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朧車  作者: 赤丸朧
第4幕 しょうがい
42/51

6場

 暗闇に浮かぶ非常通路を示す緑の光。火災警報器の赤い光。日の落ちた校舎内はそれ以外の明かりが無く、まるで別世界みたいだった。


 構成んくんとの打ち合わせ通り昇降口は開いていた。


 自分の教室の前を素通りしてさらに上へ。屋上への扉も打ち合わせ通り。


 重い扉を開いた先が待ち合わせの場所だった。

 約束の時間はとうに過ぎてるけど、構成員くんは居ない。


 耳にうるさい程に風が強い。立地の高い学園、さらにその屋上からは遠いビルの明かりが綺麗に見えた。


 しばらくボケーっと眺めていると、風の音より大きな軋みを上げて背後の扉が開いた。


「お待たせしました」


 引越しに使うような大きなダンボールを重そうに抱えた構成んくんが、肩で扉を押していた。


「おそーい」

「申し訳ありません」


 作業的に返事をしながら、肩で扉を静かに閉じる。私を視界に入れた途端、気に入らなそうに目を細めて不満を垂れた。


「なんですかその格好は。パーティーにでも出かけるんですか」

「あー」


 私の私服は大体どれも似たり寄ったり。叔母様が選んで送りつけて来たものばかり。


 黒いドレスの様なワンピース。上品な肌触りのカーディガン。いつも制服と寝間着ぐらいしか着ないので特に不満を言ったりした事も無かった。上から羽織った白い魔法のコートは分厚くて、確かにねー。これからパーティー会場に入りますよーとでも言いたげな出で立ち。


 パーティー。

 そうパーティーだ。これから私の全てを取り戻す盛大なパーティーが開かれる。


 だから私はひらりとコートの裾とスカートをはためかせる様に振り返ってみせて、

「まぁねー」

 そう自信を以って返した。


 もう何も言う気が起きないらしい構成員くんは溜息を返事とした。私の近くにゆっくりしゃがみ込みながらダンボールを置く。重そうな音がした。


 中身について聞く前に、構成員くんは手早く展開していく。私はその中身を覗き込もうと屈んだら、ダンボールから取り出した何かを目の前に差し出された。


 銀色のアルミホイルでくるまれている、手のひらサイズのかたまり。


「なにこれ」

「おにぎりです。夕食は摂りましたか。まだならどうぞ」

「ありがと」


 まだだったので、素直にそれを受け取って立ち上がった。屋上の縁まで行き座ろうとして……高くて怖いし、汚いしで少し迷う。でも他に座る所も無いし、コートの裾をおしりに敷くようにして浅く浅く腰掛けた。落ちたら怖いので、かなり前傾姿勢だ。


 ダンボールから何かを取り出していく構成員くんを尻目に、アルミホイルを開いていく。コンビニのより一回り小さな、綺麗な三角形をしたおにぎりが二つ包まれていた。


 それにしても。

「アルミホイルでおにぎり包むんだ」

「何か問題でも?」


 作業を続けながら、構成員くんは興味も無さそうに返事をする。

「別にー。ただ、初めて見たから」

「そうですか。我が家ではそれが普通です」

「へぇー。っていうかコレ、構成員くんがにぎったの?」

「そうです。何か問題が?」


 またも「別にー」と答えながら「頂きます」と告げて「どうぞ」と返事を聞いてから一口含んだ。もぐもぐと咀嚼しながら、他人ひとがにぎったおにぎりを食べたのはいつ以来だっけ? ラミィ達と闇おにぎりした時以来かな? とか取り留めも無い事を考えていた。


 闇鍋ならぬ闇おにぎりと違って、中身はすごく普通だった。

 たこわさ。


 この味は学園寮A棟一階のスーパーのやつだなぁ。慣れ親しんだ味の筈なのに、他人がにぎったものだと全く違う味に感じた。ご丁寧にも全体に薄く塩ふってあるし。


 私が無言でおにぎりを食べ進める間、構成員くんはずっとダンボールの中身を取り出したり、弄ったり、身につけたりしていた。


 食べ終わってぼーっと作業を見つめていれば、この真っ暗な中でもその作業がなんとなくわかってくる。


 身につけた真っ黒いベストは防弾かなにかで。手早くいじり倒し動作確認してる何かと、装填されるのは弾倉で、その二つは合わさって効力を持つ拳銃になる。腰、それから左胸の前あたりにくっついてるのはナイフで。肘と膝にはプロテクター?


