなく、未来の記憶に縛られていた自分だけだったのだ。


「——本当に、随分と余裕で油断してんなよ。あの程度の有象無象を倒したくらいで世界が救えると思うな」


 突然。

 一人で安堵の笑みを浮かべていたレイドの、まさに真後ろの死角のから。五柱のそれに似た、恐ろしく濃密で粘り気のある冷たい殺気が、蛇のように鎌首をもたげて一気に膨れ上がった。


 背後を振り返るコンマ数秒の暇もなく、レイドのアスリートである肉体が本能の警鐘だけで即座に反応した。腰から銀の長剣を居合の速度で抜き放ち、振り向きざまに背中越しへと、自分の首目掛けて全速力で飛来した不可視の凶刃を、強引にフルスイングの刃で弾き返す。


 ガキィィィィッッッ!!


 火花の嵐が散り、鋼鉄同士が強烈に反発する音が鼓膜を叩く。手首の骨が折れるほどの衝撃に、レイドはバランスを崩して屋根の瓦礫の上を数歩大きく後ずさった。

 振り返った先の屋根の天面の上に音もなく立っていたのは、身の丈以上に異常に長く、そしてギザギザに歪な形の呪われた太刀を持った、両目に眼帯をした教団の特級暗殺者だった。


「どうやらお前がこの世界に突然現れた『神の未来のイレギュラー』の男らしいな。先鋒での前線にも出ず、他の三人の雑魚に任せて、一人で無防備にこんな場所で高みの見物をしているとはアホらしい」

 暗殺者が、眼帯の奥にある見えない目で不気味にレイドを値踏みするように観察する。


 その太刀を受け止めた時の筋力と速度の桁違いの威力に。魔女戦でのダメージがまだ骨の髄まで抜けきっていないレイドの身体の奥底に、ビリッとした激痛が走る。

 レイドたち四人が戦場を攪乱する裏で、この特級の暗殺者は『イレギュラーであるレイド一人だけを確実に消すため』だけに、別働隊から一人で動き、気配を完全に殺して背後から忍び寄っていたのだ。これもまた、レイドの未来の記憶のカンニングには全く存在しない、完全なる敵の未知の強引な一手だった。


「……自分の身を一番安全地帯に置く高みの見物だって? 違うな、眼帯で目が見えねえなら教えてやるよ。俺はただ、俺の自慢のあいつらの凄すぎる戦いっぷりに、心底惚れ惚れして見惚れてただけだ」

 レイドは右手首の痺れを気力で散らしながら長剣を構え直し、ゆっくりと戦闘モードに入るための深く冷たい息を吐いた。


「口の減らない男だ。ただの強がりを。お前一人では、今の一太刀を防ぐだけでその肉体の奥底が悲鳴を上げているボロボロの状態なのは、魂の音で分かっている。他の三匹の虫が気づく隙すら与えない、一刀両断にここで死ね——!」


 暗殺者が足元の瓦を数枚弾き飛ばし、残像すらも残さない恐るべき神速の超高速ステップで踏み込み、レイドの首だけを確実に刎ね落とそうと、巨大で歪な太刀を音速で横一文字に全力で振り抜く。

 速すぎる。俺の身体の反応速度とこのボロボロの腕では絶対の確信を持って防げない。これは確実に首が飛ぶ、そうレイドが走馬灯を見て絶望を直感した、まさにその瞬間のことだった。


「あんた、教団の薄汚いドブネズミの分際で、私たちの大切な世界のリーダーの背中に薄汚い刃で触れる気?」


 遠く離れた地上から一切の合図もなく、突然空の下から音を裂いて飛んできた、圧倒的な流星の光の束のような三本の白銀の矢。

 それは一直線に落下するのではなく、あろうことか放物線を描いて天から降り注ぎ、暗殺者の振るう見えない太刀の軌道と、レイドの首の間の数ミリという空間をすれすれに見事に通り抜け。まさにレイドの首を飛ばす一秒前に、特級暗殺者の全速力の神速で持っていた太刀を刀身のど真ん中から、信じられない精密さで粉々に完全粉砕してぶち折ったのだ。


