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全滅したパーティーを救うため、二周目は未来の知識で俺TUEEE……するはずが、敵が本気出してきちゃった件。  作者: 久喜崎


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第37話「真の要」

「——左の肩口にある触手の根元。あれが巨大魔法陣への魔力供給ラインだ」


 レイドが、激痛を押し殺しながら鋭く言い放つ。

 一周目の恐怖を振り切り、今この場の観察と思考だけで導き出した答え。それは、規格外の怪物へ爪痕を残すための、文字通り針の穴を通すような突破口だった。

 たった一つの弱点。だがそれを突くためには、四人全員が完璧な連携を取る必要がある。一人でも欠ければ、絶対に成立しない作戦だ。


「なるほどね。あそこを断てば、あの馬鹿げた質量の黒槍は展開できなくなるってことね」


 セレナが弓弦を限界まで引き絞り、金色の瞳を魔女の左肩へと固定した。

 エルフとして数百年鍛え抜いてきた弓の腕。これまでの人生で最高の一射を、今ここで放つ覚悟を決めている。弓手の全神経を集中し、矢尻の位置をミリ単位で調整していく。


「ガルド、セレナが撃つまでの時間を稼げるか? あいつは確実に次の黒槍の雨を放ってくる。その直前、触手が魔力を吸い上げ始めた瞬間に——セレナが撃つ」

「任せろ。この世の全ての痛みを、この身体に引き受けるのが大盾使いの仕事だ」


 ガルドが、炭化しかけた大盾を固く構え直す。

 彼の筋肉は限界を超えて膨張し、毛細血管から血が滲み出していた。キメラ戦での怪我と先ほどの雷撃で、彼の肉体はとうに限界を超えている。右腕だけでなく、もう左腕のギプスも砕けかけていた。

 だが、その背中は鋼鉄の城壁のように分厚く、揺るぎなく頼もしかった。


「リーネ。ガルドの防御を多重結界で底上げしつつ、俺に『身体強化』と『風の刻印』をかけてくれ。セレナの攻撃が触手を断ち切った直後、俺が出る」

「えっ、レイドが出るって……無理よ! あなたの体はもう限界を完全に超えてるのよ! 太腿に穴が空いて、肩は抉れて、胸の骨だってまだくっついてないのに……!」

「まだ動ける。剣を振る力は残ってる。俺が動かなきゃ、この戦局は覆せない。……信じろ、リーネ。俺を信じて、お前の最高の魔法をくれ」

「……馬鹿。この大馬鹿。絶対に、死なせないんだから」


 リーネの両目から涙が零れ落ちる。だがその手は震えることなく、白樺の杖を正確に掲げた。

 杖が目にも止まらぬ速さで振られ、三人の身体に凄まじい密度の支援魔法が付与された。

 ガルドの大盾が淡い緑の光で包まれ、セレナの弓には風の加護が宿り、レイドの全身を透明な風の鎧が覆い尽くす。

 砕けた胸の痛みが一時的に完全に麻痺し、四肢に爆発的な力が蘇った。


「ありがとう。最高だ」


 レイドは銀の長剣を握り直し、切っ先を空に浮かぶ魔女に向けた。


「小賢しい。ノイズどもが何を企図しようと、絶対という名の重力が全てを押し潰すだけのこと」


 空中の魔女が、冷ややかに右腕を振り下ろした。

 天空の黒い亀裂がビキビキと音を立ててさらに広がり、その裂け目から降り注ぐ漆黒の魔力が、数百本の巨大な槍へと凝縮されていく。

 一本一本が建物を貫くほどの質量を持つ呪いの投擲。

 先ほどの雷光が『点』の破壊だとすれば、こちらは『面』の蹂躙だ。王都の四分の一を更地にするほどの圧倒的な質量兵器。


「来やがれェェェッ!!」


 ガルドの咆哮と同時に、大地が爆ぜた。

 無数の黒槍が夜空を覆い尽くし、ガルドの大盾とリーネの多重結界に直撃する。


 轟音。爆風。光。

 一撃防ぐごとに結界の層が硝子のように砕け散り、大盾が軋み、拉げ、ガルドの腕の骨が嫌な音を立てる。衝撃波で足元の瓦礫が砲弾のように吹き飛んでいく。

 それでも、ガルドは一歩も後ろへ下がらない。

 歯を食いしばり、咽喉の奥から獣のような唸り声を上げ、自分の血と汗に浸りながら、ただ立ち続けた。


「うおおおおッ!! レイドの後ろには、指一本通さねぇ!!」


 血反吐を吐きながら、ガルドが巨大な防壁となって槍の雨を耐え凌ぐ。

 リーネも割れかけた杖から結界を紡ぎ続け、顔中から血管が浮き出るほどの過剰な魔力放出に耐えている。タイミングが一瞬でもずれれば全滅、そのギリギリの綾の上で二人は踏ん張り続けていた。

