第5話 「才能」
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
七歳になった春。
道場には、王都から一人の少年が入門してきた。
名はカイル。
貴族の三男坊で、幼い頃から「天才」と呼ばれていた。
入門初日。
師範は木刀を渡す。
「一度振ってみろ。」
カイルは軽く構え、迷いなく振り下ろした。
ヒュン――。
空気を切る音が、稽古場に響く。
師範代が目を見開いた。
「……七歳とは思えん。」
弟子たちもざわめく。
「すげぇ……。」
「本物の天才だ。」
その輪の外で、レンは静かに木刀を並べていた。
誰も、雑用係には目もくれない。
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夜。
弟子たちの話し声が聞こえる。
「才能って、最初から決まってるんだな。」
「努力じゃ埋まらねぇよ。」
レンは、その言葉を聞きながら庭を掃いていた。
「才能……か。」
自分には、ない。
剣を教わったこともない。
褒められたこともない。
だから考えるのをやめた。
ないものは、数えても増えない。
あるものだけを数えよう。
今日も木刀がある。
今日も振れる。
それだけで十分だった。
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その夜。
レンは木剣を握る。
一振り。
二振り。
百振り。
三百振り。
五百振り。
千振り。
いつもより腕が重い。
昼間の「天才」という言葉が、頭から離れない。
「僕には……才能がない。」
木剣を見つめ、小さくつぶやく。
その時だった。
「誰が決めた。」
振り返ると、道場主が立っていた。
レンは慌てて頭を下げる。
「皆が……。」
老人は首を横に振る。
「才能とは、始める理由ではない。」
「続けた者だけが、最後に知るものだ。」
レンは黙って話を聞く。
「十年続けた者にしか見えない景色がある。」
「二十年続けた者だけが届く場所がある。」
「三十年続けた者など……わしも見たことがない。」
老人はレンの肩に手を置いた。
「だから、誰にも分からん。」
「お前に才能があるかどうかは、未来のお前しか答えを知らん。」
レンは木剣を握り直す。
そして、小さくうなずいた。
「……はい。」
その日から、レンは「才能」という言葉を気にしなくなった。
自分にあるのは、今日も木剣を振れる時間だけ。
それで十分だった。
遠く離れた場所で、「天才」と呼ばれたカイルは、誰よりも速く強くなっていく。
そして誰もまだ知らない。
三十年後――。
天才と呼ばれた者たちがたどり着けなかった場所へ、雑用係のレンが静かに歩み続けていることを。
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