7場
翌日、目覚めはあまり良くなかった。
『二の轍は踏まない主義なんです』なんて言いながら撃ち殺されたら溜まったもんじゃない。
流石にやりすぎちゃったかな。謝ろうと思ったけど、なにせ名前も知らない。サッチは確か電話口で聞いてた。教えてもらおうとしたけど『やだ』と笑顔で言われて教えてくれなかった。クラス、組やらの個人情報全般もそうだ。要らない時には飄々と現れるクセに、必要な時には会えない。電話しようかと思ったけど、その件で怒らせてるのだからやりようがない。
昼休みになるまで、ずっと悶々としてた。
「ねぇ、優柳?」
今まで一度も話した事なかったようなクラスメイトも、何故か――いや、理由はわかっているけれど――今日に限って話し掛けてくる。
そして朝だけじゃ、しつこい左さんを撒けなかった。応えようと振り返った時、胸の内に振動を感じた。『ごめん、ちょっと待って』と手で表現してから、電話に出る。『え……そんな堂々と』とか左さんは何かに驚いていた。
「もしもーし」
『僕です。今日の放課後、予定はありますか』
意外な人物の声を聞いた瞬間、耳から携帯電話を離した。これ、私の携帯電話だよね?
構成員くんだった。しかも怒りもしてない平常運行の。
つまり、声だけでもムスッとしてるのがわかる感じ。
「あー……これ、サッチの電話じゃないよ。私、優柳」
『……? 何を当たり前の事を』
本当に私に用事らしい。構成員くんは私に対して何も思ってないらしい。でも気が済まないから謝っておこっか。
「あー、昨日はごめんねー。…………めんねっ!」
『最後のはなんですか』
「サッチの真似。喜ぶかなって」
しばしの無言。構成員くんはそのまま返事もしない。
私の機転が功を奏したみたいだった。これから構成員くんになにか言われそうになったらサッチの真似しよっと。
『で、予定はありますか』
なんか声色が一段階、冷たくなってるけど気にしない。
「予定は無いよ? でもデートならサッチを誘って。サッチの誕生日とっくに過ぎてるけど、クリスマスプレゼント選びなら茶葉とティーセットがいいと思う。『本格的な紅茶、入れたり飲んだりしてみたい』とか数日前からずっと言ってたよ。……んじゃ、またねー」
そう言って、電源ボタンを押して通話を切る。その直前、『ふむ……紅茶ですか』とか唸ってる声が聞こえた。
「ごめん。でー、何?」
左さんは隣の席を勝手に借りて座り、紙パックのお茶をチューチュー吸ってて、こっちを見向きもしない。聞こえなかったかな? そんな筈ないと思うけど。
すると、また携帯電話が振動したので、取る。
『そんな事を聞くために電話したんじゃありませんッ! 病院に行って下さいッ!』
わぁ、頭がおかしいと遠まわしに言われちゃった。
「えぇー。すごーく『有用な情報を手に入れたぞ』って顔してたじゃん」
『顔、見えないじゃないですか』
「細かいなー。で、何ー?」
『病院に行って下さい』
「それはもういいから」
『いえ、そういう意味ではなく。……そういう意味でも行った方がいいと個人的には思いますが。……身体検査を受けてきて欲しいんです。先輩も受けたものです。亜因果の中には、行使した際に、脳の微細な血管、筋肉や骨の一部、等の肉体的な弊害を起こすものもあります。その為の精密検査です』
「あー……わかった」
そういえば、サッチもそんな事言ってたっけ。
『では、詳細は後ほどメールで送ります。必ず目を通しておいて下さい』
「はーい」
『それと、昨日の事ですが。……こちらこそ、申し訳ありませんでした。この電話は私用の物ですが、構成員としての任も帯びています。……察して欲しかった所ですが、その事を説明していませんでした。それに先輩は新しい状況に置かれて、浮き足立ち気分が高揚して、だから貴女にしつこく強請ったのでしょう? 正直、耐え難いものがありましたが、それは僕の自業自得です。貴女を責める権利は無かった。……それと、任を帯びていると言いましたが――』
「サッチは強請ってないよ。私から『掛ける?』って聞いたの」
『…………どうしてあの時、撃たなかったんだろう』
その言葉を残したきり、切れた。後悔するがいい若者よ。いずれそれが汝の糧になるであろう。その台詞は『今はもう撃てない状況になってしまった』事を表してる。根はいい子なんだろうな。ふぅ、と一息つく。電話を仕舞う。
『任を帯びていると言いましたが』……別に私用で掛けて来るなと言ってる訳ではありません。先輩からなら大歓迎です。貴女は死ね。
とか、かな? あながち大外れでもないと思う。今夜あたり、またサッチに掛けさせよう。
