8幕
「構成員くん?」
もしも原付に乗っていなければ、スキップしたいような気分で寮に帰る道すがら、幾度も呼んだけど返事は無かった。無線を切ってしまったみたいだった。亜因果の確認は出来たし、それでいいのかもしれない。
少し暑いくらいに感じるエントランスを抜けて、部屋まで帰って来た。
「ただいまー」
「おかえりっ」
無駄に元気なサッチが、笑顔と共に出迎えてくれた。
上着を壁に掛けながら聞く。いつもより部屋が暑かった。
「構成員くんは?」
「いるよー。なんかしょげてるよ」
奥に進むとサッチの言葉通りの光景が見えた。片膝を抱いて、壁に背中を預ける構成員くんは悔しそうな顔をしていた。目が合うと、力なく立ち上がった。
「優柳先輩……覚えていますか」
「なにを?」
私のストレートな疑問に、構成員くんは「やはり」と呟いたきり、唇を固く閉ざしていた。
「あー」
覚えているかってもしかして、記憶があるかって事?
そういえば記憶がどうこう言ってたね。
「大丈夫、記憶あるよ。別に何もされてないし」
「記憶を改竄された人物が、自己の正当性を主張して、信じてもらえる訳ないでしょう」
「ごもっとも。じゃー、記憶改竄されちゃってる私の報告聞いて。……亜因果は見た通り、あったみたい。でも自覚は無かったよ」
「自覚が……無かった?」
構成員くんは呆然と私の目を見ていた。瞬き一つしない。ちょっと怖い。何かマズイ事言った?
「せんぱい」
「はーい」「ん!? なーにー?」
私とサッチの返事が重なる。「優柳は優柳でしょーっ!」とサッチに文句を言われてしまった。そこまでは良かった。
ただ、構成員くんと『僕は先輩を呼んでるんです』『私も先輩でしょ?』『~~~ッ』というやり取りには続かなかった。
その、サッチを呼ぶ声すら、なんとか出しているような、異様な雰囲気を壊したのに。
「僕が前に言った場所、覚えていますか。あそこに、ダッシュで行って下さい」
「……? はーいっ! あっはは!」
言うが早く、サッチは本当に駆け出して部屋を慌ただしく出ていく。
閉まっていく扉が、サッチの遠い笑い声を遮った。また、サッチに聞かせたくない話をするの? でも、部屋の隅に積まれた荷物が私の予想を砕く。この部屋はきっとロックさえ掛ければ安全なんだ。耳を塞ぐ道具もあるのに、それでもサッチを移動させるなんて。
まるで避難させたみたい。
しかも構成員くんが、例え一瞬でもサッチから目を離すとは。前に言った場所って何? 私は防空壕を想像した。
しばらく続いた無言が、構成員くんの深い溜息が沈黙を破った。その深呼吸とも取れる音の後、懐から携帯電話を取り出す。嫌な感じがした。
「何処に掛けるの」
「貴女が思ってる相手ではありません」
緊張が解けないまま、それでも安心して欲しいと暗に言われた。私の思う相手なんて、想像できないし、してない。
構成員くんから見れば、私がそう慌ててもおかしくない状況であるらしい。
構成員くんはダイヤルをプッシュしたものの、耳に当てる事はなかった。何かを話す風でもない。よく見れば、通話口を一定のリズムで指で叩いている。
ニ回――三回――――ニ回――三回――――ニ回――三回
何? なんなの? 何かのサインらしかった。モールス信号じゃなさそう。
説明も無く、数分でその行為は終わった。
そのまま、十分ぐらい構成員くんは棒立ちしてた。何をしたんだろう、と私が気にしていたのは最初の数分で、何も言わないなら待つしか無いと腰を据えてしばらく経った時だった。構成員くんがやっと口を開く。
「状況を整理します。……最悪、と言っていいでしょう」
「なんで?」
私の中ではベストに近い結果だった。本当はラミィが何も知らず、何も亜因果を持っていないのがベストだけど、確かめに行く前にありえないと言われたから期待はしてなかった。私はラミィを信じていたし、それが正しかったと証明されただけだ。
それだけでいい。
「今朝方、僕の言った事を思い出してください」
『学園は彼を排除しようとするでしょう。先輩のように薬を飲めば、という話でもありません。存在型と呼ばれる由縁ですね』
おかしいな。
構成員くんの言った事なんて長ったらしくて小難しい事なんていっぱいあるのに。
正確に、即座に、その部分が思い起こされた。
自覚もなく、私に、他人に亜因果を発言させた人間を、亜因果を持つ学生を管理し、抑制を目指す学園が、放っておくのか?
