13場
「目下、一番の問題は貴女の報告についてです」
そう構成員くんが切り出したのは、ぴったり一時間が立った瞬間だった。流石レトロアクト持ち。
「監視、と言うからには当然、報告義務が生じます。100時間、七日間という規定ですから、それはどんなに引き延ばせても……明日の23時59分59秒99。それがタイムリミットです。それを過ぎて報告が上がらない場合、僕以外の構成員が貴女の対応に当たるでしょう。……そうなってしまえば」
私はいいけど、ラミィはどうにかされちゃう。
「この報告がやっかいなのです。判子の件も無視できなかったのはこれも理由です。……嘘がつけない」
「頭固すぎるんじゃない? 嘘のつき方、教えてあげようか?」
「貴女に教えを請うべき所があるとしたら、唯一そこでしょうね。ですが遠慮します。…………言葉の通り、純粋に、嘘がつけないんですよ」
嘘を付いたら構成員くんの立場がまずい、とか、そういう理由じゃないらしい。
「報告はパソコンで行うのですが、嘘の報告を差し出した瞬間、それが相手側に赤文字で表記されるんです。どういう仕組みかは知りませんが、嘘がつけないパソコンなんです」
ハイテクだなぁ。その言葉で片付けられる機能なのかは知らないけど。
「前に『仕組みを探ろうと躍起になった』と言いました。この『報告』も調べてみたのです。調べたと言うより、試してみた、の方が正しいのですが。嘘はつけない。でも嘘なんてものは主観に因ります。……6《シックス》に僕が創った虚構を真実だと思い込ませて、報告を上げさせたんです。結果は通りました。嘘だと、バレなかったんです。どうやら『報告書を作成した人物の主観』に因るようです」
「つまり? あ、簡潔にね」
「灰村巳辰と別れて下さい」
「ぽかーん」
「口で言わないで下さい。貴女が聞くから、端的に、結論だけを述べたんです。続けます。…………報告には嘘がつけない。そして当然、貴女の交際記録も記入しなければならない。……『居ない』は嘘になる。『居る』は、詳細を書かなくては不自然になる。ですが……『過去に居た』ならば、しかもそれが学園の生徒ならば『人物の詳細はデータベースを閲覧の事』と引用する事で誤魔化せる」
「データベースってラミィの詳細とか書いてあるんだよね? 構成員ってみんなしつこいんでしょ? 本当にそれで誤魔化せるの?」
「僕が彼のデータを見て、一番最初に取った行動が、そのデータを抹消する事でした。僕には出来ませんが、出来る知り合いが居ます。……お陰様で、僕が直接貴女を監視する事になりましたが」
お姉さんにお願いしたんだ。愚痴でバレちゃってるよ。それに、サッチと私の部屋に泊まりに来たのにはそんな理由もあったんだ。ただワープロ眺めてるだけかと……あぁ、進行具合を確認してた、とか? じゃああれはワープロじゃなくてパソコンなんだ。小さいなぁ。
「もう彼の秘密を、これから知り得る人間は居ません。今までで知っていた人物は傍観し続けていた筈ですから、問題ありません。……報告さえ誤魔化せたら。故に、灰村巳辰と別れて頂きます。……報告さえ、もっと言えば僕さえ別れていると確信してればいいワケですから、目の前で別れ話をしてもらうなりなんなりして――」
「無理」
「……ふざけている場合ではないのですが。彼の命より、男女交際などという口約束の方が大事なんですか」
「あー、そうじゃなくてー」
見せた方が早いか。私は携帯電話を……あれ? あ、取られっぱなしだった。
「電話ですか」
言うと構成員くんは立ち上がって、机の上にあった携帯電話を返してくれた。
受け取って、もう一生忘れないであろう十一桁を押す。
耳に当ててから、構成員くんを手招きして呼び寄せた。サッチの居ない部屋は静かだ。構成員くんにも聞こえる筈。
『おぅ。なんだ?』
ラミィの声だ。よかった。ずっと聞きたかったんだ。大好きだよ……じゃなくて。喜んでる場合じゃない。別れ話……別れ話ってどうやってするんだろう。とりあえず、悲壮な声を全力で作る。
「ラミィ。……別れて。ごめんね。でも、もう限界」
『ハァ? 今度はどんなイタズラだ。もう騙されねぇぞ』
うん。やっぱり。とりあえず電源ボタンを押して、通話は終わり。構成員くんは呆気に取られてた。
「ね?」
「どの辺りが『ね?』なんですか? 今ので解ったのは、貴女の日頃の行いが相当にヒドイものであろう、という事くらいですが。全く信用されてないですし、そもそも前置きもせずそんな事言っても、信じてもらえるワケないでしょう」
だって――――信じられたら、やだ。
「僕はそれでも構いませんが。―――賭けでもしますか? 報告書に『灰村巳辰と交際中』と記入し、かつ彼の個人情報は何も記入せず提出し。……どの教員も構成員も、データ不在の『彼』に、目を付けない可能性に。上手くいく可能性が無くは、ないですよ? 不確定要素が多すぎて、確率として数値化するのは不可能です。ですが、それで貴女はいいんですか。彼の命を賭けて、貴女の幸せの為に、博打をしますか」
「本当に、別れるだけで、他の構成員に知られないの」
「嘘のつけない報告書を疑う者は居ません。同じく、データベースを疑う者も居ません」
「抹消した。つまり改竄できたんでしょ。それでも?」
「『奥の手を使った』と言いました。……データベースを改竄できる者なんて、二人と居ない筈です。いや、正直な所、タイミングが良かっただけ……偶然、改竄できる状況だったんです。その時は。……ですから、『二人と居ない』というより『二度とその機会が無い』と言うべきですか」
「それ、バレないの?」
「どうでしょう。バレない嘘は無いと言いますから。……ですが、貴女のタイムリミットまで、という条件付きでしたら僕は『絶対』と言い切ります」
「わかった」
別れるかぁ。想像した事も無かった。どうやるんだろう。
私は溜息を一つ置いてから、再び携帯電話を取り出した。