「ごめんねー、で、何? 右ちゃん、いないの?」
ずっと待たせてしまっていた左さんに向き直る。
「右は遊びに行ったよ。でさー、サッチにカレシが出来たって噂なんだけど」
だよねー。
朝からずっとその話だ。同室である私にひっきりなしに話し掛けてきた、普段は話さないクラスメイト達。左さんはその尖兵になり果ててる。人気者はつらいねー。サッチの人気だけど。
私はもう疲れた。この分だと本人は人生に疲れきってるんじゃないかな。
体力に自信の無い私としては。
「そうらしいねー」
と、暗に知らない事を仄めかして逃げるのが上策。
ただ、思わぬ……というか、抜けてるというか、油断したというか。誤算があった。
「今の電話さー、サッチのカレシでしょ? どういう事かね? ん? ……ねー、みんな! ちょっと来てー!」
あれ? 構成員くんの言葉は聞こえなくても、私の言った事はそのまま聞こえてた訳で。 私、なに言ったっけ?
左さんの口が歪な笑みを作る。朝のクラスメイト達の台詞が脳裏を過る。
『知らないって、そんな訳ないでしょ! 隠してるー?』
『ダンナァ、こいつ、何か知ってやすぜ』
『隠すと為になんないよー? いいのか?』
『もう……いいって。……やめよう、な? もういいよ』
『落ち込み過ぎ! マジウケルんですけどっ!』
『お前、それでも女かよ……男虐めて楽しいか?』
『さいっっっっっこー!!!』
ごめんね、名も知らない男子。私、頑張ってみるけど…………めんね?
構成員くんの呪いかな。私はどっと疲れた。
「サッチの所為で、もうクタクタだよ」
放課後、サッチと敷地内を歩く。珍しくサッチが一緒に帰ろうと迎えに来てくれた。
「えぇー! わたしの所為じゃないよ! 構成員くんの所為だよ! わたしも疲れたー。……カノジョの苦労は全部カレシの所為にしていいんでしょ? あっはははは!」
冗談だよね? 誰に吹きこまれたの。
「それ、構成員くんに言わないでね」
「え? シノちゃんが言ってた冗談だよ! なんで?」
なんでって。想像しちゃう。言ったらきっと、死んだ魚の眼をしながら『はい。その通りですよ』とか呟いて、今にも灰になりそうになりながら笑うのを。
「言ったらフラれちゃうかもよ」
「え……わかった。ぜっったい、言わない!」
「そうして」
嘘だ。本当は何を言われたって……どんな事があったって構成員くんからフル事は無い。
それが気に入らないのかな、私は。そう思いながらサッチの戯言を受け流したり、意地悪で返したりしつつ、やがて正門に近づいていく。ちらほらと同じ方向を歩く生徒が居たけど、いきなり道の端まで寄ったり、歩くのが遅くなったりした。何かを避けているみたい。
見れば正門をすぐ出た脇に、ガラの悪い男の三人組が居た。
1人目はかなり背が高い。2人目は普通。3人目はかなり小さい。大中小。私はなんとなく近寄っていく。そこには教員と思われる大人も居て、なにやら注意を受けているようだった。
「君たちはなんだね?」
「だぁから、人待ちだっつってんだろーが」
「何処の、誰を、待っている? それだけ教えてくれればいい」
対応してたのは『大』だった。教員の口調は疑いに満ちていて『どーせ悪巧みでもしてるんだろう』なんて嫌悪の色が口調の端々に出てる。その身なりからすれば当然かもしれない。
近づくにつれ、確信に変わる。
敵意むき出しで呆れを露にする『大』
そっちのけで学園敷地に興味津々な『中』
無関心、無感動でそっぽ向いてる『小』
三人は、私の知り合いだった。
「なにしてるの?」
三人と教師から視線が注がれる。次に見たのは、『大』の勝ち誇った顔。教員よりも身長が高いので、若干見下す形になってる。若干の不満気な口調を、教員が投げてくる。
「君達の連れ沿いか?」
達? って後ろにサッチが居るんだった。でも。
「あー……そうです」
一応、そのまま受け止めておく。
「こんな格好してる者が校門に居たら、騒がれるのも当たり前だ。気をつけろ」
そう言って教員は去っていく。高等部のCクラスも相当だと思う。
教員が数歩いった所で、三人は同時に『チッ』と舌を鳴らした。息ぴったりだなぁ。
「で――「えぇ! この人達、優柳の知り合い!?」
なにしてんの? と言う前に、サッチに割り込まれた。
「あー、うん。知り合い? というか、私の彼氏」
サッチはポカーンとしてた。そりゃそうか。
説明を追加しようとする。
「私の彼氏の…………あー」
背が高い………見ればわかる。
ガラの悪い……見ればわかる。
男………………見ればわかる。わからなきゃ困る。
二年程前に知りあって、一年程前から付き合い始めて。ってそこから話すの?