「もし彼に自覚があったなら……まだ交渉が出来ました。貴女に亜因果を発現させた理由も問える」
なおも落ち込んだままの様子の構成員くんは、すがるように台詞を吐く。
「本当に、彼には自覚が無かったんですか。どうやってそんな事を確かめたんですか。『絶対』の方法なんて、この場合、無い筈ですが」
珍しいな。構成員くんが希望的観測をしてる。
「あいんがまほうぃっちくらふとがくえんこーせーいん」
「それを……言ったんですか」
「二人にもね。……あと『助けて』って言ってみた」
「………………」
自覚が無いなら、排除される。
自覚が有るなら、私に嘘を突き通した事になる。
これってさー……どっちがいいの?
「わかりました。その話はもういいです。貴女にとってはそれが最悪に思えるでしょうが現状はもっと悪いです。
『出生の情報がデータベースにあった』
『亜因果発現の前日に性交渉』
『一瞬で消えた印』
……この三つの、事実が重要なんです。データは改竄出来る。性交渉をしてたとしても、吉祥天を絡めれば発現理由は誤魔化せる。ですが三つ目だけは、言い訳が効きません。三つ目が事実なら一つ目とニつ目も繋がってしまいます。……彼に自覚が有ろうが無かろうが関係なくなりました。貴女に嘘を付いていた上、消される事さえありえます」
「なんでそーいう事、言うかなぁ」
頭がクラクラしてきた。小さな子供に戻ったみたい。
目の前に在るだけの事実に涙を浮かべるばかりで、嫌だ嫌だと駄々をこねてる。
学園がラミィを消そうとする……? 殺されるって事?
殺し屋ちゃんがサッチを撃とうとしたみたいに。
学園がラミィを? それって、構成員が? それなら。
これって、聞いてもいいのかな。聞いたら引き返せないような気がする。でも、頭がクラクラしてた私はそのまま口も滑らせた。
「構成員くんが…………?」
苦悩の逡巡が間を作る。そして躊躇いがちに唇が動いた。
「いいえ。僕が彼を、という事はありえません。相応の人物が……僕の知り得る範囲の中なら、各部から選抜された人物が対応に当たるでしょう。教員や、ソード1――――」
「そんな事聞いてないっ!」
構成員くんはその行為に賛同するのかって事を聞いてる。協力して、今まで得たラミィの情報を流したりするのかって聞いてるの! 悩んだって事は、わかってるでしょッ! 言葉の表面だけ取って誤魔化すな!
「僕は……『どうしようもない』のを何とかしたくて……構成員になったんです。今こそその、『どうしようもない』状況でしょう」
「そんな言葉、信じられない。『平穏に過ごす生徒達の為に、彼には死んで頂きます』とか平気で言いそう」
言ってから、あの時の事を――――サッチへの対応へ、悔し涙を流した姿を、思い返した。
言い過ぎた。本当にそう思ってる筈なのに。
構成員くんは私の気も知らず、自嘲気味に笑って、私の失言を受け入れた。
「で、しょうね。もし貴女がそんな顔をしなければ、僕は彼を排除する事に賛成したかもしれません」
……顔? 自分の顔なんか見えない。
「今、貴女の手に刃物が握られていたら、僕は銃を握る事もせず、ただ逃げ出すでしょうね」
意味、わからない。もういい。
「さっき、誰に掛けてたの」
「そこからですか。……お教えできません。それに僕にも何を引き換えにしてでも守りたいモノがあります」
サッチの防空壕の準備だったの? 自覚が無かった事を言った時、構成員くんの反応は異常だった。もう、この展開が予想の中の一つにはあったのだろう。
私は携帯電話を取り出した。電波が悪いのにイラつきながら窓際に歩いた。
「彼の無事を確認、ですか。そこまで信用されてなかったと思うと、少し悲しくなりますね」
『自業自得ですが』とでも言いたげに、自嘲する。
「信じてるよ。『自分がどう思われたって、それが正しいと思ったなら必ず実行する』って。私の命と知らない男の命。構成員くんからしたら明白でしょ」
私がラミィを守りたいと思えば、完全に学園の敵対者になる。殺し屋ちゃんが喜々として拳銃向けてきそう。
「慰めに感謝します」
そう言う構成員くんの瞳は遠かった。あまり慰めにはなってなさそうだった。
耳に当てた電話から流れるコールが止まらない。ラミィは無事だろうけど、それでも早く声が聞きたい。
ラミィは無事だろうけど……?
