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朧車  作者: 赤丸朧
第3幕 消えないマーク
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4場

 私は部屋の扉の前で腕組をして仁王立ちしてる。後ろではパジャマ姿の雛鳥が鳴いてる。


「腹すいたー!! 余は朝食を所望ぢゃー!」


 構成員くんが『少し待っていて下さい』と出て行ってからかれこれ四時間程立とうとしてる。寝起きの悪いサッチでさえ、何も言わなくても起きてる時間だ。


 どうにも、部屋のドアが開かない。元々、時々開かなくなったりする、立て付けの悪い扉だとは聞いていたけど、まさか私の身に、こんな時に、それが起ころうとは思ってもみなかった。オートロックが変に作用してしまったのか。私も昨日の夜たいやきを食べたぐらいで流石に空腹だ。


 構成員くんが外に出た後で良かった。と思ったけど、携帯電話は繋がらなかった。流石、電波が弱い会社と言われるだけはある。構成員くんを待つしか無いのか。此処に戻って来た時に扉が開かなければなんとかしてくれるだろう。


「うあああ! 死ぬぅうう! ……あっははは!」


 後ろから腰辺りにタックルしてくるサッチがそろそろうざったい。早く戻って来ないか、なんて思ってると。


 インターホンが鳴った。


「ん」「お? 構成員くんッ!?」


 でも内線は繋がらないみたいだし、部屋は防音されてるしで、どうにか扉が開かないだけでこちらの状況を察して欲しい。


 せめて、ノックでもしてみようか。防音はされているけど、振動なら伝わるかもしれない。防音にそれが通じるのかは謎だけど。


 私は足早に近づいて、寄りかかるように手を伸ばしたら――存外、扉は軽かった。


 そのまま、扉は開かれてしまって、私の体重は行き場を無くして、私は倒れこむ。


「入りますよ…………なにしてるんですか」


 足元に倒れる私に、構成員くんの心底馬鹿にする見下した視線が降り注いだ。何も言えない。


「おっかえりー!」

「ただいま戻りました」


 そのまま事もなげに玄関に立つ構成員くんは、まさにその台詞にふさわしい、サラリーマンみたいな手荷物だった。脇に抱えた大きなコート。肩から下げるキャンプに使うようなバッグ。手にはハードケースの鞄。一体、なんの準備をしてたんだか。


 帰った父親に、学校であった他愛もない出来事をさも事件のように話す子供みたいに、サッチは状況を伝えた。


「それでね、開かなくなっちゃった!」

「そうですか」

「もぅー! 死ぬかと思ったよ!」


 疲れて家に帰ったら子供が纏わり付いて来た父親みたいに構成員くんは適当にあしらってた。


「あー、サッチの言ってる事本当だよ。開かなかったの」

「それはたった今、聞きました。貴女は先輩をなんだと思ってるんですか」


 あれ。てっきり信じられないのかと思ったけど、信じた上で平然としているらしい。


 もしかして。


「構成員くん、お腹空いてない!? ポヘチ食べる?」

「頂きます」


 サッチめ。私が食べたいって言ったら『ポヘチはね? 深夜食べるとサイコーなんだよ?』とか真顔でわけのわからない理由で断った癖に。


 じゃなくて。


「もしかして構成員くんが扉ロックしたの?」


 サッチが離れたのを好都合、と問いただす。


「そうです。その様子だと、部屋に食料を常備してなかったようですね。てっきり貴女の事だから、枕の下にたこわさのビンでもしまってると思いました。申し訳ありません。下手に動かれては困る状況だったのです」


 しれっと答えた。真顔なので、それがボケてるのか馬鹿にしてるのか、それとも本当にそう思ってるのかもよくわからない。私は不満気な視線を投げかける。


「事前に伝えたいたら、どうせ貴女の事です。『あー、なんでかなーと思って』とか言いながら部屋中ひっくりかえして、仕組みと外に出る方法を探そうとするに違い無い」


 私は別に何もしてないのに、なんだか逆に視線に責められる。


「そんな事しないって」

「どうだか」


 たった数日とはいえ、私の中では交友関係の深い方な構成員くんなんだけど、未だ信頼は勝ち得てないらしい。ポヘチを取ってきたサッチが構成員くんと談義に入ったのを知り目に、私は部屋の隅に積み重ねられた構成員くんの荷物に寄っていく。準備ってそんなに時間掛かるの? ラミィに聞けばいいだけなんじゃないのかな。