「彼氏」
「か、彼氏の彼氏、さん? ……え」
そんな会話を繰り広げているうちに、今度は三人組の方が『で、コイツは誰よ?』なんて顔をしはじめる。
「こっちはサッチ。私のルームメイトの……あー」
亜因果『吉祥天』を持ってる……………言えない。
昨日めでたくないけど彼氏が出来た……どうでもいい。
今、絶賛ドラッグなテンションの………言ってどうするの。
「ルームメイト」
「ルームメイトのルームメイトはテメェだろーが」
「仕方ないじゃん」
「何がだよ」
不機嫌そうに言って、そっぽを向を向いてる。どこか様子がおかしい。いつもだったら無駄に真っ直ぐ目を見て話すし、私がボケればテンション高くツッコんで、その後笑ってくれるのに。後ろに居る二人もニヤニヤしながら何も言わないし。
「優柳、名前! まず名前から! ね!?」
サッチが爆笑を抑えながら助言をくれた。それぞれ目線で指し示しながら言う。
「こっちのサッチはサッチ。で、大と中《B》と小《C》ね」
「ラミィ? って、あのラミィちゃん?」
ラミィの眉がピクリと動いた。
「テメェ……人形、まだ持ってたのかよ」
「別にいいでしょ」
「つーか、よぅ。テメェが「えぇ! ラミィちゃんって人間だったの!? 笑える!」
ラミィが何か言ってたけどサッチの叫びに掻き消された。その台詞と、相手の事を全く考えてない爆笑は、原因を知ってても相手に怒りを与えかねない。現にBとCの表情からニヤけが消え、ラミィの頬がピクリと動いて、三人ともサッチに不審者を見るような視線を送る。
「っていうかキミ、大っきいねー。何センチ? バスケしてみない? あっははは! こっちの子はちっさいね!」
――――え、馬鹿! 小さい、と言われた瞬間、Cの腕が、藪から飛び出る獣の様に、サッチに伸びる。目で捉えられても、身体はそれに反応してくれない。
声を上げる暇すら無かった私の代わりに、Cの手首をラミィが掴んで、その腕は止まっていた。数秒、力比べをするように震えてから、
「クソがッ」
Cはそう零して、大仰にラミィの手を振り払う。その勢いのまま、踵を返して歩き出す。
Bも『あーあぁ……白けたわぁー』とか言いながら半分ニヤけてたけど、目は笑ってない。そのままCの後を追う。
二人が見えなくなるまで、ラミィは黙ってた。私も何も言えずに居た。ただ、サッチは私を見たり、ラミィを見たりと忙しなかった。自分が何を言ったか、わかってないの? 他人の外見的特徴を悪し様に笑うなんて。
不意に、ラミィが動いた。その腕がサッチの胸ぐらを掴んで引き寄せる。サッチはつま先が宙に浮いた。
「――ッ! 待って!」
私は二人の間に飛びかかって、ラミィの腕を外そうと試みる。サッチのワイシャツとリボンを巻き込むように握られた手は、鋼鉄で出来ているみたいに動かなかった。
「やめて! ってばぁー!」
ラミィは私の声なんか聞こえないという演技をしながら、
「テメェ。舐めんな? 犯されてぇのかこのクソ女が」
ドスを効かせる。それがただの脅しだってわかってても、私の両腕に篭る力を増やすのに十分な色を持ってた。対するサッチは、
「く、るしい、でしょ! シャツが伸びちゃう! 伸びる……あっはははは! さっきのCって人にやってあげればきっと解決するよ! あっははははは!」
笑ってた。ラミィは怒りの演技を止めて冷たい憐れむ目をして、サッチを開放した。
「あぁ! シャツがしわしわ! あっははははは!」
尚も笑うサッチを見たラミィが腑に落ちないモノを感じて『どういう事だよ』なんて視線を向けてくる。言ってしまおうか、少し考える。