私は構成員くんを信頼してるみたいだった。
そして。
通話が繋がった事が、信じて良かったと、私に思わせた。
『おぅ。……なんだ、戻ってこねぇのか』
「うん。それだけ言っとこーと思って」
『おぅよ。つまりポテト食っていいんだな?』
「うん。……手、使わないで味わってね」
『ハァ!? んでだよっ』
「手、汚れるでしょ? そんな事もわからないの?」
『あぁ……俺とした事が、気付かなかったぜ。サンキューな……っておかしいだろがぁッ!』
「はい。がんばってねー」
『あ、待て』
「ん?」
『あの、よ。……あー……つーか、寒ぃよな』
「切っていい? 電話代、タダじゃないんだよ」
『電話代ぐらいなら払ってやるよッ! だから聞けッ!』
「なら早く言え」
『あー……クソがッ! 明後日、どうすんだよッ』
「明後日? あー……」
十二月二十四日。聖なる夜。
「去年と同じでいいんじゃない?」
『なんか適当だな、オイ。……まぁいいけどよ』
「そうじゃないけど……。あー、ちょっと遅れるかも」
監視の時間がどう計算されてるかわからないけど、その日がたしか、七日目だ。サッチは夕方だった。私がどうなるかはまだわからない。
『おぅ。わかった。……んじゃな』
声色から感じるに、少し傷ついたらしい。繊細だなぁ。今はそれどころじゃないだけ。勘違いしないでね。私がそう、小さく笑ったのを聞いて、ラミィは舌打ちして電話を切った。
大丈夫。無事。
「終わりましたか。如何でしたか」
わかりきった事をわざわざ言わせたいらしい。
「いい気分だったけど、今の質問で台無しになった」
「それは幸いです。浸っていられる状況ではないので」
そんなのわかってるよ。
どうしよう。どうすればいいんだろう。そんな無音が部屋中を埋め尽くしてから、しばらく経った。構成員くんは壁に背中を預けていて、私はカーペットに座り込んでる。突然、構成員くんが声をあげた。
「そもそも。あの魔法器は正しく作用していたのか? ……優柳先輩、判子、返して下さい」
ハッとして、私はポケットに急いで手を突っ込んだ。
その間も構成員くんは思考を吐き出し続けてる。
「彼の亜因果を想定した、最速で消える時間はニ分。それがニ秒前後で消えてしまった。……約1/60程度」
その言葉の意味する所に気付いたが早く、私は判子のフタをとって、掌に押しつけた。
離せば、ハッキリと、掌に黒い校章が乗ってる。
「――――17時36分23秒88」
構成員くんは、判子が押された時間を正確に口にした。
「判子が壊れている可能性があります。ニ秒で消えた事をありのまま信じたのも、おかしな話です」
私は掌をじっと見ながら、構成員くんに判子を返した。構成員くんは私を真似るように、手に押す。そして判子を仕舞った。ついでに、耳に嵌めたままだったスピーカーと、マイクの無線セットも返す。
それからは一時も、目を離さなかった。
『優柳先輩。貴女、いつから食べて無かったんですか』
構成員くんが買ってきたコンビニのご飯を食べる時も。
『シャワーくらい浴びてはどうですか』
勝手に部屋のシャワーを先に使われた時も。
『服、ちゃんと着て下さい。だらしないですね』
細かいこと指摘された時も。
『髪、乾かさなくていいんですか。風邪引きますよ』
本当に細かいこと指摘された時も。
布団の中で微睡みの波に揺られても。
ずっと、待ってた。
亜因果の印が消えるのを。
もし消えなかったら、どうすればいいんだろう。
『自覚があったなら……まだ交渉が出来ました』
それって、今からじゃダメなの?
ラミィに亜因果を自覚させて、私みたいに自分で抑えればいい。
ラミィに、自覚、させれば――――。
大きな波がきて、為す術もなく攫われた。
現実と思考と想像が絡み合い、交じり合い、そのどれでもなくなっていく。
『なんかサッチの様子がおかしい』
そう言って、私は授業開始直前の廊下を歩いてた。これ知ってる。数日前だ。
授業開始のチャイムを聞きながら、校舎の中、その端まで歩いて行く。階段を昇る。その先には屋上への扉がある。
私は始めて屋上に来た時の事を思い出しながら、ドアを空けた。
風が髪をぐしゃぐしゃにした。
そうだ。
それで、ふと目をやったら、自分の亜因果を自覚してしまったサッチが――
――――――――あれ? なんで?
