第11話 「初めての一太刀」
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
レンが十一歳になった頃。
素振りは、もう五年続いていた。
数えきれないほど木剣を振り続けた。
手のひらの皮は何度も剥け、そのたびに硬くなった。
肩も、腰も、足も。
幼い頃とは比べものにならないほど鍛えられていた。
だが、レンは気づいていない。
自分が少しずつ変わっていることに。
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その日、弟子たちは竹を使った試し斬りの稽古をしていた。
「刃筋がぶれている!」
「もっと腰を入れろ!」
師範代の叱責が飛ぶ。
竹は切れても、断面はささくれ立っている。
レンは離れた場所から、その様子を見つめていた。
(切るって……どういうことなんだろう。)
レンの素振りは、ただ振るだけ。
何かを斬ったことは、一度もない。
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夜。
誰もいなくなった道場。
庭の隅には、昼間使われた細い竹が一本だけ転がっていた。
「……一本だけ。」
レンは竹を地面に立てかける。
木剣を構えた。
「斬るんじゃない。」
「いつも通り振るだけ。」
そう自分に言い聞かせる。
一歩踏み込む。
木剣が振り下ろされる。
――ヒュッ。
カシン。
竹は倒れた。
レンは首をかしげる。
「あれ……?」
近づいて見る。
竹は、真ん中からきれいに割れていた。
ささくれ一つない。
「偶然……かな。」
レンはもう一本拾う。
同じように振る。
また、真っすぐ割れた。
三本目も。
四本目も。
結果は同じだった。
レンは嬉しいというより、不思議だった。
「師範代みたいには、まだ全然振れないのに……。」
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その様子を、道場主は静かに見ていた。
「もうそこまで届いたか……。」
老人は小さく息をつく。
素振りだけを五年。
普通なら飽きる。
普通なら辞める。
だが、この少年だけは違った。
剣を覚えたのではない。
剣そのものが、体に染み込んでいる。
老人は誰にも聞こえない声でつぶやく。
「まだ教えるには早い。」
「だが、お前の剣は確かに育っている。」
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その夜。
レンは木剣を布で丁寧に磨いた。
傷だらけの木剣。
拾ってから何年も使い続けている相棒だ。
「今日もありがとう。」
そう言って静かに頭を下げる。
明日もまた、この木剣を振る。
ただ、それだけ。
レンはまだ知らない。
五年間、誰にも教わらず振り続けた一太刀が、すでに並の剣士ではたどり着けない境地へ足を踏み入れていることを。
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