「なっ——!? 神速の刃を、遠距離の矢の精度でピンポイントで折っただと!?」

 暗殺者が、絶対的な自分の必殺の一撃を武器ごと不可解にへし折られた驚愕に、一瞬だけ完全に足を止めて硬直した。そのプロの暗殺者にあるまじき、たった一秒の隙。だが、それが致命傷だった。


「レイド! 上に飛んで!」

 今度は真下の路地の影から、リーネの鋭い声。彼女が地上から屋根の上の床の壁を思い切り蹴った衝撃を、巨大な風の魔法が凄まじい上昇気流へと完全に変換し、レイドの足元の瓦礫の屋根を超速で爆発的に押し上げる。

 急な上昇気流に乗って重力を無視して安全な空のはるか上へ飛び上がった驚くレイドと、まるで計算されたパズルのピースが入れ替わるように。


「どごォォォォラァァァッ!! そこを退きやがれこの雑魚が!!」


 一切の気配を消して、重い鎧ごとリーネの風に乗って地上から恐るべき人間大砲の砲弾のように超跳躍してきたガルドが。右手に持った数百キロの分厚い新品の大盾の表面で、隙だらけの暗殺者の顔面と腹部を無慈悲な真芯で強烈に捉え、屋根の上から街の硬い巨大な石畳のど真ん中へと、何十メートルも下に向かって一直線に叩き落としたのだ。

 地響きとともに石畳がクレーター状に陥没し、特級暗殺者の教団員は全身の骨を砕かれ、ピクリとも二度と動かなくなる。


 レイドはリーネの制御された優しい風にクッションのように受け止められ、ふわりと別の屋根の上の安全な場所に音もなく着地した。

 完全に息の合った、もはや奇跡と呼ぶことすらおこがましい神業の連携。

 レイドが「助けてくれ」と情けない指示を出すまでもなく。三人が別の場所で戦いながらもレイドの背後への危機をそれぞれ独立して即座に察知し、視線一つ交わさずに、彼を無傷で守る最適解の圧倒的な手を流れるように打ってくれたのだ。


「……おいおいお前ら。俺は一応、お前たちを俺の手のひらの上で安全に転がして守る、最強の『脳』のつもりでいたんだが。これじゃどっちが守られてるのか分からねえぞ」

 レイドが呆れたように苦笑いしながら、命拾いした自分の首をさすりつつ肩をすくめる。


「本当にバカね。ずっと戦い続けて脳みそが疲れて動かない時は、私たちの手足が代わりに勝手に最善の動きで動くように出来てるのよ。それが最高のパーティーの常識でしょ?」

 セレナが弓を一回転させ、下から見上げて美しいウインクをパチリとしてみせる。


「俺たちだけが何も知らずに死なねえように、お前一人が血反吐吐いて必死こいてたのは知ってるが。それだけがお前の全てじゃねぇよ。お前を背後から絶対に死なせないのも、俺たちの誇りある何よりの役目だからな!」

 ガルドが大盾で陥没した地面の上で仁王立ちしながら、太陽のように親指を高く立てて、真っ白で大きな歯を見せてにかっと笑った。


 もう、俺は一人で戦っているんじゃない。

 自分のカンペが全く通用しない記憶にない未来だろうと、予測できない脅威の敵の新しい一手だろうと。一人で立ち向かえば死ぬ最悪の事態だろうと。

 この最強の四人で背中を一切の迷いなく預け合えば、どんな絶望だろうと必ず抗って生き残れる。


「……よし、お前ら最高だ! まだ残ってる教団のゴミ掃除、全員一緒に派手に終わらせるぞ!」


 レイドの手から、五年間の孤独で長すぎた一人だけのプレッシャーが完全に、そして爽快に抜け落ちていた。

 彼の握る銀の長剣が、空の太陽の光を美しく受けて、かつて一周目では見たこともないほど力強く、眩しく輝いていた。

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