「よぅ。テメェ、オレの亜因果、知ってんだろ」
だからって、なんでラミィまで飛び降りるの?
「ハァ? 飛び降りるぅ? 俺が? そんなワケねぇだろうが。――――オレが飛び降りたぐらいで死ねるかボケ」
え?
「優柳、わりぃな。……マジで」
なにそれ。らしくないよ。
『――――わたしががんばったからじゃなかった!』
それは吉祥天の場合。
じゃあ、ラミィが自覚したら。
運だけですら、サッチはああなった。
それ以外も、人間に関わる全てを左右できるラミィなら。しかもそれを、私に光輪を発現させた様に、無自覚に使っていたら。
『優柳の隠してる優しさを、わたしに見せてくれたからでもなかった!』
「テメェ、俺に好きだって、言ったよな。あれ、亜因果が言わせたんだよ。わかるか?」
違うッ! ――――ううん、それでもいいッ!
だって本当に――――好きだから。
そうだ。私はきっと、サッチに言ったみたいに、そう言う。
「好きだったからな、テメェが」
そんな事、普段、言わない癖に。
私も、好きだよ。両思いだね。なら、いいでしょそれで。
『一位を取り続ければいい。それが本当は誰になるかなんて、誰にもわかりっこない』
そう言っても、私は止められなかった。
サッチは飛び降りて、運良く発言した私の光輪で、なんとか助けられた。もしかしたら、サッチの『吉祥天』がそうさせたのかもしれない。
それがラミィの持つ、魂の干渉だったらどうなるの?
ラミィはゆっくり私の頬を撫でた。私はただ、その温もりを感じてて。
最後の声を聞く。
「悪かったな。……テメェの全て、台無しにして」
私は……いや、その娘は眩しさに目を眩ませてた。でもすぐに目を開いて辺りを見回してる。
――え? なに?
まるで、気付いたら突然、屋上に居たみたいな態度。そして目の前に立つ男を一瞥してから、すぐに踵を返す。
――なに? どうしたの?
『自身の記憶さえ封印してる可能性があります』
つまり、他人の記憶を左右するなんてもっと簡単で。
嘘でしょ。
その娘は足早に、校舎内へ戻る扉に近づいていく。ノブを握った後、少しだけ、振り向いた。それからすぐに視線を扉に戻して、小さく、不満そうな溜息をついてから扉を引いた。
まるで。
自分とサッチだけの場所に、見知らぬ男が入り込んでて、不機嫌になったみたい。
忘れたの? ラミィを? 私が?
躊躇いも無く、扉に吸い込まれていくその娘。
ラミィはただ、色の無い眼でそれを見つめている。
やめてッ! そんな顔させないでッ! なんで忘れちゃうの!? 貴女の! 初めての他人だったんだよッ!? ラミィが居たから、私は一歩を踏み出せた!
なのに、どうして忘れられるのッ!
今すぐ、引き返して! 証明してよ、私の気持ちをッ!
扉が、閉じきる。二度と元に戻らない、断絶が、確かにそこに生まれる。
私は、叫ぶ。叫ぶ。
だめぇぇえええええッ!!
