第4話 「初めての木剣」
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
春が訪れた。
レンが道場へ来てから、一年が過ぎていた。
六歳になったレンは、少しだけ背が伸びた。
それでも仕事は変わらない。
朝は水汲み。
昼は洗濯。
夜は掃除。
そして、誰もいなくなった稽古場で素振りをする。
毎日、百一回。
いつしか二百回、三百回と増えていった。
誰に言われたわけでもない。
気づけば、それが当たり前になっていた。
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ある日、弟子の一人が古い木剣を地面に放り投げた。
「こんなのもう使えねぇ。」
柄にはひびが入り、刃の先は欠けている。
「薪にでもしとけ。」
レンは黙って木剣を拾った。
その日の夜。
道場の裏で紙やすりをかけ、ひびに木工用の接着剤を流し込み、布を巻いて補強した。
何度も何度も磨く。
朝日が昇る頃には、傷だらけではあるが、まだ十分振れる一本になっていた。
「これなら……まだ使える。」
それ以来、その木剣はレンの相棒になった。
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数日後。
いつものように素振りをしていると、道場主が後ろから声をかけた。
「その木剣、気に入ったか。」
「はい。」
「新品が欲しいとは思わんのか。」
レンは少し考えた。
「……これで十分です。」
「どうしてだ?」
レンは木剣を見つめながら答えた。
「この木剣も、捨てられたから。」
「僕も、捨てられてました。」
「だから……僕が使います。」
しばらく沈黙が流れる。
やがて道場主は、小さく笑った。
「物も人も、使い方次第ということか。」
レンは意味がよく分からず首をかしげた。
だが、その言葉だけは心に残った。
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その夜もレンは木剣を振る。
一振り。
二振り。
三百振り。
五百振り。
木剣は傷だらけだった。
けれど、不思議と折れる気配はない。
まるで持ち主の「まだ終われない」という思いに応えるように。
誰も知らない。
この傷だらけの木剣が、三十年後もなお、レンの手の中にあることを。
そして世界最強の剣が、誰も見向きもしなかった一本の木剣から始まることを。
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