 構成員くんが行ってるのは正に戦闘準備というものだった。


 眺めているのも飽きてきて、そろそろ何か言おうかと思い立ったあたりで、ようやく構成員くんは立ち上がった。指の先まで手袋を詰めて感触を確かめながら、


「パーティーには服装規定が付き物ですよ」

 喋ったと思ったらよくわからない事を言い出した。

「は?」

 私の冷ややかな声に構成員くんは悔しそうに歯噛みしながら、

「貴女がさっきパーティーがどうとか言うからッ」

 と、言い訳をボソリとかます。


 それから小さく咳払いをして仕切りなおした。


「僕はまだ、貴女をソード1にぶつける事を決めたわけではありません」

「えぇー。予定(はなし)と違うでしょ」


 私のぶーたれた声に構成員くんは返事もせず、手で『こっちに来い』と合図を示す。仕方なくそれに従った。


「あの話は、貴女がソード1を止めに行く前提ですので」


 構成員くんはどんどん先に歩いて行って、私はそれについていく。原付に逃走準備までしてあったのに。まだ踏ん切りつかないのかな。


「条件が三つあります」


 条件かぁー。とりあえず今からその条件をクリアさせられるのかな。


『そこで止まれ』と手振されたので、私は止まった。途端にコートの隙間から入ってくる風が冷たくて、私は身体を抱くように腕を組んだ。うー、寒い。


 構成員くんはさらに数歩離れた所で止まり、振り返る。8メートル程離れた所でお互いに向き合った。


 構成員くんは何も言わず、脇に下げてあった拳銃を取り出し、ゆっくり両手で構えた。


 その銃口が、真っ直ぐ私を捉える。


「え」

 ちょっと、撃たないよね?


 私がそう言うよりはやく、短く、簡潔に、

「撃ちますよ」

 構成員くんは告げた。


 右手に握られ、左手に添えられ、向けられる銃口。瞳はしっかり開いて私を捉えてるのに感情が見て取れない。熱くも冷たくもない、そこに在る事実だけを見据える表情。


 溢れきる動揺が私の組んでいた手を宙に揺らす。


「動かないで下さい」

 その言葉に身体がピタリと止まった。


「――――外れると、冗談では済まないので」


 え? …………いや、当たったら冗談じゃないでしょ。

 そう思った瞬間だった。


 くぐもった炸裂音。

 左肩への弾かれるような衝撃。


「いっ――――ぐぅぅぅぅぅぅッ!!」


 そして痛み。


 膝をついて、右手でその箇所を潰すように握りしめる。それでも耐えられなくてその場に転がり、背を伸ばし、縮め、のたうち回る。


 声にならない呻きを上げた。


 雷のような鋭い痛みは、やがて炎のような重い痛みに変わった。


 血まみれのそれを想像して、右手を開いて眼前にさらす。


 そこには――――自分の目が信じられない――――強く握りすぎて真っ白、そしてだんだんと赤みが戻っていく綺麗な私の右手があった。


「ゴム弾。非殺傷の弾丸です」


 また肩を握って悶え耐える私の頭上から、声が降ってきた。


「実弾だったら、こんなものでは済みません。ソード1の装備も実力も、今の僕以下という事は無いでしょう」


 構成員くんが、親指、人差し指、中指を立てて私に突きつけていた。


「三つの条件のその一、実戦形式の組手です。僕から三本、取って頂きます。貴女の覚悟、見せてください」


 無表情に私を見下ろす構成員くんを、滲む涙を拭いなら、私は睨みつけた。



「はい。三本めー、とった~」


 はふぅ、と真っ暗な夜空に息を吹きかける。白くはっきりと見えたけど、もう寒さも感じない程に暖まっていた。いい食後の運動だ。


 私は構成員くんの背中に膝を乗っけている。組手の途中で教わった人体の拘束法だ。何度かやられてるので、苦しさと敗北感はよく分かる。いい気分。


「ハァッ……ハァッ……貴女がッ……けほっ」


 地べたに貼り付けの構成員くんがもがく。息は上がりきっていて、すこし掛ける体重を増やすだけで咳き込む。


 次第に叫ぶようだった呼吸も落ち着いてくる。諦めたように深呼吸をする。すると自由だった右腕でパンパンと、汚い屋上の地面を叩いた。ギブアップの合図はできても、その腕が私をどうこうする事はできない。


