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剣の道~拾われた子が30年素振りを続け最強に至るまで~  作者: 涙目


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第9話 「初めての友」

この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。

十歳の春。


長い冬が終わり、山にも若葉が芽吹き始めていた。

いつものように、レンは井戸から水を運んでいた。

すると、道場の門の前で一人の少女が困ったように立っていた。


年はレンと同じくらい。


大きな荷物を抱え、きょろきょろと辺りを見回している。


「あの……。」


レンが声をかけると、少女はほっとしたように笑った。


「ここが青雲道場で合ってますか?」


「はい。」


「お父さんにお弁当を届けに来たんです。でも道場って初めてで……。」


少女の父親は、道場に食材を届ける商人だった。

レンは黙って荷物を持つ。


「案内します。」


「ありがとう! 私はリナ。」


「あなたは?」


「……レン。」


「よろしくね、レン。」


その笑顔に、レンは少し戸惑った。

自分の名前を笑顔で呼んでくれた子は、初めてだった。


---


昼。


リナは父親の仕事が終わるまで道場で待つことになった。

弟子たちが稽古する姿を、楽しそうに眺めている。


「あっ!」


レンが水を運んでいると、リナが駆け寄ってきた。


「毎日お仕事してるの?」


「うん。」


「大変じゃない?」


「……慣れた。」


「じゃあ、剣のお稽古もするの?」


レンは少し困ったように笑う。


「みんなが帰ってから。」


「一人で?」


「うん。」


リナは不思議そうな顔をした。


「先生は教えてくれないの?」


「教えてもらう立場じゃないから。」


その言葉に、リナは少しだけ悲しそうな顔をした。


---


夕方。


商人の仕事が終わるまで、リナは道場の庭で待っていた。

やがて日が暮れ、弟子たちが帰る。


レンはいつものように木剣を持った。


ヒュッ。


ヒュッ。


黙々と振る。


その姿を、リナはじっと見つめていた。


百回。


二百回。


五百回。


汗が地面に落ちる。


「すごい……。」


思わず声が漏れた。

レンは木剣を止める。


「見てたの?」


「うん。」


「ずっと一人でやってたんだね。」


レンは少し恥ずかしそうにうつむく。


「うん。」


するとリナは、満面の笑みで言った。


「頑張ってね。」


「私、応援する。」


その一言だけだった。

褒められたわけでもない。

強いと言われたわけでもない。

それでもレンの胸は、今までにないほど温かくなった。


「……ありがとう。」


その言葉を口にしたのも、久しぶりだった。


---


その夜。


千一回目の素振りを終えたレンは、小さく空を見上げた。


今日は少しだけ、木剣が軽く感じた。


誰かが自分を見ていてくれる。


たったそれだけで、一振りはこんなにも変わるのか。


レンはまだ知らない。


この春に出会った少女が、これから先も何度も彼の人生を支える存在になることを。


そして三十年後、世界最強と呼ばれる剣士の隣には、変わらず「頑張ってね」と笑う一人の友がいることを。

お読み頂き、ありがとうございます。

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