第12話 「旅立ちの日」
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
春。
レンは十二歳になっていた。
道場に来て、もう七年。
背丈は大きく伸び、細かった腕にも少しずつ筋肉がついてきた。
だが、生活は何一つ変わらない。
朝は水汲み。
昼は雑用。
夜は素振り。
千一回。
毎日、欠かさない。
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ある日、一台の豪華な馬車が道場の前に止まった。
王都からの使者だった。
「カイル殿。」
「王立剣術学院への入学が決まりました。」
弟子たちは歓声を上げる。
「すげぇ!」
「さすが天才!」
カイルは誇らしげに胸を張る。
荷造りを終え、道場を去る日。
彼は庭で素振りをするレンを見つけた。
「お前、まだそんなことしてるのか。」
レンは木剣を下ろし、一礼した。
「うん。」
「素振りだけで強くなれるわけないだろ。」
「剣は人と戦って覚えるものだ。」
「……そうかもしれない。」
レンは素直にうなずいた。
「でも、僕にはこれしかないから。」
カイルは少し黙る。
そして鼻で笑った。
「十年後、王都で俺の名前を聞くことになる。」
「その頃も、お前は雑用をしてるんだろうな。」
そう言い残し、馬車へ乗り込んだ。
レンはその背中を見送る。
羨ましいとは思わなかった。
自分には、自分の毎日がある。
それだけだった。
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夕暮れ。
道場主が縁側に座っていた。
「レン。」
「はい。」
「王都へ行きたいと思ったことはあるか。」
レンは少し考える。
「……ありません。」
「どうしてだ。」
「まだ、この道場で振ることがあるから。」
老人は目を閉じた。
「そうか。」
それ以上は何も聞かなかった。
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その夜。
レンは千一回目の素振りを終える。
木剣を空へ向け、小さく息を吐く。
遠く離れた王都では、天才が新たな舞台へ向かう。
辺境の小さな道場では、誰にも知られない少年が、ただ一振りを積み重ねる。
やがて二人は再び出会う。
一人は「天才」と呼ばれ。
もう一人は「雑用係」と呼ばれたまま。
その時、積み重ねた時間の重みが、初めて明らかになる。
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