表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
朧車  作者: 赤丸朧
第3幕 消えないマーク
31/51

10場

「なん、で?」

「何故? とは、僕が訴えたい疑問です。何故、排除以外の選択肢が存在するとお考えですか。今後の為にも、是非、耳に入れておきたいものです。可能なら、その方法を取っても構いません。可能なら、ですが」


 立ったまま、腕を組み私を見下す。強い口調は『不可能である』事を確信し、捨てきってる様にすら感じる。


「え…………だって…………昨日……」

「昨日? 昨日、何か出来事が?」


「構成員くん、『どうしようもないのをなんとかしたい』って…………言ったでしょ? ……言ったよね?」


「意思疎通に齟齬があったようですね。彼の『どうしようもない』亜因果を『なんとかする』のが僕の使命です。故に排除しようと言ってます。ご理解頂けましたか」


 怖いよ。なんでそんな事言うの? あれ? だって昨日は……いや、さっきまでは……。


「そんなの……嘘でしょ? シャレになってないよ?」

「嘘でも冗談でもありません」

「構成員くんがそんな事、言うわけない」


「僕が偽物だとでも? それならなんと言えば信じてもらえるのでしょうか。……『自分がどう思われたって、それが正しいと思ったなら必ず実行する』とでも言えば?」


 それ……昨日、私が言った台詞――――!

 信じられない。なんで今、それを言うの。本当に、そう思ってて本当に、でもやっぱり信じるって、決めたのに。


 よく、わからない。もういいよ。

 馬鹿みたいだ。あんまり他人と関わった事、無かったから……ちょっと本音っぽいの、見せられただけで、信じちゃった。馬鹿みたい。愚かだ、私は。


「でも……信じて……るのに」


 裏切られたの? 裏切られた? そんな筈ない。でも、よく、わからない。


「光栄ですね」


 まるで地を這う蟻を眺めるみたいな、つまらなそうな目。

 わからない。でも此処には居ちゃいけないって思った。外に出るな、入れるなって、ロックしてるのバレたくなかったの?


 あれ? でも、ロック掛かってなかった。クリーニング屋さんには、普通に扉を開けられた。


 ……もう、よくわからない。やだ。


 私は背後に光輪を創る。その先は……寮の裏手。雑木林の中。距離は……ギリギリいける筈。


 とりあえず、逃げる。ラミィに会いたい。


《私の背後は、雑木林に繋がってる》

「なッ…………待っ――――!」


 それを見てから構成員くんが手を伸ばすより、私がただ一歩下がるだけの方が、早い。


 雑木林に降り立つ。


「――――シックスッ!!!」


 光輪が閉じきる寸前、そんな叫び声が聞こえた。

 草一つ残らない寂しい木々の間から、枯れ草を踏みつけて後ろを見上げた。曇り空を背景としたレンガ造りの様な寮が視界に広がってる。同じベランダが並んでるけどその中の1つだけに注視する。先刻まであそこに居たのに。


 上着も何もない。寒い。私は振り返って寮に背を向けた。

 ラミィに、電話しよう。位置を割り出されたとしても光輪で逃げ切れる。それよりも連絡がつかない事の方が怖い。今直ぐ、声が聞きたい。


 運が良い。掃除して時、邪魔だったからポケットに入れてたんだ。携帯電話を取り出しながら、一歩進んだ。小枝か何かを踏んだみたいで、足の裏が傷んだ。


 十一桁が無闇に長く感じる。もっと短く出来るんじゃないの?


 焦りが、もう一度、寮に振り向かせた。構成員くんは光輪の距離を知ってる。ここに居ることもすぐにわかる。ベランダに出てしまえば、目が合う距離だ。一瞬だけど光輪の向こうの景色も見えたはず。あぁ、動かない方がいい。動けば、サッチの居場所を突き止めたみたいに、レトロアクトで更に捜索範囲が狭まる。


 わからないや。頭の中がぐしゃぐしゃだ。とにかく、ラミィの声が聞きたい。ようやく番号を押し終える。最後のボタンに指をかけ、押しながら耳に当てようとしたら。


「――――え? あれ?」


 携帯電話が消えた。


 本当に消えた。落としてない。まるで握った手から釣り上げられたみたいな感触を覚えたが最後、消えた。私はつい、上空を見上げた。枯れ木の枝と、灰色の空だけがあった。


 なに? なんで携帯電話が。


『――――シックスッ!!!』


 あの声を思い出した。

 シックス。6。6は5の後の数字。


 ――――構成員くん(ファイブ)の仲間……?


