第8話 「冬の誓い」
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
九歳の冬。
辺境の山は、白い雪に覆われていた。
吐く息は白く、井戸の水には薄い氷が張る。
それでもレンの一日は変わらない。
朝は薪を割り、水を運ぶ。
昼は洗濯をし、馬の世話をする。
夜は誰もいない道場で木剣を振る。
「九百九十八……。」
「九百九十九……。」
「千。」
そして最後に。
「千一。」
百一回目の約束は、今も変わらない。
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その夜。
あまりの寒さに、木剣を握る指の感覚がなくなった。
木剣が手から滑り落ちる。
ゴトッ。
レンは黙って拾う。
もう一度振る。
また落ちる。
何度も、何度も。
手の皮は裂け、血が木剣ににじんだ。
「……今日は、やめておけ。」
珍しく道場主が声をかけた。
「明日でもいい。」
レンは木剣を見つめた。
そして、ゆっくり首を振る。
「明日の千一回は……明日の千一回です。」
「今日の分には、ならないから。」
老人は黙った。
その言葉に、返す言葉が見つからなかった。
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レンは木剣を握り直す。
痛い。
冷たい。
それでも振る。
ヒュッ。
ヒュッ。
一振りごとに、雪が舞い上がる。
やがて千一回目を終えた頃には、空から大粒の雪が降り始めていた。
レンは木剣を抱え、空を見上げる。
「来年も……振れるかな。」
その願いは、自分の強さではなく、「明日も今日と同じように振れること」だった。
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道場主は、その小さな背中を見送りながら独り言を漏らす。
「強さとは、一日で手に入るものではない。」
「昨日を積み重ね、今日を積み重ね、その先にようやく見えるものだ。」
「この子は、まだ九歳。」
「だが、剣を続ける心だけは、誰にも負けておらん。」
雪は一晩中降り続けた。
翌朝、道場の庭には誰よりも早く、小さな足跡が一列だけ伸びていた。
その先では、一人の少年が静かに木剣を構えている。
今日もまた、新しい一振りが始まる。
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