第40話 「その先」
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
その日の夜。
レンはいつものように稽古場へ残っていた。
「九百九十八……」
「九百九十九……」
「千。」
そして最後に。
「千一。」
百一回目の約束を終えたあとも、木剣は止まらない。
レンは静かに構えた。
昨日から気になっていることがある。
型の中に相手がいる。
それは分かった。
では。
その先は何だ。
木剣を流す。
相手が動く。
半歩動く。
相手が追う。
そこで止まる。
昨日までと同じ。
だが今日は違った。
昼の組稽古を思い出す。
相手は追ってきた。
なら。
その後は。
レンはゆっくり続きを考える。
相手が来る。
だから流す。
追わせる。
崩す。
その先。
「……」
不意に、
師匠の剣が頭に浮かんだ。
山で見た熊。
道場で見た立ち会い。
木剣を交えるたびに見てきた背中。
どれも途中で終わっていなかった。
流して終わりではない。
避けて終わりでもない。
必ず。
最後がある。
レンは小さく息を止めた。
そうか。
木剣を流す。
相手を動かす。
崩す。
そのためじゃない。
打つためだ。
その瞬間だった。
今まで繋がっていなかったものが一つに繋がる。
受ける。
流す。
動かす。
崩す。
全部。
全部。
打つためだった。
レンは何度も型をなぞる。
流す。
追わせる。
打つ。
流す。
動かす。
打つ。
なるほど。
だからこの動きなのか。
初めて見えた気がした。
だが。
木剣が止まる。
「……違う」
思わず呟く。
打つため。
それは分かった。
だが。
それだけなら。
シオンと師匠の違いが説明できない。
どちらも相手を見ていた。
どちらも相手を動かしていた。
どちらも最後には打っていた。
なら、
何が違う。
レンは木剣を握り直す。
分からない。
けれど、
前よりは少し近づいた気がした。
流す。
動かす。
打つ。
夜の稽古場に木剣の音だけが響く。
答えはまだ見えない。
それでもレンは振り続けた。
その違いが見える日まで。
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