 突然、後ろから押し倒される。枯葉の上に押し付けられるて、後ろ手に拘束された。押しつぶされた肺が、呻き声を出させる。服が汚れちゃう、とか場違いな感想が浮かんだ。


「う――――ぐッ」


 この拘束のやり方に、覚えがあった。

 体育館でいとも簡単に組み伏せられた。あれと同じ型だ。


 ――――嘘でしょ。まさか。


「あ、わり! 痛かった?」


 ――――女の声。この体勢といい、殺し屋ちゃん? かと一瞬だけ思ったけど、違う。軽い口調。振り向こうとして少しだけ視界に入ったのはと魔法のコートの色だった。姿を隠してた? え、だれ……?


「ちーす! 一応初めましてだなっ! オレはペンタクル6、春端カオリ。花に織物の織りって書いて花織。花柄の姉な。あいつ、変な名前だろ? オヤジからオフクロへの、最初のプレゼントが花柄の織物ストールだったんだとさ! ちなみに、構成員は名乗るべからず、なーんて決まりはねーよ? 単にあいつが――――」


 馬乗りになられながら、頭上でベラベラばら撒かれてる事が上手く理解できない。


 ……なに? 姉? ……ペンタクル……6? 構成員?


 後ろ手に組まされた腕が、動けない。拘束されてる。何かの道具を使って。もしかして。


「どいて。離して。外して」

「――――名乗りたがらないだけで……って、それ無理」


 嘘。捕まった? こんなにあっさり?

 携帯電話、奪ったのもこの人なの? 息を、出来るだけ大量に、吸い込む。


「まー、大人しくしてくれよ? 悪いようには――――」

「助けてぇぇぇえええええッッッッ!!」

「ウォー! ……びっくらこいたぁ」


 全力を込めて、叫び続ける。躊躇わない事が大事。


「誰かぁああああッッッ!!」

「言っとくとさー、それ無駄だぜ?」


 耳元で呆れた声を聞かせられた。すぐ背後にある寮は防音設備だけど、近くにある歩道まで声が届くかもしれない。そこに誰か居てくれれば。


「システム、制音を維持。んでー、後は臨機応変に?」

「え……それ。……なんで? まほ、う?」


 食堂で、殺し屋ちゃんが使ってた、魔法。


「これ? 魔法じゃねーよ。機械だよ。構成員ならみんな使えるし。……花柄は使いたがらないよなぁ。制音できるけど、録音も同時にしてんだよ。検閲する教師とかに手間増えんだろ? だからだろーな。これ使い過ぎると担任の小言が……あ、お疲れっすー! ここ、カットでおねしゃーす!」


 嘘。嘘。捕まった。逃げ切れない。方法が無い。


「うぉ。暴れんなって。跡残っちまうぞ?」


 助けて、ラミィ。助けないと、ラミィを。


「離してッ! これ外してッ! 助けて、ラミィ!」

「暴れんな、っつーのに。あーあ。じゃ、おやすみ。……制音解除」


 まるで枯葉でも食べさせるかのように、頭を押し付けられた。止めて。離して。触らないで。行かせて。


 うなじに、冷たい何かが当てられた。二つの、刺すように肌に食い込んだ金属。何かを持ってる。大部分はプラスチック……? 形は電動の髭剃りをイメージした。


 あ……これ知ってる。……スタンガンだ。


 裸足で感じる冷たい湿った地面も、上着なしで吹きつけられる過酷な風にも、何も感じなかったのに。ゾクッとした。


 這いつくばり、次に来る電撃に震える私の上。

 まるで水の様な声。乾いた何かに、染み込ませたい。そんな意志を感じる、さっきまでと打って変わった声。


「よく見て。花柄を信じて」


 え? なに? そう聞き返す前に、

 パチっと鳴って、バチっと視界が消えて、身体が物になった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