 私がゆっくりと拘束を解くと、四つん這いのまま這いずって行って、離れたところに落ちていた拳銃を拾い、ホルダーにしまう。そのままぐったりと座り込んだ。


「おーい。約束通り、三本とったぞー」


 声を掛けても、休み足りないらしい構成員くんは真っ暗な空を仰いでいた。溢れる汗を拭いながらこっちを睨みつけてくる。


「なーに? 言いたいことでも?」

「『三本先取』にしとくべきでした」

「そうだねー。でも合格でしょ?」

「本気で言っているんですか? 貴女は三回、僕を倒す間に、二十七回死んでいるんですよ」

「そだねー。でも、もう構成員くんは私に一回も勝てないよ、きっと」

「そうでしょうか」


 言うのと同時だった。構成員くんはホルスターから拳銃を引きぬき、私に向けて、無造作に撃つ。


 【でもそれが私に当たることは無い】


 光輪の展開は狙って撃つよりはやい。目の前で構える動作をされればなおさらに。


 放たれた弾丸は私の全身を守る様に作られた光輪に吸い込まれていった。しかもその出現先を屋上扉横の壁にして、弾丸(ゴミ)の配慮までする余裕がある。


 思考型次元超越系アクティブディメンジョン、光輪は強力な武器になる。私はその事を学んだのだった。そして、構成員くんもそれが目的だったんだろう。


 私は光輪を消す。それを見てから構成員くんは、

「どうやら、そのようですね」


 今度こそ諦めたのか、その振りをして不意を狙うつもりなのかわからないけど、またまた拳銃を仕舞いこんで立ち上がった。


「いいでしょう。一つ目は問題ありません。武装したただの人間一人に、お互いを認識している状況で、貴女が遅れを取ることは無いでしょう。それほど光輪は強大です」

「『負けたのは僕の所為じゃない』って事?」

「単なる事実です」


 言いながら膝の汚れを払って歩き出す。ダンボールまで行こうとしたのを見て、目の前に光輪を作ってあげた。


【構成員くんのがその場からダンボールに手が届く様に】


 いきなりで驚いたのであろう構成員くんが一瞬びくつく。そして振り返って睨んできた。私は微笑んで『どうぞ』と仕草をすると、溜息をついて光輪に手を突っ込んだ。


 どうやらタオルを取ったらしく、それで顔を拭き、もう一枚を差し出してきた。受け取って私も顔を拭く。何度も転ばされてだいぶ汚れちゃったけど、私服が黒くて助かった。汚れが目立たない。


「で次は?」


 今の取っ組み合いでだいぶ時間が過ぎた。腕時計の文字盤を見る。予定ではあと五時間以内に殺し屋ちゃんをなんとかしないといけない。


「簡単な事ですよ」


 つまらなそうに言って、またダンボールに手を突っ込む。中身は見てないけど、意地の悪い構成員くんが言う『簡単な事』が私にとって簡単であろう想像ができない。


 嫌な予感がする。

 構成員くんは座り込む。取り出した下敷きのような物を座った前の地面に置く。さらにその上に真っ白な紙を敷いて、文鎮のようなもので抑える。終いにペンのような物をそこに転がした。


 準備が終わったらしい構成員くんが座ったまま私を真っ直ぐ見上げる。


「遺書を書いて下さい」

 ような物、ではなく、そのままそれだったらしい。でも。


「…………ここで?」


 風がビュービュー吹いている。紙がパタパタ揺れている。そしてほぼ真っ暗。


 一応、従うように、その遺書の準備の前に正座のように座る。


「えぇ」

 構成員くんは胸のあたりからペンライトを抜くと、座り込んで紙を照らした。


 どうやら本気らしい。遺書かぁ。


 自分の近くに光輪を作り、拭き終わったタオルを放り込む。【その先はダンボール】


 円状に浮き上がったような、真っ白な紙の前に正座して、ペンを握った。キャップを抜くと、それが万年筆である事に気づいた。


 そうして結構な時間、私は真っ白な紙を見てるだけだった。


 だってそうだ。遺書なんて書こうと思った事すらない。何を書けばいいのかもわからない。自分の死について思う事でも書けばいいのか。特になんとも思わない。怖いとか悲しいとか無念とか、そのくらいだ。