『持病の為の薬で精神が不安定なんだよ』とか? でも、1を知って満足できるの? なんて病気だ、とか、どんな病気だ、とか聞かれたら? 解らない、知らないで通せるの? そもそもこの状態は亜因果に関係してる。それを口に出していいのだろうか。
そこまで考えてから、その視線に気付かないフリをした。フリをしてから、意味深で迂闊だな、とか思った。幸いにも、ラミィは問い詰めて来たりしなかった。
まるでさっきの事を流してくれたように、ラミィは振舞った。サッチも……流す以前の問題だけど、明るい。私が独りで思い悩んでるうちに、私達は三人で帰路についていた。
「えぇ! 嘘! みんな中等部生なの!?」
「おぅ。…………3年な」
だからって、この立ち位置はおかしい気がする。私、サッチ、ラミィの順だ。
私の彼氏なんだけど。
普通に話してくれてるのは良かったと思う。でもなんだか納得もいかず、薬の件だったり、病院に行かなくちゃいけなかったりで、むず痒さが胸中を渦巻く。
不機嫌そうにサッチに対応してるけど、どうも様子がおかしいし。大体、いつもだったら意味もなく自信のありそうな笑みを湛えて不敵にしてるのに。
今は私やサッチをチラチラ見ながら、あっちこっちと視線が泳いでる。そういえば、私とサッチが現れた時からBとCがニヤニヤし始めてた。私を見ただけで、あんな顔はしないよね。何かイタズラを企んでる時以外は。
今はBとCは離れてるし、企みは終わってる筈。それでもラミィが挙動不審な理由は?
今現在で、いつもと違う所は?
――――――サッチ?
「これ、どこ向かってんだよ」
「先輩には敬語を使え!」
「…………どこ向かってんスか」
「『どこへ向かっているんでしょうか』だ! ばか!」
「…………『どこへ向かっているんでしょうか』」
『寮!』『……そうスか』
思考とは関係なく耳に届いてしまうラミィの応対にカチンと来た。私には敬語なんて使った事ないのに、サッチには簡単に使うんだ? しかも寮の場所どころか部屋の場所さえ知ってる癖に、何、無意味な事聞いてるの。そんなにサッチと話してたいの?
「何、鼻の下伸ばしてるの」
「マジかよ、眼ェ瞑りながら歩いてんのか。だからコケんんだよテメェは」
意地悪に笑うラミィ。何? この対応の違い。相変わらず私と目を合わせようとはしない。
私は意味もなく携帯電話を取り出して、構成員くんからのメールを見直していた。病院の場所、時間の指定、向かうべきカウンター。等々が書かれてる中に『発現した状況を細かく聞かれる可能性があります。出来るだけ詳細に答えられるようにしておいて下さい』とか書かれてる。『亜因果』に関わる単語が全て伏せられている事にすら気づいてしまう程、読み返してた。
「そんな情けない顔、初めて見た」
「どんな顔だよ」
ラミィの横顔を見る。言うほどデレデレはしてないけど。
なんか挙動不審だし、こう、不機嫌さでごまかしてる感じがするし。
「仕方ねぇだろうが」
「仕方ないよねー。サッチ可愛いもんねー。胸、大っきいもんね。……BとCもニヤけてたっけ。彼女が居ても、ちょっと可愛い子が居たら、すぐそっち向いちゃうんだ」
「わたしのカレシはそんな事ないよっ! あっははは!」
「私もねサッチ。10分前まではそう思ってたよ」
サッチに罪は無いとはいえ、ちょっと邪魔だな、とか思った。ほんと、ちょっとだけど。
「テメェに照れてんだよ! わかれよッ! …………はぁあー言ったらスッキリしたわ」
「はー?」
何言ってんだこいつ。初めて会った時から変わらない顔だよ。化粧も髪型も制服も、なにも変わってない。情緒溢れる愛の科白があったわけでもない。
