第3話 「百一回目の意味」
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
朝。
「レン! 起きろ!」
まだ夜明け前だ。
「はい!」
五歳のレンは飛び起き、いつものように井戸へ向かった。
桶いっぱいの水は重い。
小さな体では何度もよろける。
それでも、一滴もこぼさないよう歯を食いしばった。
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その日、道場には新しい弟子が入門した。
レンより二つ年上の少年。
立派な身なりで、腰には新品の木刀。
「才能があるそうだ。」
「将来は王都の騎士だな。」
大人たちは口々に褒める。
レンは少しだけ、その木刀を見つめた。
自分が使うのは、割れ目を何度も削って直した古い木刀。
比べるまでもない。
「雑用。」
声が飛ぶ。
「ぼーっとするな。」
「はい!」
レンはまた走った。
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夜。
誰もいなくなった道場。
レンは今日も木刀を握る。
一振り。
二振り。
十振り。
五十振り。
百振り。
昨日より少しだけ速い。
昨日より少しだけ真っすぐ。
その時だった。
「何をしておる。」
振り返ると、道場主が立っていた。
レンは慌てて頭を下げる。
「すみません! 勝手に木刀を……」
「構わん。」
老人は一本の木刀を手に取る。
「素振りは何回した。」
「百回です。」
「そうか。」
老人は静かに頷いた。
「では、明日も百回やれ。」
「はい!」
レンは少し残念そうな顔をした。
老人はそれを見逃さなかった。
「もっと振りたいか?」
レンは小さく頷く。
「……はい。」
老人は初めて笑った。
「なら百一回振れ。」
「え?」
「百回は命じられた数だ。」
「百一回目は、自分の意思で振る一回だ。」
「誰かにやらされる努力は、いつか終わる。」
「自分で選んだ努力は、終わらん。」
レンは黙って木刀を握り直した。
そして、百一回目を振る。
風を切る音が、静かな夜に響いた。
その一振りはまだ弱い。
けれど、それは誰かのためではなく、自分自身のために振った最初の一振りだった。
道場主は背を向けながら、小さくつぶやく。
「教えることは少ない。」
「だが、あの子はいずれ、自分で剣の答えを見つけるだろう。」
その日からレンは毎日、必ず「百一回目」を振るようになった。
そして、その一回が積み重なり、誰も想像しなかった境地へとつながっていく。
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