 そんなのは書かなくてもわかるでしょ。人間みんなそうだ。つまり、

「特に書くこと無いんだけど」

 そう言いながら顔を上げる。目を閉じていた構成員くんは「そうですか」と返事をしたけど、動かない。何か考えているのかとしばらく待つと、口を開いた。


「ただ書き方を知らないだけでしょう。とりあえず、貴女に関係のある人物を、一人一人リストアップして下さい。紙に余裕はあります」


「はーい」

 私は言われた通りにする。


 家族。叔父様、叔母様、妹。

 恋人と友人。ラミィ、BとC。サッチ、右ちゃん。左さんは……遠慮しとこう。


 そこで筆が止まった。あれ? こんなものだったっけ。我ながら狭い交友関係だ。


 あとは……。

 ちらりと顔を上げて、構成員くんが未だ目を閉じている事を確認してから、


 構成員くん。


 と、最後に書き足した。


「はい。できたー」


 そう言うと構成員くんはダンボールを引き寄せて、中を漁って数枚、紙を寄越してきた。それを受け取って文鎮に挟む。構成員くんが動いたせいでペンライトの明かりがずれた。構成員くんは目を閉じているので、気づかない。私は自分で位置をなおす。


「それでは、宛名を書いて下さい。フルネームで。そして自分が死んだ後、どうして欲しいか、どうしないで欲しいか、言いたいこと、話したいことを書き……」


 言いながらさらにダンボールから朱肉を取り出して紙の横に置く。


「最後に、今日の日付と、貴女の名前、そして拇印を」


 なるほど。あとは手紙みたいなものだ。死んでしまってからではもう出来ない事を、手紙という形で事前にしておく、と。


 簡単だと思った。現に最初、叔父様と叔母様の名前を書くのは簡単に出来た。ただその後が続かなかった。


 なぜ? それは必要が無いから。

 必要がない? それは私が死なないから。


 そう考えて、

 私は別に自分の死に向かい合ってる訳じゃないという事に、ようやく思い至った。


 ただ考えないようにして、理由もなく『死なない』と確信してるだけだった。


 でも。

 それの何がいけないの? 目を背けなきゃ歩けないとしたら、目を背け立ったいいでしょ。


 私の左手は嘘がつける。

 私は持っていた万年筆を左手に持ち替えた。


「いい忘れましたが」


 まるでそれを見ていたようなタイミングで構成員くんが口を開いた。


「右で書いて下さい」

「あー……なんで? 私、両利きなんだけど」

「いいえ。貴女は右利きです」

「あー……っていうか、見てたの? 目、閉じる振りして」

「見ていなくても気配……音等でわかります。……『やる』と思っていれば」

「えーと。私が左手で書くと、思ってたって事?」

「はい」


 なんで? と言いたくなって、やめた。

 嫌な予感がした。私の思惑(おもわく)をピタリと当ててきそうな気がした。


「でも私の遺書なんだし、私の好きにしてもいいでしょ? 絶対に、って言うなら右でもいいけど」


 だからわざわざ、どっちでもいい風を(よそお)った。しかし。


「では、右でお願いします」

「右手でも左手でも変わんないと思うけどなー」

「『絶対に』、です」


 ムッとした。わかりましたよー。遺書という条件を出したのは構成員くんだ。その構成員くんが右手で書かなきゃ認めないというなら、そうするしかない。


 そうして右手に万年筆を持って。


 一時間が過ぎた。と思って時計を見たらまだ五分も過ぎてなかった。持ち替えてから何度時計を見ても、全くといっていい程、針は進まない。

 微動だにしない万年筆を持っていると、一分が、一秒が、びっくりする程長い。


 そして動く気配もない。

 不意に、構成員くんがよくわからない事を言い出した。


「貴女に、受け流す程の強さは無い」


 私は思わず顔を上げて、目を閉じている構成員くんをまじまじと見てしまった。


「貴女が物事に動じないように見えるのは、全てを受け流しているからではありません。受け流せる事柄しか受けようとしないからでしょう。受け止められない事は忘れ、考えないようにして、逃げている。その癖、周りにはつよがり、茶化してアピールしてる。自分は平気だと。……そうでしょう? 逃げ道も、虚偽の盾も無くしてしまえば、何も出来ない。だから遺書が書けない。受け流せない。向かい合えない。……弱い」