 その信じられない防衛力に、空中の魔女の瞳にかすかな苛立ちの色が浮かんだ。


「鬱陶しい。——消えなさい」


 魔女が左肩の触手から、さらに巨大な魔力を練り上げようとした。

 触手が瞬間的に膨張し、黒い光脈が脈打つ——。


 ——その瞬間。


「見えたわよ、供給の起点」


 防壁の陰から、セレナの放った一条の銀光が夜空を裂いた。


 三本の矢を同時に番え、魔力を帯びた矢じりを一つの軌道上に完全に重ねて空気抵抗を打ち消し、音速を超える加速を得る——エルフの弓術の奥義、『三重ノ流星トリニティ・メテオ』。

 ティルナノグの森で数百年かけて磨いた技の粋を、たった一射に凝縮した必殺の一矢。


 その神速の矢は、魔女が魔力を吸い上げようとしたまさにその一瞬の隙——左肩の触手の根元に、ミリ単位の狂いもなく突き刺さった。


「——っ!?」


 魔女の顔が、初めて明確な驚愕に染まった。

 完璧だった面が歪み、漆黒の瞳に動揺の光が走る。

 左肩の触手がバチバチと黒い火花を散らしながら弾け飛び、魔力供給ラインが断ち切られたことで、空中に展開されていた残りの黒槍が一瞬にして霧散した。

 数百本の槍が消失し、王都を覆っていた紫色の光が大きく揺らぐ。


「今だレイドオォォォッ!!」


 ガルドの怒号。

 それが合図だった。


 レイドは、リーネの風の刻印によって極限まで強化された脚力で、足元の屋根を完全に踏み砕いて蹴り飛ばした。


 音速を超えた飛翔。

 重力に逆らい、一気に百メートルの虚空を駆け上がる。

 風の鎧が空気摩擦で白い閃光を放ち、流星のような軌跡を夜空に刻む。

 風圧が頬を裂き、触れる空気が爆音と鼻先で弾ける。セレナの矢が突き破ったおかげで、魔女の懐にまで届く道が開いた。


(届く——!)


 一周目では決して瞳にすら映すことができなかった、魔女の目の前。

 圧倒的な上位存在の、信じられないほどの至近距離にまで、レイドは一人の人間として到達した。

 魔女の漆黒の瞳が、初めてレイドを捉えた。その瞳には、わずかな驚きと、しかしそれ以上に深い侮蔑の色が宿っていた。まるで、目の前の虫けらがここまで辿り着いたこと自体が、理解不能な事態であるかのように。

 だが、レイドはその侮蔑を真正面から受け止めた。彼の全身を覆う風の鎧は、魔女の放つ威圧感によって軋み、今にも砕け散りそうだったが、彼の意志だけは決して揺るがなかった。

 リーネの魔法が、ガルドの咆哮が、セレナの放った一矢が、そして何よりも、この世界を救うという彼の誓いが、その身を支えていた。

 魔女の左肩からは、まだ黒い魔力の残滓が火花を散らしている。セレナの一撃は、確かに魔女の魔力供給を一時的に断ち切った。しかし、それはあくまで一時的なもの。この隙を逃せば、二度とチャンスは訪れない。

 レイドの脳裏に、故郷の村が、仲間たちの笑顔が、そして一周目で見た絶望の光景がフラッシュバックする。あの惨劇を繰り返してはならない。この手で、未来を掴み取らなければならない。


「墜ちろ、化け物ッ!!」


 レイドは全身の魔力と残り全ての生命力を銀の長剣の切っ先に集め、仲間の全ての想いを乗せて——魔女の首元へ向けて、渾身の一刀を放った。

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