第41話 初めての一本
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
朝の組稽古。
門下生たちが向かい合い、木剣を構える。
最近のレンは少し変だった。
ガルドと立ち会ってから。
組稽古に出るようになってから。
相手を見る時間が増えた。
そのせいか、門下生たちも面白がってレンを誘うようになっていた。
その様子を師範は少し離れた場所から見ていた。
しばらくして、
師範が手を上げる。
「レン」
レンが振り向く。
「前へ出ろ」
ざわりと空気が動いた。
門下生たちが顔を見合わせる。
レンは言われるまま前へ出る。
師範は近くにいた門下生を指差した。
「お前もだ」
相手の少年は驚いた顔をしたが、すぐに頷いた。
二人が向かい合う。
礼をする。
木剣を構える。
周囲が静かになった。
レンが人前で模擬戦をすること自体が珍しかった。
開始の合図。
相手が踏み込む。
速い。
だがレンは慌てない。
木剣を流す。
相手が前へ出る。
その瞬間、レンの頭に夜の稽古場で見た光景が浮かんだ。
相手がいる。
だからこの動きになる。
木剣が再び来る。
流す。
相手が追う。
半歩ずれる。
相手が追う。
まただ。
レンは見ていた。
剣ではなく。
人を。
何をしたいのか。
どこへ動きたいのか。
どこへ動かされているのか。
その流れを。
周囲から見れば、それはいつものレンだった。
受ける。
流す。
避ける。
それだけ。
だが、
レンの中では違った。
今までは、そこで終わっていた。
今日は終わらない。
流す。
相手が来る。
追う。
そして、
そこに形ができる。
不意に相手の肩が開いた。
大きな隙ではない。
だが見えた。
自然に。
無理なく。
そこへ至るまでの流れごと。
レンの木剣が動いた。
乾いた音が響く。
相手の肩で止まる。
静かだった。
相手が固まる。
見ていた門下生たちも反応できない。
レン自身も止まっていた。
木剣を打ち込んだまま。
しばらくして。
相手が小さく息を吐いた。
「……参った」
レンは木剣を引いた。
礼をする。
ただ、それだけだった。
勝ったという実感はなかった。
驚いていたのはむしろ自分だった。
打てた。
そう思った。
昔見えた隙。
あの時は動けなかった。
打ち方が分からなかった。
だが今日は違った。
流れの先に、その一太刀があった。
だから振れた。
師範は黙って見ていた。
周囲の門下生たちはざわついている。
「今の見たか?」
「レンだろ?」
「当てた……よな?」
その声を聞きながら、レンは木剣を見下ろした。
流す。
動かす。
追わせる。
そして打つ。
夜の稽古場で考えていたことが、一本につながった気がした。
師範が小さく頷く。
誰にも聞こえないほどの声だった。
「ようやくか」
レンはその言葉を聞いていない。
ただ木剣を握り直す。
少しだけ。
本当に少しだけ。
師匠の背中に近づいた気がした。
お読み頂き、ありがとうございます。




