第10話 「約束」
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
リナが道場を訪れるようになって、半年が過ぎた。
父親の荷馬車に乗って、月に一度。
荷物を届けるたびに、彼女はレンを探した。
「レン!」
「こんにちは。」
最初はぎこちなかった返事も、少しずつ自然になっていく。
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「また振ってる。」
夕暮れ。
いつものように、レンは木剣を振っていた。
ヒュッ。
ヒュッ。
リナは縁側に座り、頬杖をついて見ている。
「飽きないの?」
「飽きない。」
「毎日同じなのに?」
「昨日と今日では、少し違うから。」
リナは首をかしげた。
「何が違うの?」
レンは木剣を見つめる。
「昨日より、少しだけまっすぐ振れた気がする。」
「昨日より、少しだけ軽い気がする。」
「本当に少しだけだけど。」
リナは笑った。
「レンらしいね。」
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帰る時間になった。
荷馬車へ向かう途中、リナは立ち止まる。
「ねえ、レン。」
「うん?」
「約束しよう。」
「約束?」
リナは小指を差し出した。
「いつかレンが剣士になったら、最初に見せて。」
レンは困った顔をした。
「僕は剣士じゃないよ。」
「雑用係だから。」
「それでも。」
リナは真っすぐレンを見る。
「レンは毎日頑張ってるもん。」
「きっと剣士になれる。」
その言葉に、レンは少し考えた。
そして、小さく小指を差し出す。
「……うん。」
二人の小指が結ばれた。
「約束。」
「約束。」
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荷馬車が遠ざかる。
リナは窓から大きく手を振っていた。
レンも、小さく振り返す。
姿が見えなくなるまで。
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その夜。
レンは木剣を握った。
「剣士……か。」
今まで考えたこともなかった。
自分は雑用係。
それでいいと思っていた。
けれど、初めて誰かが信じてくれた。
「なれる。」
その一言が胸に残る。
レンは静かに構えた。
一振り。
また一振り。
千一回目を終えたあとも、木剣を下ろさない。
「……約束だから。」
誰にも聞こえない声でつぶやく。
その夜、レンは千五百回まで木剣を振り続けた。
約束を守れる自分になるために。
遠く縁側から、その姿を見ていた道場主は静かに微笑む。
「人は、自分のためだけでは限界がある。」
「だが、誰かとの約束は、人をさらに強くする。」
夜空には、秋の星々が静かに輝いていた。
レンの剣の道は、まだ始まったばかりだった。
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