「は?」


 言ってる意味がわからない。


「――――『風を優しく受け流す柳(あなたのなまえ)』とは程遠い」


 一瞬にして衝動が湧き上がった。


 突き飛ばして、股間を蹴りあげて、堅い靴の先で頭を(できれば目を)蹴りあげて、跳んで全体重を掛けたニードロップをしかけて――――。


 怒りに手が出そうになって、ようやく私の一部が冷静になった。冷静な部分は小さく『反論の余地が無いから手が出るのだ』と告げていた。


 構成員くんの小難しい話は、半分に聞くことが出来た。またよくわからない事を言ってると思えばよかった。


 でも。


 知り合って一週間足らずの後輩男子にわかったような事を言われて。


 両親から貰った名前まで馬鹿にされて……ッ!


 ――――なんで馬鹿にされてるの?


 それは遺書が書けないから。


 じゃあ、こんな書きたくもない遺書を書かされてるのはなんでだっけ?

 私が殺し屋ちゃんの相手をしなきゃいけないから。


 それはなんで?

 私が行かなくても、私はラミィと逃げられる。サッチだって死なせない。逃げた後で吉祥天を消す方法を私が探す事もできる。


 なんだ。

 つまり私は、この目の前に座る、サッチの彼氏だというだけの、いけ好かない、なんでもわかってます風な、すまし顔の、エゴイストクソメガネ後輩男子の為だけに、


 自分の人生を掛けようとしてるんだ。


 そう思うと、スッと気持ちが冷めていった。


「あー」


『もうやーめた』

『そこまで言われて、やる義理なんて無いし』

『君はやりたいからサッチを助けたし、やりたいから私のそばをウロウロしてた』

『私も好きにするから。後、よろしくー』


 そう言ってしまえば、冷めた気持ちの中で燻ってる何かは綺麗に無くなってくれる。


 言おう。

 私は口を開きかけて、少しだけ、構成員くんの対応を想像した。


 きっと。

 目を閉じたまま立ち上がって、何事もなかったかのように、

『そうですか。では、そうさせて頂きます』

 とか言って、さっさとダンボールとか紙とか片付けて、どっかに行くんだ。


「あー……」


 すごいありそう。っていうか絶対にそうだ。もう確信というか、予言だ。

 予定は『私が殺し屋ちゃんをなんとかする前提』だ。そうじゃない前提の予定も、構成員くんの中にはあるのかな。つまり構成員くんの目的は、私に諦めさせる事……?


 ――――書こう。書いてやる。


 失礼なお前の思い通りになんか、なりたくない。


 まずは家族へ。

 不器用な自分を、上手くいかない関係を想起させるそれが嫌いだった。

 苗字さえちゃんと書く。


 フルネーム、様付きだ。


 言いたいことは……そう、もっと深く関わりあいたかった事だ。臆病で、自分からは何も出来ず、そのくせ、何かしてもらう事を期待してた子供の頃から。


 書き始めると、止まらなかった。一文書くたび、またその一文から書きたい、話したい事が溢れてくる。恥も何も要らない。なにせ読まれる時には、私は死んでる。気にすることなんて何があるの?


 ふと顔を上げると構成員君が目を見はっていた。


 私が書くことに驚いてるみたい。さっきと体勢も表情も変わらず、目を開けたぐらいの違いしかないけど、そう見えた。


 筆が止まった事により、視線が合わさった。お互い、数秒見あってから、私はわざとらしく言ってやった。構成員くんが言いそうな台詞だ。


「何か問題でも?」


 構成員くんは何かを考える様に少し目を逸らし、数瞬の間を作ってから、

「いえ。何も」


 そう言って目を閉じた。


 ばーか。ばーか。ざまーみろー。


 もう全部書いてやる。私の、長い長い十七年間を。

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