「『少し待ってろ』って言った割りに遅かったね」


 言いながら、とりあえず部屋の隅に置いてあるハードケースに近づいていき、しゃがみこんそれを倒して、中を開ける。どんな準備してたんだか。


 黒光りする銃身。軍隊の兵士が両手で使うような大きな銃だった。詳しくはないけれど、アサルトライフルとかいう物ではなかろうか。


 あー、本物? まぁいいや。見なかった事にしよう。あと、扉をロックする前にこっちをロックして。


「『少し待ってろ』なんて言ってません。少しの準備があるから待ってろ、と言ったんです。この種の装備をこの短時間で、あらゆる展開を想定して揃えた事は褒めて頂いきたい所なんですが」


 そう不満気な声を漏らす構成員くんをよく見れば、構成員くんの髪はさっぱりしてる。


「頭、一人で洗えたねー。えらいねー」

「シャワーぐらい浴びさせて下さい」

「それで? 私達を監禁しつつ、自分は優雅なブランチでも済ませたの?」

「監禁ってナニ!? 構成員くんが閉めてたの!?」


 あ、しまった。うるさくなりそうだから避けてたのに。


「はい、そうです。申し訳ありません」

「ううん。いいよ!」


 えぇ。なんでそんなに素直なの。さっきまでサッチ『管理人は何をやってるかー! 出会え出会え! 電柱でござる!』(殿中だろうけど、発音からして電柱としか聞こえない)とかやかましかったのに。不満気な私の表情を読み取ったらしく。


「構成員くんはね? わたし……達? の為を想っての事なんだよ?」


「そうです。理由を知っていたとしても、短時間だとしても、軟禁されるというのは精神的な苦痛を伴います。知ってしまった今は解放されているんですから、苦痛は覚えないでしょう。完璧です」


 なんかそれっぽい事言ってるけど、サッチの『……達?』という辺りには同意だ。サッチは『わたしの為だけだったら嬉しいんだけどな』とかそんな意味で、私は『どーせサッチの事しか考えてないでしょ』という意味だ。


 構成員くんにせっつかれながらほぼ昼食に近い朝食を学食で済ませて、また部屋に戻ってくる。すると構成員くんは、荷物の中からあるものを取り出してサッチに渡した。


「これをつけて、じっとしていて下さい」

「えぇ!? なにこれ! なんで!? だってこれ……」

「お願いします」


 真剣なその一言に、サッチはコクリと首を下げて答えた。そして装着させられるアイマスクとヘッドホン。私は問う。


「何がしたいの?」

「何……とは? これからする話を先輩に聞かせる訳にはいかないだけです。それぐらいわかるでしょう」

「あー」


 そうだろうなぁ、とは思う。だけど視覚と聴覚を同時に、それ専用の道具で奪われるなんて、飛行機の中で寝る時か、後は。


 身に付けたサッチを見る。


 ゴツゴツとしたアイマスク、と言っていいのかわからない物、それと似たようなデザインのヘッドホン。ところどころにあるベルトは固定するためのものだろう。完全に拘束具だ。


 いや、構成員くんも拘束具だと思ってるんだろうけど。


 はっきり言って、その手のプレイにしか見えない。そういうのがあるのは知ってたし、どこがいいんだろうと疑問だったっけ。


 最初は背筋を伸ばして緊張気味に唇を固く結んでいたサッチは、段々とその場にへたり込むように足を崩し、背中を丸めて首だけは宙を向いてる。段々と頬が上気して口元がだらしなくなってきてる。


「こ、構成員、くーん。……こわいよぅ」とか色っぽい声を上げたりもしてる。


 疑問は解決した。イイらしい。


「いいの?」


 とサッチに……ではなく、構成員くんに聞く。なんかサッチが妄想に塗れてるみたいなんだけど。


 私がサッチを指さすと、構成員くんは深いため息とと共に立ち上がり、サッチの前に膝立した。


「先輩……僕が、怖いですか。そう、ですよね。申し訳ありません。ですが今の貴女を放って置く訳にいきません。貴女に恨まれたとしても、僕は貴女を――」


 そう自嘲気味に笑ったり、懺悔してみたり、改めて決意を固くしたりしてる構成員くんだけど、違うから。そのサッチの全身の小刻みな震えはそーいうんじゃないから。わからないのかな? ……わからないか。構成員くんは大抵真面目モードだし。そんな発想すらなさそう。


 サッチの前から離れた構成員くんが、漏らす。


「はやく、済ませましょうか」

「そうだねー」


 サッチの為にも、という点では同じだった。

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