言い訳するの、以外に下手なんだな、とか思った。
溜息をつきながら、携帯電話を操作する。もう何度読んだ事か。
『発現のきっかけ、というのは重要事項です。把握し、再発防止に繋げる事ができます。くれぐれも病院の先生相手にふざけないで下さい』
「あー、……クソ。つーか、んでだよ! あァ!?」
ラミィは濁った言葉を吐き出し続けてる。全然、スッキリしてないじゃん。
最後は、もう自棄になったのか。
「テメェがあの日以来、溜り場に来ねぇからだろうが!」
と声を荒げて、舌打ちで閉めた。あの日以来? 最後に会ったの、いつだっけ。
サッチの飛び降り前日かな。
前日…………なにしてたっけ。
狭いベッド。裸の二人。薄い毛布にくるまる。背中と背中をくっつける。事後は気まずい。
『あー……なんで私の手、届かないんだろ』
『つーかよ、テメェはそもそもなんで疑問に思うんだよ』
『さぁ? なんでだろ』
『なんでだよ』
なんの意味もない会話をして、お互いが眠っていない事だけは確認。
あ、思い出した。ラミィと初めて……したんだ。
正直、行為自体は『まぁ、こんなもんかー』って感じだったし、全く痛くなかったし、余韻に浸る――次にラミィと顔を合わせる――間もなくサッチとの屋上の件があったりで、浮かれてる場合でもなくて。
忘れてた。
そして同時に『きっかけ』にも思い至った。
「思い出したかよ。つーか、忘れるか? フツー」
多分、ラミィはまだそっぽを向いてる。
多分というのは私もラミィを見れなくなったからで。
サッチは私達の間に流れる空気をただ不思議がってる。
気付いたら寮に着いていた。
「じゃ、ねー! ラミィもねー!」
「ラミィとか呼んでんじゃねーよ」
サッチは寮の中に駆け込んで行った。
「テメェは帰んねーのか」
「これから病院いくからー」
「はぁ? んでだよ」
「あー、妊娠じゃないよ」
「してたら、オレの子じゃねーな。……んで?」
「身体測定。ラミィが前回、サボらせたから」
「悪かったな。強要した事なんざ、一度もねーが」
「付いてくる? 入り口までだけど」
「あー……BとCんとこ戻るわ」
戻ってサッチの件、フォローしないとね。いつ闇討ち私刑するかわからないし。
「あのサッチっての。付き合い、長げーのか?」
「ラミィ達より長いよ」
数時間だけ。
「サッチと縁切れ」
なんとなーく理由はわかるけど。続きを待った。
「オレ等がなんでこんな格好してっか、解るか?」
「趣味でしょ」
「無ぇ、とは言わねぇが。……目印と警告だ。近づくな、絡むなってな」
随分と中等部生らしい、子供っぽい理屈だ。
でも、子供っぽいからこそ、万人に効き目がある。同じような人種を集め、違う人種を避ける。なのに、サッチにはそれが効かなかった。
「オレがあそこでシメなかったのは、そんな必要も無ぇと思ったんだよ。いつか必ず、サッチは痛ぇ目見るな」
だから、縁を切れ。火の粉が移らないうちに。
そんな忠告に私は無言の拒否を返す。
縁を切れ、かぁ。言葉だけ見れば、命令形だけど。
「ま、好きにしろや」
ラミィが私に命令なんて、したことない。
鼻を鳴らして、自信ありげな笑みに唇を歪めて、踵を返した。悠々と前だけを真っ直ぐ見て歩く、その背中は『テメェにゃ、オレが居るからな』なんて言ってる気がした。
彼女の欲目かもしれない。理由もなく確信してしまうのは。
そして、構成員くんが告白した時の事が脳裏を過ぎった。
『側に居させて下さい』
似てるし、目的も同じだし、結果も同じはずだけど、ラミィのと何かが違う。そう思った。