「だッ! …………あ、いったぁー」
自分の叫び声で目が覚めた。右目に激痛が走る。二段ベッドの上段。ふかふかの布団に包まる、私。そして右目が痛む。
「『だ』…………?」
部屋の隅で毛布に包まってるであろう構成員くんが、小さな疑問の声を上げた。
そこでようやく、夢だったんだと、納得できた。
あ、印は……? 布団から飛び出す、私の手。
あ――――印が消えて――。
「いっ……たぁ」
右眼の痛みに、開けられない。確認出来ない。
「コンタクトレンズを着けたまま眠るからですよ」
構成員くんの小さな呟きが聞こえた。痛みは、私の目が、見ないほうがいいよ、って言ってるみたい。
でも、見なくちゃ始まらない。頬を伝っていた涙を掬って、右眼に摺り込む。
ゆっくり、開けた。
目に飛び込んでくる、黒い印が、私から思考を奪った。動けず、そのまま見つめ続ける。
しばらくそうしてから、ようやく何を確認するべきなのかを思い出した。枕元の充電器に刺さってた携帯電話を引きぬいて、時間を確認した。
午前、五時半前。
大体、十二時間。もしも判子の印が1/60になってるんなら、優に一ヶ月、印が消えなかった事になる。あと十四分で、一ヶ月経つ計算。
私はゆるりと布団から這い出して、梯子を降りて座り込んだ。向かいで毛布に包まってる構成員くんが眼を閉じていて、寝てるのかと思った。でも、だいたい一分おきぐらいにふと目を開けて手の印を確認する。そしてまた眼を閉じる。そんな事を繰り返してた。
「これさー。……もう大分経ってるけど、これってラミィに亜因果があるって事だよね?」
返事は来なかった。
顔を上げてみたら、構成員くんは驚きに目を見開いてた。
大丈夫だって。そうだったとしても、覚悟はできてる。
「優柳先輩が、喋った」
ボソリと、漏らしてた。驚いたのはそっちかぁ。
「喋りくらいするよ。人間だもの。…………みつお」
「昨日からずっと口を開かないし、身じろぎ一つしないものですから。もうこの可能性に縋るしかしないのかと」
綺麗に無視された。聞こえなかったのかな。
「具体的に動くことだね。……………………みつお」
「確かに。この場で何もしなければ、何も打開できない。……しかし。警戒から藪をつついて蛇を出す結果になってしまった。こんな事、知らなければどうとでも出来たのですが」
「ほんとうのことがいちばんいい。…………みつお」
構成員くんは突っ込んでこない。会話が途切れた。
しばらく無音に浸っていると、構成員くんが溜息を漏らした。溜まった疲れを吐き出してるみたい。
「そうやって他人の言葉を借りないと喋る事もできませんか。正気を保てませんか。痛々しいです。止めて下さい。まだ、黙って置物の様にしていた方がマシです」
何言ってるの? 確かに楽しくはない。でも、別にそこまで滅入っても居ない。
そう思った。
でも、私の口は動かなかった。言おうとはした。
でもただ口がパクパク動いただけで終わった。
認めたくない。考えたくない。
「貴女の質問に答えましょう。僕がわざわざ時間を計ったのは、彼の亜因果を確かめたかったのもありますが、それがどれほど異常であるかを図る意味合いもあります。結果は……言うまでもないでしょう」
そんな事言ったって仕方ないでしょ。
ラミィは私の記憶奪うし!
構成員くんは意地悪な事言うし!
サッチは馬鹿になっちゃうし!
殺し屋ちゃんは止めてったって止めてくれないし!
色々思い出したら、泣けてくる。
本当に、ポロポロと涙が落ちた。
「申し訳ありません。言い過ぎました」
「別に……。謝らなくていい。構成員くんの所為にするほど、構成員くんに期待してないし。まだ…………わからないし。…………みつお」
「そうですか」
私は袖口で涙を拭った。口に出してから不貞腐れている自分に気づいて、ただの八つ当たりのように『期待してない』なんて言ってしまった。構成員くんはそれ以降何も言わなかった。そのまま時間が過ぎていく。ここまで静かだと、サッチの小さくてうるさい目覚まし時計の秒針の音も、ハッキリと聞き取れた。
「10、9、8……」
やがて構成員くんのカウントが始まった。
「7、6、5……」
これで印が消えなかったらラミィの危険性が確定するの?
「4、3、2……」
構成員くんは言いながら、手を見てる。
さっきの意地悪を聞いた私は、見る気も起きない。
「……1、……。……申し訳ありませんが、少し仮眠を頂きます。ロックはしませんが、部屋を出ず、また誰も居れないで下さい。……少し、状況を……整理、したい」
構成員くんは耐え切れない様に眠りに落ちた。てめぇーは寝ながら状況を整理できんのかよ。
もういいよ。心底頼りにならない男だ。
ラミィだったら。
違う。そんな無根拠な希望は要らない。気持ち、切り替えなきゃ。この際忘れてしまってもいい。動けないよりかは、構成員くんなんかに馬鹿にされるよりかは、いくらかいい。
「さっきのは嘘。ごめんなさい。頼りにならないけど…………期待してたよ。サッチを助けた構成員くんに。だから謝れ。変な期待をさせた罪で」
「申し訳、ありま……せん」
よし。
と言っても。部屋を出れないんじゃ、することも少ない。
相変わらず、私は膝を抱えて、悩みっぱなしだった。




